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5話 相棒の変身

「いやー。王都って人が多いんだなぁ」


 ティアの透明化魔術の恩恵もあって、俺たちは上空から王都を見下ろしていた。

 どこを見ても動く人、歩く人、働く人。

 生まれ育ったグライシア領も人が多いと思っていたが、ぱっと見だけでも王都の方が数十倍は多そうだった。


『ここなら良いギルドも見つかりそうだね』


「ああ。ティア、俺を街から少し離れた場所で降ろしてくれ。それでティアは透明化したまま、俺が冒険者登録を済ませて戻ってくるのを待っていてくれないか?」


 問いかけると、ティアは『ええー!』と声をあげた。


『そんなのつまんなーい!! 私もカイルと一緒に行くもん!!』


「そう言ってもティアはドラゴンだろ? 体だって大きいし、目立ちまくって憲兵や冒険者に囲まれるぞ」


 そうなったらさしものティアも苦しいだろう。

 ここはワガママを言わず聞き入れて欲しいと思っていると、ティアは『う〜ん』と唸った。


『それならさ。私が目立たなければいい?』


「それはそうだけど、街中で透明化はなしだぞ?」


 あれは相手の視界に映らなくなるだけで、物をすり抜けたりできるわけじゃない。

 ティアが王都で透明化しても人間にぶつかって騒ぎになるだろう。


『ふーん、そっか。なら目立たずに、透明化以外ならいいんだね?』


 ティアは降下していき、透明化したまま王都の際に降りた。

 俺もティアも同じ透明化の魔術の影響下にあるので、互いの姿は認識できる。

 でもティアはこれからどうするつもりなのか。

 考えていると、ティアは得意げに言った。


『私の本気、見せちゃうんだから! そーれっ!!』


 ティアは透明化の魔術を起動したまま、別の魔術を起動すべく魔法陣を展開した。

 そこから竜の必殺奥義であるブレスを放つ時と同等の魔力を放出し、閃光に包み込まれていく。

 とんでもない魔力が集中しているのが視覚的に理解できるけど、これ爆発とかしないよな?

 見守っていると閃光が消え、同時にティアの巨体も消えていた。

 代わりに魔術起動による煙が立ち込めている。


「なんだ、もしかして小さくなったのか?」


『ふふっ、大せいかーい!!』


 煙の中から小柄な人影が現れ、ぴょいっと飛びついてきた。

 夕焼けに近い朱色の髪に、くりっとした愛嬌のある瞳。

 小柄ながらすらりとした体つきに、胸もそれなりに……って。


「お前、ティアか!?」


『そうだよ? 他にないじゃん!』


「他にないってなぁ……」


 まさか人間の姿になるなんて。

 確かにこれなら王都でも目立たないなーとか一瞬思ったが、その直後に「これはやばい」と思い直した。


「ティア。服はどうした」


『服? ……ああ。着ないと目立っちゃうもんね』


 それ以前に、全裸のティアに密着されているせいで俺は男として悶々としていた。

 相棒がメスのドラゴンだと知ってはいたが、これは色んな意味できつい……!

 特にそこそこある胸の果実二つが密着しているのが俺の精神力をガリガリ削っていた。


『もう、そんなに照れなくてもいいのに。カイルだっていつも私に密着して、それこそ騎乗してるでしょ?』


「全裸でそういうこと言うんじゃないっての」


 通りすがりの旅人はもちろん、その辺に出張っていた憲兵に聞かれでもしたら一発でアウトだ。

 冒険者生活が始まる前に牢にぶち込まれてしまうだろう。


『ちょっと待っててー。すぐ着るから』


 ティアは魔力を消費して服を作り出し、手早く身にまとっていく。

 こうも目の前で堂々と着替えられるとシュールな気もする。


「そもそもティアって人間の姿に変身できたんだな」


 古今東西、ドラゴンが人間に化けるという逸話はそれなりに存在する。

 ドラゴンは姿を自在に変化させることができ、それゆえに目撃情報も少ないという説すらある。

 ティアは『まぁねー』と衣服を纏いながら間の抜けた声を出した。


『私、そこそこ強い力を持ったドラゴンだから。魔力さえあればこんなふうに質量を無視した変身だってできるからね。人間の姿をイメージすれば簡単簡単!』


 ドラゴンというのは本当に規格外なんだなぁとティアを見て思わされる。


『カイルもなかなか規格外だと思うけどね?』


「お前、また俺の心を読んだな」


 ティアは定期的にこっちの心が分かるらしいのだが、なぜだ。


『相棒同士、以心伝心ってね〜』


 俺の聞こうとしたことに答えつつ、ティアは楽しげに俺の手を引いて王都の入り口の門へと向かっていく。


『ほら、早く早く! 私たちの冒険者生活の幕開けなんだから、張り切っていかなきゃ!』


「ちなみにその言い方だと、ティアも冒険者になるのか?」


『できればそうしたいね〜。せっかく人間の体なんだから、人間らしいことして楽しまなくちゃ!!』


 少し不安に思えた新生活も、ティアからすれば楽しむことか。

 そう考えれば俺も少しだけ気が楽になってきた。


「せっかく屋敷での生活から解放されたんだ。楽しまないと損ってもんか!」


『その調子その調子! 私とカイルなら、あっという間に冒険者の頂点だよ!』


 俺は明るいティアに導かれながら、王都に入って冒険者ギルドを探すのだった。


《作者からの大切なお願い》


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