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3話 旅路での出会い

 ティアは背に俺を乗せ、東の方へと進んでゆく。

 雲の切れ目から見える遠方の街並みや山々の景色に、俺は目を奪われていた。


「思えば、こうやってティアと遠出するのは初めてだな」


『カイルの家は門限とか厳しかったからね〜。私の翼でもすぐに戻れる範囲しか飛べなかったもん』


「まあ、何事も厳しくされたのは俺だけだったかもしれないけどな」


 遅く帰れば、父に「遊んでいる暇があるなら魔力を増やす算段でもつけろ!」と罵られたものだ。

 もっとも遅く帰った理由も妖力の鍛錬によるものだったが。


『でも門限破った時とか、カイルが妖力の鍛錬してた時だけだったじゃん。あんなに頑張ってたのに、妖力じゃなくて魔力じゃなきゃダメだったの?』


「妖力なんてよく知られてない力だからな。見せても手品か何かだと思われてた節があったよ」


『それ、カイルのお父さんたちの目が節穴なだけじゃ……?』


 ティアは小首を傾げたが、何かに気づいたのか真下に視線を落とす。


『カイル。今、人の叫び声が聞こえた。悲鳴っぽかったかな?』


「悲鳴……? こんな人気のない山奥で?」


 俺たちの真下には今、青々とした木々しかない。

 けれどティアがああ言うなら誰かいるのだろうと、俺は視界を『妖力を視る』方に切り替えた。

 俺には自然エネルギーが淡い燐光として見え、感じ取れる能力が生来備わっていた。

 これは妖力を使うためのド基礎ではあるが、実は探索もこれで行えたりする。


「……見つけた」


 山の麓、自然エネルギーが何者かの意識の乱れで渦を巻いている。

 魔力はどうか分からないが、自然エネルギーは人間の意識の乱れに反応して動きやすい。

 やはり自然を切り拓いて生きる人間も、自然の一部であるということだろう。


「ティア、九時方向だ!」


『りょうかーい! ……おお、ホントだ。さっすがカイルだね〜!』


 ティアは俺の示した方向へ急降下し、そこに人影と魔物の姿を見つけた。

 大柄な棍棒を持った、緑色の肌をした二メートルほどの巨人型魔物のオーガ三体が、小柄な少女を追いかけ回している。

 オーガは別名人食い鬼とも呼ばれ、棍棒で人間を撲殺して貪り食う。

 あのままだと少女も危ないし、何より俺の目指す冒険者は人を助ける職業でもある。

 ここで面倒だと見殺しにしては、人を人とも思わない魔力至上主義者の貴族と何も変わりやしないだろう。


「《我が身を鞘に・心を刃に・力と成せ》──時雨刃」


 俺は古い東洋の言葉を詠唱し、周囲空間の妖力を集めて東洋の剣、刀を生成する。

 魔術にも魔力を糧として物体を生成するものがある。

 だが魔術には「自分の体内にある魔力しか使えない」といった制約があり、並みの使い手ではよくてナイフ程度の大きさの物しか作成できない。

 妖力はその点、周囲の自然エネルギーを使いたい放題なので刀ほどの大きさの物も簡単に生成できる。


「出るぞ、ティア!」


『斬り込み役はお願いね!』


 俺はティアの背から飛び降り、大の字になって降下していく。

 逆巻く風が耳の近くで轟々と鳴り、全身で風を感じる。

 空から迫る俺に、オーガたちは気付いていない。

 俺は刀を振るい、その刀身から妖力の斬撃を射出した。


『GRU!?』


 一体目のオーガが真っ二つになり、その死骸に着地して衝撃を殺す。

 さらにこちらに気がついた二体目を、すれ違いざまに一閃。

 自然エネルギーである妖力を取り込んだ俺の体は、今やそこいらの魔物に負けないほどの膂力を備えていた。

 ぽかんとこっちを見つめる少女からすれば、今の俺はオーガ以上に化け物じみているかもしれない。


『GUOOOOOO!!!』


 最後に残ったオーガが怒り任せの咆哮をあげ、こっちに突っ込んでくる。

 振りかざされた棍棒、だがそれが俺に届くことはなかった。


『ちょっと、私の相棒に何すんのさっ!』


 ティアが上空から放ったブレスがオーガに直撃して、悲鳴すら上げさせずに塵にした。

 オーガの手にあった棍棒がぼとりと地面に落ちた時には、既に状況は終了していた。


「君、平気かい? 怪我は?」


「え、ええ。大丈夫です。助けていただき感謝します」


 俺は尻餅をついていた少女に手を伸ばし、立ち上がらせた。

 少女は俺と、透明化の魔術が解かれたティアを見比べる。


「その……あなたは竜騎士、ドラゴンライダーなのですか?」


「ドラゴンライダー? いや」


 そんな大したもんじゃない、と言いかけたところ。


『そりゃそうだよ。彼は私の相棒なんだもん。ドラゴンに騎乗する者、ドラゴンライダーで間違ってないよ!』


「ちょっ」


 ティアが突然、得意げにそう言いだした。

 ドラゴンライダー、それはこのアーリアス王国では英雄の象徴にして伝説的存在だ。

 初代国王がドラゴンライダーだったとかで、この国ではドラゴンライダーというのは特別な響きを持つのだ。

 それにドラゴンも今時珍しく、人間に心を許しているドラゴンはもっと稀だ。

 だからティアは普段目立たないよう透明化の魔術を使っているし、俺と会う時も山や森の奥ばかりだったのもそれが理由なのだが……。


「やっぱりドラゴンライダーなのですね! 私、ドラゴンを見るのも初めてですが、ライダーに出会うのも初めてなのです! 感激しております!!」


 瞳をキラキラとさせる少女は、長く美しい青髪を振って全身で喜びを表していた。

 けれど少し困ったことになったかもな、と思ってしまう。

 少女の衣服は所々擦り切れてはいるが上等な布地で、身につけているアクセサリーも決して安くはないと一目で分かる。

 つまりこの子は貴族とかその辺のやんごとなき身分の子だが、だからこそ実家を勘当された俺が会うにはまずい相手に思えていた。


「……すまない。俺は今、少し急いでいるんだ。悪いけどこれにて失礼……」


「あっ、そんなこと言わず……きゃっ!?」


 去ろうとした俺に手を伸ばした少女が、思い切りよろめいた。

 思わず支えてやると、少女は苦笑した。


「すみません。少し足をくじいてしまいまして」


「怪我をしていたのか。少し座らせるよ」


 俺は少女を木陰に座らせ、右足を診た。

 赤黒く腫れていて、これは挫いたと言うより酷い打撲だ。

 魔物にやられたのか、最悪骨までいっている可能性もある。


「でもこの程度なら。《森の精よ・神樹の癒しを・この者に授けよ》──燦光癒」


 人間は明るい森に入ってしばらくすると、気分がよくなったりする。

 それで森林浴なんて言葉があるが、それは俺に言わせれば、自然エネルギーの濃い場所にいるから体が活性化しているのだ。

 木々と木漏れ日の多い森はそれほどまでに自然エネルギーが豊富となる。

 ならば森林の自然エネルギーを術で一点に集中させれば、体がより活発となり自然治癒力を最大限に引き出せるのは道理だ。


「何ですか、触れられた足に光が……?」


 少女が目を丸くした時にはもう、俺の治癒術は終わっていた。

 足はすっかり元どおりになり、これなら動かしても痛くないはずだ。


「違和感はあるかい?」


「ありません。流石はドラゴンライダー、このような術までお持ちとは……。その、お名前を教えていただいても?」


 少女に聞かれて、思わず呻きかけた。

 本名を話して後々面倒にならないか、とか思ったのだ。

 けれど捨てた家名さえ言わなければ問題ないかと、俺は名乗ることにした。


「俺はカイル、ただのカイルだ。それとこっちは相棒のティア。ちなみに君の名前を聞いてもいいかな?」


「もちろん、それが礼儀ですから。私はミユと申します。ミユ・フィン・アーリアスです」


『なるほど、ミユね。……って、えっ?』


 言いながらティアが固まった。

 家名にアーリアスとは、つまり。


「はい。一応はこの国の第二皇女です」


『えええええっ!? お姫様、嘘でしょ!?』


 俺よりティアの方がびっくりしていた。

 気持ちは分かるが、とんでもない巡り合いだ。

 何よりこの流れ、面倒なことにしかならない気が……。


「実は所用でこのあたりまで来ていたのですが、護衛の方とはぐれてしまいまして。もしよろしければ共に王城まで来てはくださりませんか? 当然お礼もしっかりと……」


「いえいえ! 当然のことをしたまでですから。な、ティア?」


『う、うん! そりゃ当然だよ〜! 困ってる人がいるなら助けなきゃ、ね?』


 とか何とか二人で言いつつ、俺たちの心は一致していた。


((やばい。本当に面倒なことになってきた……))


 ある意味では魔力至上主義の貴族の元締めである、王様の娘が目の前にいるのだ。

 ここで俺が魔力ゼロだとバレてみろ、何と言われることやら。


「ともかく王城まで送り届けますが、俺たちのことは内密にしていただけると助かります」


「えっ、何故ですか?」


 姫様は純粋無垢な瞳でこっちを見つめる。

 それからぱん! と軽く両手を打ち合わせた。


「ああ、もしや誰にも言えない使命を帯びているとか、そういうことでしょうか! やはりドラゴンライダー、高貴なる目的のもとに動いているのですね」


『そ、そんなところですはい……』


 ティアが若干引き気味に言う。

 まさか「さっきまで自由を目指して冒険者になろうとか話していました」とは言えまい。


「ともかく、ティアの背に乗ってください。王都まで送ります」


「ええ、是非お願いします。私、ドラゴンに騎乗するのが夢だったのです!」


『あ、あはは。私の乗り心地、そんなに良いかな?』


 苦笑したティアの耳元で、俺はこっそり言った。


「ティア。このお姫様を城まで送ったら、せっかくだし王都で冒険者にならないか? 王都は依頼も多いらしいし、冒険者ギルドの選択肢もそれなりにあるだろうから」


『おっ、いいね〜! 私も変なところにカイルが入ったら嫌だもん、ちゃんと選ぼうね?』


「お二人とも、何を話されているのですか?」


 きょとんとした様子の姫様。

 俺は「ちょっとした雑談です」と返事をした。


「ティア、頼むぞ!」


『ちゃんと掴まっててね。今から王都までいっちょくせーん!』


「きゃあっ、高いです!!」


 歓声をあげる姫様は、後ろからぎゅっとしがみついてくる。

 温かくて良い匂いがして、ちょっと柔らかいものが背に……。


『カイル、私の背中で何考えてるのカナ?』


 ティアが妙に怖い視線で眺めてくる。

 まさか思考を読まれたのか? 

 流石は長年付き合っている相棒だ。


『相棒の背中で不埒な考えは禁止だもん』


「悪かった。でも人間の男のサガみたいなもんだから、許してくれよ」


 そう言うと、ティアは苦笑したように『もう』と言った。

《作者からの大切なお願い》


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