第4話
翌日、僕はいつものように登校していた。しかし昨日見た光景が頭から離れず、なかなか集中できなかった。
「やっぱりおかしい……」
僕はあの墓地を思い出しただけで体が震えてしまった。
だが、それと同時にあの祠に心が魅かれているのを感じた。
まるで押してはいけないボタンや覗いてはいけない襖のように、心が我慢できない好奇心で満たされていた。
「どうしてあんなに……」
僕は必死に頭を働かせた。
「あ!」
その時、僕の頭に一つの考えが浮かんだ。
「そうだ、確かめてみればいいんだ!」
我ながらアホだと思った。
「大丈夫、満足したらもう行かないから、絶対……そう、絶対もう行かない」
約束を守らない子供のような事をつぶやきながら僕はワクワクしながら授業を終えた。
放課後、すぐに祠の場所に向かった。
「ここだ……」
僕はその場所に辿り着くと、一番気になっていた祠の中に入ってみることにした。
「えっと……ここをこうして……よし!」
持ってきたスマホのライトをつけ、目の前に広がる空間を照らし出した。
「うわぁ……すごい」
その空間は地下に続く階段があり、さらにその先ではトンネルになっていた。
「行ってみよう」
意を決した僕はゆっくりと歩みを進める。
「うわっ!?」
足を踏み入れた瞬間、僕はバランスを崩して転んでしまった。
「いったぁ……」
幸い、怪我はなかった。しかし
「あれ?なんか音がする……」
コツ……コツ……
「まさか……嘘でしょ?」
聞こえてきた音
「誰かいるのか?」
僕は恐る恐る聞いてみた。しかし返事はない。
「やっぱり誰もいないよな……」
僕は立ち上がり、再び歩き始めた。
「……ん?」
しばらく歩くと、前方から光が漏れているのに気づいた。
「出口かな?」
僕は自然の光に安心感を抱きながら出口に向かった。
「やっと出られる……」
安堵しながら光に向かって歩いて行った。すると、そこには大きな門があった。
「これは……鳥居だよな。というかでっか……」
僕は上を見上げながら鳥居の大きさに驚いていた。
「ふわぁー……てか、ここすごい気持ちいいな見渡す限りの草原にバカでかい鳥居……とても神秘的だ……」
そう呟きながら草原を歩いていると、向こう側に何かがあることに気づいた。
「なんだ?これ……」
それは、白い石で作られた台座のようなものの上に、
「……人?」
人が座っているような格好をしていた。
「これって……石造?」
僕はその姿を見て、何故かそう思った。そして
「綺麗だ……」
思わず見惚れてしまう程にその像は美しかった。
「触ってみてもいいかな……」
そう思って手を伸ばしかけた
「ん?これは……」
しかしその前に、その像の前に何かが置かれていることに気がついた。
「なんだろこれ?木札?それと……」
僕はそれを手に取ってみた。
「"此処ニ眠ル者共ノ魂ハ安ラカニ"……」
それは前に僕が見つけた木札だった。
「このお墓の人達の魂は安らかに眠れ……って意味なのかな?それならこの木札は何なんだろう……」
僕は更に疑問が増えた。しかしそろそろ帰らないとまずい
「まあいいや、帰ろう」
来た道を戻ろうとした。すると
「えっ!?ちょ、ちょっと待った!!」
突然背後から声をかけられた僕は慌てて振り向いた。そこには
「はぁ、はぁ、はぁ……」
息を切らせた女性が立っていた。
「えっ!大丈夫ですか?」
「うん、なんとかね……」
なんでこんなところに人が……、そう思っていると
「ごめんなさい、驚かせちゃって」
「いえ、そんなことないですよ。それよりどうしたんですか?こんなところで……人が来るような場所じゃないですよね、お前が言うなって話しですけど……」
「あ~、実は君を探していて……」
「……僕を?」
「うん、ほら、君はあの墓地で私に声をかけてくれたじゃない。だからお礼を言いたくて……」
「え?僕……人になんて会った覚えが……」
「え?人違いだったかしら……」
「はい、僕があなたに会ったのは今日が初めてですけど……」
「そっか……でも……確かに私は……」
そこで彼女は黙ってしまった。
(あれ?もしかして勘違いだった?いや、確かに僕はこの祠に来てから人に会った記憶がない……そう……人には……)
僕はそう思ってしまい、その場の雰囲気を変えようと話題を変えた。
「それよりもどうしてこの祠に居るんですか?」
「え?ああ、この祠の神様はね、亡くなった人を見守ってくれてるの。だから時々、ここでお祈りしているのよ」
「へぇ、そうなんですか神様なんているんですねこの祠」
「うん、でもね最近この辺りで行方不明者が多発しているらしいの」
「え?どういうことです?」
「ここのところ、祠を一人で歩いているとどこかに連れていかれちゃうみたいなんだよ」
「連れていかれる……怖いですね……」
「それがわからないんだよね。噂だと異世界に連れて行かれるとか……」
「異世界に?」
異世界ってなんだそのラノベ……
「うん、ただの噂だと思うんだけど、怖くてさ。特に子供が被害にあってるみたいだし、心配になって来てみたんだ」
「そう……ですか……」
子供が被害にあってると聞くとちょっと怖いな……流石に祠探索も今日で最後にしようかな……
「でも良かった。君が無事でいて……」
「え?」
「だって、もし本当に連れていかれてたらもう会えなかったかもしれないし……それに……」
『やっとミツケタ』
その言葉聞いた途端背中に悪寒が走った
僕は来た道を引き返そうと身体を動かそうとした
だけど動かなかった……
『モウニガサナイヨ』
そう言うと彼女の周りから無数の手が生えてきて僕の身体を縛り上げた。
「くっ……どうして……」
僕はもがいた……必死に必死にもがいた……
そうこうしているうちに目の前に彼女が居た。
「ひっ……」
とても人間離れした美しい顔……まるで女神のような……そして悪魔のような顔……
「僕を……どうするの……?」
『…………』
ニヤッ……
長い沈黙の後、彼女は笑った。
そして僕の目の前は真っ暗になった。