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16話 銀雹の魔王、その正体

 氷の中から引きずり出されたはずなのに、銀雹の魔王は眠たげな瞳でこちらを見つめるのみ。

 ぼんやりと殺気のない瞳と声だが、罠ではないと勘が囁く。

 何より魔王周囲の妖力を見るが、殺気で意識が乱れていないのか渦を巻いている様子もない。


「あんた、どうして森を雪と氷で覆ったんだ?」


「銀雹の魔王がそうしたいと願ったから」


「他人事みたいな響きだな。それはあんた本人だろうに」


 白夜を構えながら言えば、魔王は足元に転がる氷を指す。

 それ先ほどまで、銀雹の魔王の全身を覆っていた氷だった。


「これ、銀雹の魔王」


『は……?』


 内心俺も首を傾げたが、ティアも上ずった声で疑問を表していた。


『ええと、はぐらかすにしては適当すぎじゃない? 氷の方が魔王だったってこと?』


 大真面目な顔でこくりと頷く魔王。

 ティアは困り顔でこっちを向いた。


『カイル、この子が言ってること本当? 嘘ついても意識の乱れで妖力が渦巻くんだよね?』


「そうなんだけど、嘘ついてる様子もないんだが……」


 つまり信じがたいことに、あの氷の方が本当に魔王なのか?

 魔王は元精霊だが、精霊は人型でなければならない、なんて決まりは別にないだろうが。


「ならあなたは一体何者ですか?」


 ミユの問い掛けに、今まで銀雹の魔王本人だと思っていた少女が言う。


「私、スノウ。雪の精霊。銀雹の魔王に宿られた、いわば素体」


「魔王に宿られたって、魔王っていうのは精霊が変貌した姿じゃないのか?」


「少し違う。魔王は、精霊の『力』に精霊本人が乗っ取られたもの。魔に堕ちた精霊」


 そう言われて、何となく納得できた。

 スノウを覆っていたあの氷そのものが魔王本体。

 だから氷を切って砕いた途端、大森林中の雪も氷も溶け始めたのか。

 それで素体のスノウが氷から出られた以上、氷の方はもう何もできやしないと。


「イメージとは違ったけど、魔王っていうのは精霊の力が一人で暴走してる状態を指す言葉だったんだな」


「そう、らしい。私も他の魔王は知らない」


『魔王なんていっぱいいたら、この世がめちゃめちゃになっちゃうもんね〜。それでカイル、ティア、この子どうするの?』


「順当に行けば、依頼主のローゼさんに引き渡すのが道理ですが……」


 ティアがそう言うと、スノウは顔をしかめた。


「……やったのは魔王。私じゃない」


「そうは言っても、引き渡したらタダじゃ済まないだろうな……」


『精霊って身内には優しいけど敵にはとことん強く当たるらしいし、最悪消されちゃうかも……』


 スノウは分かりやすく身を竦めた。

 小刻みに震えているし、スノウ自身も精霊なだけにこの先どうなるのか想像できたのかもしれない。


「ミユ。この子についてなんだけどさ。精霊って冒険者になれるかな?」


「前例がないので何ともですが……えっ、まさか連れ帰る気ですか?」


「放っておいたら殺されるかもしれないって聞けばな。この子、びっくりするほど意識の乱れがないし嘘もついてない。大森林をこんな風にする気は本当になかったらしい」


 強いて言うなら、今はローゼからの報復を恐れてか恐怖で妖力が渦巻いているが。

 スノウはこくこくと頷いた。


「何でも手伝う。だから連れてって」


『話が早いね〜。でもカイル、また力が暴走して魔王になったらどうするの?』


「そりゃ力を封印するしかない。スノウ、少し触る」


 スノウが頷くと、俺はスノウの小さな両肩を持った。

 それから詠唱を開始する。


「《厳かなる巌・静謐を保ち・かの者を鎮めよ》──巌岩封」


 周囲空間に残った妖力をありったけ消費し、スノウの背に小さな妖力陣を展開しておく。

 これは常時妖力を食い続け、術をかけた対象の妖力を抑える術だ。

 本来は周囲空間の妖力調整に使ったりするが、精霊に使う日が来るとは。


『おお。スノウの妖力が十分の一くらいになっちゃった』


「これだけ弱体化すれば暴走もないだろ。それとスノウ。万が一また魔王化しそうになったら……」


「しないように気をつける」


 早口に言ったスノウ。

 この分なら本人の意識も大丈夫だろう。


「それじゃあ帰るか。雪も氷もあらかた溶けて、この分なら銀雹の魔王が倒れたこともローゼに伝わるだろうし」


「しかし報酬は……あ、そうです!」


 ミユはぽん! と手を鳴らした。


「先にカイルとティアで、スノウを連れてギルドに戻ってください。ローゼさんへの依頼完了の報告の方は私がしておきます。ついでにその時、銀雹の魔王は倒してバラバラに砕けた、とか言っておきますから」


「まあ、銀雹の魔王がバラバラに砕けたのは本当だしな。ともかく報告は頼む、後で迎えに来るから。ティアもそれで構わないな?」


『カイルがいいなら問題ないよ。仲間は多い方がいいしさ』


 俺はティアの背に乗り、手を貸してミユも乗せた。


「ドラゴンの背、結構高い」


「だろ? でも慣れれば最高さ。ティア!」


『分かったよー! ミユ、後でね!』


 ティアが羽ばたくと、手を振るミユと地上がどんどん小さくなっていく。

 その時、スノウが小さく歓声をあげた。

 目の前には、夕暮れ色に染まった空があった。


『こうして夕日を眺めていると、一日終わるんだな〜って感じするよね。でも今回の初依頼、結構いい冒険だったなーって思うよ。カイルは?』


「同感だ。冒険者稼業ってのもやっぱり悪くないかもな」


 ティアと談笑し、ところどころでスノウも混ざっているうちに、俺たちは王都へと着いていた。


《作者からの大切なお願い》


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