転生賢者に憑依された後の赤ん坊の物語
———これはダメだ。この子供も欲しい成長が望めない。
そんな、とある賢者が転生した後に“この口”で言った言葉は赤ん坊が言うにはあまりにも不気味で———そして賢者はその子供から消えていった。新たな転生先を目指してどこかへ行った。
賢者が勝手に失望した、カス。
そんな俺の話。
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子供の頃から魔法が得意だった。
「すげー!」
「やべぇー! こりゃ世界一の魔法使いも夢じゃねーな!」
兄弟達からの賞賛は、心に何も残さない。
天才と称されてもそれは、賢者が一度この身に宿った時に剥がれたパワーとセンスが、こびりついた垢のようにへばりついて肉体に残っていたもの。自分の力ではないと思うと同時に、この姿こそが自分だとも思う。
あれは不思議な出来事だった。
賢者が身に宿って好き勝手ほざいてから出て行くまで、母親はそばで見ていた。恐怖したという、恐ろしく感じたと言う、だが“賢者の発した言葉は自分の子供の言葉”なのだという感覚もあったようで———詳しく説明はできないが賢者も俺だったのだろう。産みの母親が感覚でそう言うのだから、そうなのだ。
こういう達観した感じも賢者譲りだろう。逆に母と父から受け継いだのは内面ではなく、外面。
父は剣士だった、母も剣士だった。しかし俺は賢者の力を持った魔法使い。
体の作りはそれなりに鍛えられるものであったが、センスは魔法より。剣術もできるが、脳の中の容量が剣を扱う事よりも魔法を扱う方に割かれていた。
明日、俺は魔術学校へ入学する。
兄弟達は剣術や武術の学校———
「…………寂しいな」
達観してるはずだったが、自然と“この口”はそう言った。
どうしてこの寂しく思う心を、魂を、賢者は連れてってくれなかったのだろう。そしてなぜ俺はこの身体に居るのだろう。
俺は誰なんだろう———