7話 冒険者ギルド【イグドラシル】
「確かこの辺で待ち合わせだったか」
『早起きして来たのに、誰もいないよ……ふあぁ』
ティアが大きなあくびをした。
俺たちは昨日ミユ姫に言われた通りの場所、とある路地裏に来たのだが、そこには俺たち以外の人影はない。
イグドラシルは厳選した依頼しかギルド側が取らないため、持ち込みを防ぐためにもギルドの場所を秘匿しているとミユ姫は話していた。
「でもだからって案内人も無しって訳にはいかないだろ……ん?」
大気中の妖力がうねり、そこら中で渦を巻いているのに気がつく。
ティアは目を細め、普段の陽気な雰囲気を引っ込めて口を開く。
『カイル気をつけて。きな臭い気配と匂いがする』
「らしいな。でも……」
俺たちから隠れるには杜撰が過ぎる!
俺は妖力を手のひらに集め、詠唱を開始。
「《我が身を鞘に・心を刃に・力と成せ》──時雨刃」
『ふんっ!!』
俺の生成した剣が妖力による斬撃を飛ばしたのと、ティアの放った閃光の魔術が路地裏の一角に同時炸裂する。
すると「あちちち!?」と言って筋骨隆々の老人が転げ出て来た。
その途端、周囲に漂っていた妖力が正常な状態に戻った。
「おいお前たち! この儂を殺す気か!?」
『そういうお爺さんこそ、私たちをどうする気だったのー? 普通、あんな幻影の魔術で私たちを囲ったりしないよね?』
頬を膨らませたティアの問いかけに「うぐっ」と言葉を詰まらせた老人。
彼はこほんと咳払いをしてから言った。
「どうするもこうするも、あれが我がギルドに入る資格を持つか否かの試験だ。ここまで速く見破ったのはアルベリクスとイーア以来だが……将来有望といったところか」
「ギルドに入る試験ってことは、つまり」
「ああ。我がギルド、イグドラシルに歓迎しよう。幻影と隠密の両魔術をああも簡単に見破られてはな……。特に坊主、お前さん本当に魔力ゼロか? 確かに魔力は感じないが魔道具で隠蔽しているとかか?」
ギルドマスターらしき老人は訝しげに俺を見つめる。
俺は苦笑しながら言った。
「俺のは魔力じゃなくて妖力です。まあ、やってることは魔術みたいなもんですがね」
「妖力じゃと……? あの東洋でも失伝したとされる、妖力で間違いないか?」
『間違い無いよ。相棒の私が保証するもん。おじいちゃんもカイルから魔力を感じないだろうし、それがいい証拠じゃない?』
ティアの言葉に、老人はうむと考え込む。
俺は母の遺伝で妖力を扱えるようだが、ティアからも妖力の扱い方は東洋でもほぼ失伝したらしいと聞いている。
妖力の扱いにも生まれつきのセンスが最低限、魔術のように必要だが、大きな戦いで妖力使いが軒並み倒れてしまったのだとか。
「なるほど。坊主よ、ミユから聞いているが名前はカイルで正しいか?」
「ええ。それと相棒の方はティアです」
「では妖力使いカイルに相棒のティアよ。ついて来い。今から我がギルドの面々と引き合わせてやる。我がギルドの者は全員どこか世と外れているが、妖力という並外れた力に理解のあるお前たちならきっとうまくやれるだろう」
老人は踵を返そうとして、ふとこちらを振り向いた。
「ちなみに儂はメビウスと言う。でもまあ、気軽にマスターと呼べ。ギルドの仲間なら敬語も不要だ」
「分かった、マスター」
『了解だよ〜!』
俺とティアの返事を聞いたマスターは頷き、そのまま建物の壁の方へと向かう。
この路地裏のどこにギルドがあるのかと思っていたが、まさかそこに隠し扉でもあるのか。
見ていると、マスターが壁の中に消えた。
『なっ、マスターが消えちゃったよ!?』
「あれも幻影と隠密の魔術だな。それもかなり高位の」
魔術というのは使い続ければ、常に対価の魔力を消費し続けるものだ。
妖力でも同じようなものだが、ギルドの本拠地を常に己の魔術で隠し続けるマスターの魔力量は一体、どれほどのものなのか。
「流石はイグドラシルのマスターって訳か」
ギルドマスターには原則として冒険者のようなS~Fの等級はなく、あったとしても昔冒険者だった頃の称号だと聞く。
だがマスターは元S級でほぼ間違いないだろうとなんとなく察せた。
「ティア、ついて行こう」
『あ、うん……』
壁に突っ込むという行為は少しティアにも抵抗があるのか。
俺はティアの手を引いて一緒に壁へと入った。
するとそこには階段があり、地下へと続いている。
マスターは先に降りたようなので、俺たちも足早に地下へと向かった。
『秘密の地下階段って、なんだか冒険みたいでワクワクするね!』
「この先にあるのは、冒険に出るために入るギルドだけどな」
それから階段を降りきった突き当たりに、剣と大樹のレリーフが刻まれた重々しい鉄扉が設置されていた。
王都の冒険者ギルドにはそれぞれギルドマークのレリーフがどこかに施されているが、イグドラシルのギルドマークはこの剣と大樹らしかった。
鉄扉を開くと光が漏れる。
ここにどんなギルドメンバーがいるのだろうか、そう思っていると。
「うおおおっ! この七面鳥の丸焼き旨いな!?」
「酒だ、酒持ってこいっ!!」
「こらお前らァァァァァッ!!! 宴は新人二人の紹介が終わってからだと言っただろうがァァァァァァァァ!!!!!」
卓を囲んで食事にありつくギルドメンバーと、それを見て怒鳴るマスター。
そんな光景を見て傍でくすりと微笑んでいたのは、ミユだった。
「姫様、先に来ていたんですね」
「はい。無事に試験も突破されたようでよかったです」
『あれくらい、私とカイルにかかれば楽勝だよっ! 今日からよろしくね、姫様〜!』
ティアはミユとハイタッチし、既にギルドの賑やかな雰囲気に溶け込みつつあった。
一方卓を囲んでいたギルドメンバーは、漏れなくマスターに引っ叩かれてうなだれていた。
「ようやく黙ったか、この愛くるしい馬鹿どもめ。では新人の紹介をするぞ! まずはカイル! こいつは魔力ゼロの妖力使いで、言ってしまえば魔導師ならぬ妖術師だな。儂らにはない視点と力を持っておる!」
「よろしくお願いします」
「次にティア! この子はカイルの相棒らしいが……詳しいことはミユも教えてくれなかった。本人かカイルから聞けとな。ティア、この際だから教えてはくれぬか? 凄まじい魔力を持っているのは感じ取れるが……」
マスターにそう聞かれて、ティアはこっちを向く。
顔に『言っちゃっても大丈夫?』と書いてある。
「ギルド内の妖力に変な動きはない。ここにいる人たちは信用しても大丈夫なはずだし、仲間になるなら教えてやってもいいんじゃないか?」
『カイルがそう言うなら、りょうかーいっ!』
ティアはギルドの端に移動し、そこにあった机や椅子を雑にどかしていく。
俺以外の面々は何をしているんだ? と興味津々といった面持ちでティアを眺めていた。
それからティアは自分の周りに物がなくなったところで魔法陣を展開し、閃光を放って……ドラゴンの姿に戻った。
『初めまして! ドラゴンのティアだよ〜! 皆、よろしくねっ!』
「「「ド、ドラゴンだとぉぉぉぉぉぉぉ!!??」」」
幾たびも死線をくぐり抜けてきたはずのイグドラシルの面々が絶叫した。
やはりドラゴンというのはかなりレアらしい。
俺もティア以外のドラゴンに出会ったことがないから気持ちは分かるが。
「なっ……おいミユ」
「はい。なんでしょうマスター」
「お前が紹介したカイル、ティアを相棒にしているというのは本当だな?」
「本当です、マスター」
ふふんとなぜか得意げに微笑むミユ姫。
それからマスターは「信じられん……」と呟き、続ける。
「ということはカイル、お前さんドラゴンライダーなのか? ティアの背に乗れるか?」
「ええ、それは」
俺が「もちろん」というより先、ドラゴンの姿のティアが俺の襟首を軽く咥えた。
そのまま自分の背に俺を乗せ、ギルド内でできるだけ翼を広げて見せた。
『この通り、私はカイルなら背に乗せるよ〜! そうだよ! カイルは妖力使いのドラゴンライダーなんだから!!』
「「「うおおおおおおおおおお!!!!!?????」」」
ティアの宣言に、ギルド内から謎の歓声が上がった。
「おい俺、ドラゴンどころかライダーだって見るの初めてだぞ!?」
「そりゃボクだってそうだよ!」
「というかドラゴンって実在してたんだな!?」
「そもそも言葉も話せるって伝承はマジだったのかい!!」
ギルドメンバーたちは思い思いにはしゃいでいく。
だがギルドマスターが酒入りのジョッキを片手にした途端、彼らもコップやジョッキを手にして黙った。
「少々驚かされたが、ともかくこの二人が新しい仲間じゃ! お前ら、今日は目一杯飲んでこいつらを歓迎してやれぃ!!」
「「「かんぱーい!!!」」」
それから先は、ギルドの面々と一緒に酒を飲んだり馬鹿話をしたりで盛り上がっていた。
屋敷から遠出もできなかった今までの生活が嘘のようだった。
このギルドを紹介してくれたミユ姫に感謝しなきゃな。
俺はそう思いつつ、ティアと一緒に歓迎の宴を楽しんだ。
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