第8話
「まずは武器と防具だな……」
そう思って街の地図を見てみた。
この通りは冒険者ギルドに近いな……。
「とりあえずこっちに行ってみるか」
そしてしばらく歩くとお店らしきものが見えてきた。看板には『ガンド武具店』と書かれている。
扉を開けるといかにも鍛冶師というようなドワーフのおじさんがいた。
「らっしゃい」
そう言いながらこちらに近づいてきた。
「あの、武器と防具を買いに来たんですけど……」
「ほぉ、お前冒険者か?にしてはずいぶん若いな……それより……まぁいい、予算はどのくらいなんだ」
「えっと……銀貨50枚以内なら大丈夫です」
「ふむ、小僧……お前冒険者になったばかりだろ」
なぜバレた。
「どうして分かったんですか?」
「そんなもん一目見りゃ誰だって分かるわい、武器も防具も持ってない冒険者が居るわけないじゃろ」
ごもっともです……。
「確かにそうですよね……」
「まぁわしに任せておけ、初心者用にすべて見繕ってやる。そうじゃな銀貨50枚となると短剣と胸当て、それと砥石に剥ぎ取り用ナイフとホルスター、それに血のりを拭く布……あとはサービスでポーチを付けてやるわい」
思ったより色々付けてくれるみたいだ。
「結構たくさんあるんですね」
「当り前じゃ、全部必須じゃぞ。特に刃物なんてものはメンテナンスを怠ると一瞬でダメになる。定期的に砥石で研ぐんじゃぞ。それとモンスターを切った後は必ず血のりを拭け」
血のりを……?どうしてそんな面倒なことを。
「どうしてですか?」
「ふむ、初めて刃物を扱うものには知らないと思うが血というのは鉄分が豊富でな。一瞬で刃物が錆びてダメになる。それだけじゃない、生き物の皮膚下には脂が張っているんじゃがこれが曲者でな……脂が付いた状態だと切れ味がとんでもなく下がる。そんな状態で格上の相手と遭遇してみろ……死ぬぞ」
まじか、刃物ってそんなに取り扱いが大変だったなんて……。アニメとかだと敵をバッタバッタと切り裂いてモンスター倒したりしてたけどあれって空想だったのか……。
「それと血のりが付いた状態で一度でも鞘に納めてみろ、二度と使い物にならなくなる。よーく頭に入れとけ」
「は、はい……気を付けます」
「まぁ、そんなに気負いすぎるでない。ミスリルやオリハルコン、アダマンタイト素材の剣なら雑に扱っても多少は大丈夫だ。そんな素材が手に入ればの話だがな」
おぉ!!なんか聞いたことのある素材出てきた!やっぱりこの世界にもそういうのあるんだな。なんかわくわくしてきた。
「それと砥石の使い方を教えてやる。こっちに来てみろ」
「は、はい」
そう言われて僕はついて行った。
するとそこには大小様々な大きさの砥石があった。
「これはどういった用途に使うんですか?」
「大きい方は刃が欠けたり、折れてしまった時に使うものだ。これを使うと大抵のものは直る。ただし、研磨剤が付いていないから研ぐのは別の砥石を使わないとダメだ。この小さなやつは刀身を磨くのに使われるもので、こっちの砥石で仕上げをする。そして最後に一番大きなやつで綺麗にする。ここまで説明すればもう分かるだろう」
なるほど……分からん。つまり包丁みたいな感じか。
「その顔は分かってないときの顔だな……」
おっと顔に出てたか……いかんいかん。
「仕方ない一から順に見せてやる。その後実際に自分でやってみてコツを掴め。あとはメモはしっかりとっておけよ冒険者手帳は作っておいて損はない。冒険者は情報が命だ、どんな時でもいろいろな場所から、そして人から情報を集めろ……いいな」
「わ、分かりました!」
なんか迫力あるなこのおっちゃん……。というかまるで実際に経験した人のセリフだな。もしかして……。
「親方はもしかして元冒険者ですか?」
そう聞くとドワーフのおっちゃんは顔をしかめた。
「お前は弟子じゃねえ、名前で呼べ。わしはガンドってんだ」
「分かりました、ガンドさん」
ドワーフのおっちゃんはうなずくと
「うむ、よろしい。そうじゃわしは元冒険者だった」
ほー、やっぱりそうなのか。
「やはり元冒険者なんですね。ちなみに何ランクの冒険者だったんですか?」
「……Sだ」
S!?まさかの超一流冒険者じゃないか!こんなところで出会えるとは思わなかったなぁ……。このひげ面のおっちゃんが……。
「お前今失礼なこと考えなかったか?」
ギクッ……。
「そ、そんなことないですよ」
「まぁいい、とりあえず砥石の練習を始めるぞ」
それから数時間かけて色々な砥石について教えてもらった。
「これで基本の砥石は全部教えた。後は自分の好みの砥石を見つけて手入れの仕方を覚えるんじゃな」
「ありがとうございました!ここまで親切にしていただけるとは思ってませんでした」
「ふん、言ったじゃろう。わしは初心者には優しくする主義だってな」
そんなこと言ってたか……?まぁ、ここは持ち上げておくか。
「はい!これからよろしくお願いします師匠!!」
「し、師匠だと?調子に乗るなよ小僧、お前はまだまだ半人前じゃ。それにわしの弟子になるならそれ相応の実力を身につけてから来るんじゃな」
はい、ツンデレいただきました。
「もちろんです!必ず一人前の冒険者にしてもらいますので覚悟していてくださいね!」
「ぬかせ、生意気な奴め。さっさと帰れ。わしはまだ仕事中だ」
「はい、ではまた来ますね!」
「ふん、……………………死ぬなよ小僧」
そういうとガンドさんは奥の工房に入っていった。
(ツンデレドワーフって需要あるのか……?)
そんな事を考えながら僕は工房を後にした。