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4話 姫君の心境

「それじゃあ姫様、俺たちはこれで失礼しますよ」


「あっ、カイル!?」


 私を王城の際まで送り届けた途端、カイルとティアの姿は透明となってしまいました。

 いえ、正確にはカイルたちは飛んでいた時から魔術で透明化しており、私がその効果範囲から出たと言った方が正確でしょうか。

 残された私は、ばさりと去っていく彼らの翼の音を聞きつつ、空を見上げる他ありませんでした。

 憧れのドラゴンライダー、できればもう少しカイルと語り合いたかったのです。


「あの二人について、もう少し何か知ることはできないでしょうか……?」


 それにあのカイルという御仁は、どこかで見たような気がするのです。

 最近ではありませんが、昔、どこかで……。

 悩んでいると、城から騎士たちが泡を食ったように出てきました。


「ミユ姫! 旅先で行方不明になったとお聞きしておりましたが、どうやってお戻りに!?」


 そう言えば、騎士たちに事情を説明する必要もありましたか。

 けれど「そんなことより」と私は集結した騎士たちに言います。


「皆さん。カイルという御仁について調べてください。グランシア領付近で出会った、この国では珍しい黒髪の若人です。もし私と接点があればそれも含めて報告を」


「はっ!」


 騎士たちは早速城に戻り、調べ物を始めました。

 私も城の図書館でドラゴンライダーに関する文献を読み漁っていました。

 すると騎士の一人が駆けて来て、私に魔術で念写した肖像画を見せながら言います。


「ミユ姫。もしやお会いしたカイル殿とはこの方ではありませぬか?」


「ええ、この人です!」


 肖像画は少し幼いものながら、顔の雰囲気はカイルそのものでした。

 この時になって私は昔、城で開かれた舞踏会でカイルを見かけたのを思い出しました。

 あの時も黒髪の男子は珍しいと思ったのですが、直後に他の方々に言い寄られて記憶の中に埋もれてしまっていたのです。


「それでカイルは何者だったのですか?」


「は。グランシア領主の後継だった者です」


「後継、だった?」


 問いかければ、騎士は手にしていた資料に目を通しながら報告しました。


「カイル殿はその、三歳の時の魔力測定では魔力ゼロだったそうです。それから今に至るまで魔力は確認されておらず、グランシア家の後継から外されていたとのこと。噂ではグランシア家当主も、カイル殿を勘当しようと考えているとか」


 それを聞き、すっと心が冷めていくの感じます。

 カイルは言っていました。

「俺はカイル、ただのカイルだ」と。

 あの言い方に何か含んだものを感じましたが、要はあの時もう、カイルは勘当されていたのでしょう。

 魔力がない、ただそれだけの理由で、魔力とは異なるのだろうあれだけの力を持ちながらも。


(確かにオーガを倒した時も私を治した時も、彼からは魔力の一切を感じませんでした。魔力ゼロというのは真実なのでしょう。しかし……)


 貴族たちの魔力至上主義にはやりすぎる面があると思っていましたが、まさか魔力の有無で実の息子と縁を切るとは。

 魔力を持たない人間など聞いたことがありませんが、それはあまりにも……。


「……分かりました。それともう一点お願いがあります。グランシア家の当主がカイルを既に勘当しているか否か、事情も含めてしっかりと調べ上げてください。その結果も出来るだけ早く報告を」


「承知いたしました」


(もしグランシア家が本当に魔力ゼロを理由にカイルを勘当したのなら、あの家については何か考えておくべきなのでしょうね……。さしもの私も見逃せません)


 騎士は胸に手を置く敬礼をし、私の前から足早に去って行きました。

 そしてこれは私の勘ですが、おそらくカイルはドラゴンライダーであることを家族に隠していたのでしょう。

 いくら魔力がないとは言え、ドラゴンを従える息子を当主が勘当するとは考えにくいですから。


「でも、カイルはティアを大切にしている様子でしたし。下手に家族に存在を明かして見世物にするより、隠し通す道を選んだのでしょうね」


 ティアの存在を明かせば、実家に残れる道もあったかもしれないのに。

 カイルの持つ相棒への強い愛情に気づき、私は心が温かくなる思いでした。

 同時に、あの時に助けてもらった恩を返したいとも。


「確かカイルは冒険者、と言っていましたか」


 カイルがティアと小声で話している時、ちらりとその言葉だけ聞き取れたのです。

 なるほど。

 カイルほどの腕前があれば冒険者として稼ぐのが一番手っ取り早いでしょう。


「ですが、パーティーメンバーはティア以外にはいないはず。ティアの存在をカイルが他の人間に簡単に明かすとも思えませんし……ふむ」


 となればカイルへの恩返しは、直接パーティーメンバーとなり力となるというのはどうでしょうか。

 金銭や品を贈ろうとしても、カイルはさっきのように断るでしょう。

 彼は竜騎士にふさわしい謙虚さを持った武人であると、先ほどの会話や態度から分かっています。


「だからこそ、彼の冒険を直接お手伝いするというのも悪くないかもしれませんね」


 先ほど私はオーガ三体に遅れをとりましたが、それは三日ほど護衛の方々とはぐれてしまい、その間に魔力が尽きていたからです。

 通常の冒険であれば、十分カイルのお役に立てるでしょう。

 何より竜騎士と一緒に依頼で各地を回れるかもしれないというワクワクが、私の胸いっぱいに広がっていました。


「まさか前に取得した冒険者証がこんな形で役に立つ日が来るなんて、思っていませんでしたよ」


 ふふっと笑いながら、私は自分の冒険者証を手に取りました。

 そこには『S級癒し手(ヒーラー) ミユ』と刻まれています。


「ではカイル、またあなたとお会いできる日を楽しみにしています」


 私は城の窓から空を見上げ、カイルを想います。

 今もこの空のどこかを相棒と一緒に飛んでいるであろう、あの若き竜騎士を。


《作者からの大切なお願い》


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