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2話 実家からの勘当

 十六歳の誕生日を迎えたその日、俺ことカイルは父の自室に呼ばれていた。

 皺の深い表情をさらに渋めて、父はこちらを睥睨する。


「カイル。お前も今日で十六歳だ」


「はい」


 プレゼントどころかおめでとうの一言もない。

 俺に魔力がないと知ってから十年以上、父の様子はずっとこの調子だった。

 父は硬い声音で続ける。


「成人の歳であった十五歳からさらに一年。私はお前に、時間と言う名の温情を最大限にくれてやったつもりだ。だが……なぜだ? なぜお前に魔力が宿らない?」


「それは俺にも分かりません」


「ふん、まあお前に今更聞いたところで答えなど出ないか。だが魔力がない者など、栄えあるグランシア家に存在してはならん。それは分かるな?」


 俺はあえて首肯した。

 ああ、嫌というほど知っている。

 魔導貴族グランシア家どころか、強力な魔導師の血筋を持った貴族家はどこもそうだ。

 尊き魔力こそが全て、それを持たざる者は下賤の者。

 魔力を持つ者がこの世を統べるという『魔力至上主義』には、魔力を持たない俺も十年以上苦しめられてきた。


「分かっているなら話は早い。カイル。十六になっても魔力なしのお前にはもう我慢ならん。この際だからはっきりと言ってやろう」


 父は目を見開いた。


「魔力0のお前は我が家の恥だ! お前は金輪際、グランシア家の家名を名乗ることは許さん! ……どこへでも行くがいい。かつての我が妻に免じて、命までは取らん。私の温情に感謝して旅立て」


「はい。お世話になりました」


 俺は父にそう言い、父の自室を出た。

 ……いつかこんな日が来るとは思っていた。

 魔力が使えない嫡子など、当主の父からすれば他の貴族に笑われる種でしかなかったのだろう。

 それでもいつか魔力が宿る可能性に賭け、屋敷においてくれただけマシだったかもしれないが。


「……まあいい。出て行けと言われればそうするさ」


 俺は自分の部屋へ戻り、荷物をまとめた。

 最低限の衣服や生活用品、ランプなどを鞄に詰め込んでいく。

 小遣いは他の貴族の子息に比べれば少なかったが、貯めていたから路銀にはなる。

 最後に幼い頃から過ごした部屋を見回し、屋敷の出入り口へと向かった。

 ……その、途中。


「カイル兄さん」


「ダリルか」


 弟にしてグランシア家の次期当主であるダリルと出くわした。

 ダリルは魔術講師の魔導師と移動中だったようだ。

 魔導師が目を細めて俺を見るが、ダリルはそれに気づかずに言った。


「カイル兄さん。身支度を整えてどこに行くんですか?」


「俺はこの屋敷を出る。父上が俺はもう要らないと言ったんだ」


「そんな……! ……僕が今から、話してきます!」


 走り出しそうになったダリルを止めようとしたら、別の少年が声を張った。


「待てよダリル! そんな魔力ナシのゴミのために、父上に逆らうことなんてない」


「リグル、でも……!」


 ダリルの双子の兄弟、リグル。

 この子は十三歳ながら、既に魔力至上主義に染まりきっている。

 リグルには何を言っても無駄だろうと思いながら、俺はダリルに言った。


「リグルの言う通りだ。次期当主なんだから、父上の言うことはちゃんと聞くんだ。でないと俺みたいに酷い扱いを受ける」


「でも、カイル兄さんは魔力がないだけだ。ずっと僕らに優しくしてくれたのに……!」


 嬉しいことを言てくれたダリルに、俺は少し目頭が熱くなった。

 けれど俺はダリルの頭を撫で「これで最後だ」と言った。


「生きていればまた会えるさ。じゃあな、ダリル」


「兄さん……」


 ぐすりと泣き出したダリル。

 けれど自分への挨拶がなかったのが気に食わなかったのか、リグルは顔を赤くして叫ぶ。


「オイ、俺には何もないのか! この屋敷を出て平民になるなら、せめて最後に跪いて行け!!」


 リグルは魔力を解放し、魔法陣から風の刃を放った。

 当たれば怪我ではすまないが、家名を失った俺相手なら何をしてもいいと思ったのか。 

 だが、甘い。

 俺は生来魔力を使えない代わりに妖力という力を得ているのだから。


「《妖力壁》」


 大気中の妖力を集中させ、たわむ壁のイメージを持って俺の前に不可視の障壁を作り出す。

 その障壁でリグルの魔力を跳ね返し、逆にリグルの魔術は彼の足元に着弾した。


「ぐっ、うわぁっ!?」


「人に向けて魔術は撃つもんじゃない」


「人? 魔力が低い平民なんてゴミみたいなもんだろ!!」


 リグルは尻餅をついたまま喚く。

 魔力至上主義というのはこんな子供の心まで侵すものなのか。


(追い出された身だけど、もっと早くこの家を出ればよかったかもしれない)


 正直、人を人とも思わない魔力至上主義には嫌気がさしていたのだ。

 でもこれからは自由に生きられる。

 誰も俺の邪魔をする者も、蔑む者もいない。

 そう考えると屋敷を出る足取りは自然と軽かった。


 ***


 屋敷を出て、俺は近くの森の中に入った。

 そこでピィーと指笛を吹くと、空から突風が吹き荒れる。

 風を巻き起こしたそいつは、透明化の魔術を解除しながら俺の前に降り立った。

 大地を砕く四肢に、天へと伸びる翼。

 精悍な角の生えた頭に、大木すら薙ぎ払う尾。

 全身を朱色の鱗で覆ったそのドラゴンは、俺の幼馴染にして相棒だった。


「ティア、来てくれたか」


『カイルの指笛が聞こえたらどこにでも駆けつける、そういう約束だったでしょ?』


 頭を擦り付けてきたティア。

 俺はティアの角を優しく撫でた。


『そうそう、十六歳の誕生日おめでと! あとで鱗でもあげよっか?』


「ありがとう。誕生日を祝ってくれるのは毎年ティアだけだな」


 ティアは俺が小さい頃、妖力の修行をしていた時からの付き合いだ。

 自然エネルギーである妖力に惹かれてやって来て、それからちょくちょくこの森で会ううちに仲良くなっていった。


『こんな昼間から私を呼ぶなんて珍しいじゃん。なにかあったの〜?』


「それがな……」


 俺は実家を追い出された話をティアにした。

 もしドラゴンのティアを相棒にしていると父に言っていれば、勘当は免れたのかもしれない。

 けれど今時ドラゴンは希少だし、もし俺に懐いていると知れれば、ティアは父や屋敷の魔導師に捕らえられて飼い殺しにされたかもしれない。

 唯一無二の親友にして相棒のティアをそんな目には遭わせられないと、俺は最後まで家族や屋敷の人間にティアの存在を語ることはなかった。


「そんな訳で、俺は自由の身になった。これからティアにどこか別の街に連れて行ってほしいなーって思うんだけど、いいかな?」


『それはいいけど、いいけど……』


 ティアは声を低め、屋敷の方を睨んで行った。


『飛び去るついでに屋敷にブレス撃っていい?』


「ダメに決まってるだろ。あそこにはダリルもいるんだぞ」


 グライシア家で唯一魔力至上主義に染まっていなかったのが、ダリルだった。

 ダリルは強いて言うなら、俺の希望なのだ。

 貴族として生きながら、魔力至上主義に染まらない可能性そのものだ。


「あの屋敷についてティアが怒ってくれるのは俺も嬉しい。でももう終わった話だ。それより俺は、ティアと一緒にこれからどう過ごすか考えたい」


『それもそっか。まあカイル本人がそう言うならいいけどね〜。ちなみに今後の方針とかある? それに沿って飛んでいくけど』


「強いて言うなら、俺は冒険者になりたいんだ」


 これまで屋敷で窮屈な生活を強いられ、魔力ゼロだと虐げられてきた。

 でも自分の生き死にも含めて自由な冒険者なら関係ない。

 あの実家では「どんな手品だ?」と信じてもらえなかった妖力を駆使して、思う存分活躍してやる。


『あー。冒険者……いいかもね! 楽しそう そしたら私も一緒に冒険者やるから!』


「ドラゴンって冒険者になれるのか?」


 そんな話をしつつ、俺はティアの背に飛び乗る。

 ティアは透明化の魔術を使いながら、大きく翼を広げて空へと舞い上がった。


『それじゃあ、冒険者ギルドのある街に向かってしゅっぱーつ!!』


 ティアの翼は俺の知る何よりも速く、生まれ育った屋敷はあっという間に見えなくなっていった。


《作者からの大切なお願い》


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