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短編小説

二十歳の約束

作者: 仲町鹿乃子

2分で読めるショートショート。


 彼が来た。

 十年前より、少し恰幅のよくなった体で。


「やぁ、久しぶり。元気そうだね」

「あなたも元気そうね」

「あの日の約束を覚えてくれていてありがとう」

「こちらこそ。あの約束があったから、わたしは今まで頑張ってこれたの」


 彼がわたしを眩しそうな顔で見る。


「ぼくもだよ。きみに再会できたときに恥ずかしくないように頑張ったよ」

「あのとき、わたしたちは二十歳だった。世間では、二十歳といえば……って、よく言われていて。友人たちも、いいきっかけだからって次々にトライして」

「ぼくもだよ。でも、失敗してしまった。とても、恥ずかしかったよ」


 互いに昔を思い出ししんみりとした気持ちになってしまう。


「あのときわたし、『ごめんなさい、無理です』って泣いてしまった。そのとき、隣のブースからあなたの声が」

「あぁ、ぼくも『怖い、もうやめてくれ!』と取り乱し、鼻水まで出していた」


 あの日の互いの醜態に、わたしも彼も苦笑いを浮かべる。


「あのあとわたしたち、慰めあって。もし十年後も今と同じ志を持っていたら、この場所で同じ時間に再会しましょうと約束をしたのよね」

「あぁ、この約束があったから、ぼくも頑張れた。違う空の下、ぼくと同じように頑張っている君を想像し、なんど励まされたか」


 彼が右手を差し出してくる。

 わたしもそれに応えるように、重ねる。

 二人の手がしっかりと握りあう。

 互いに、少し汗ばんでいるのは想定内。


「さて、いきますか」

「いきましょう」


 目の前の白い扉には、赤い十字架のマーク。


 わたしたちは、手をしっかりと握り合ったまま、献血ルームの扉を開けた。

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