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15話 銀雹の魔王

 ティアが止まった後、ミユが溶けるようにティアの背から滑り降りた。


「し、死ぬかと思いました……」


『そんな大げさな〜』


 あはは、と笑うティア。

 ミユはカッ! と目を大きくして反駁する。


「振り落とされれば即死でしたよ!? カイルもよく平然と乗れましたね!?」


「飛んでるティアから落っこちる方が即死度高めだからさ。あれくらい普通だよ」


「ああ、ドラゴンライダーに常識を問うた私が阿呆でした……」


 おい、人を危険人物みたいに言うんじゃない。


「慣れもあるから、この先ミユにも慣れてもらわないとな。同じパーティーだし」


「それはそうですが、もう少し加減をですね……」


『今からそんな弱気だと、これから出るかもな魔王さん相手に何もできないよー?』


 ミユも思う節があったのか、すっと立ち上がる。

 そう、ティアがこの場所で立ち止まったのは、ここが大森林の中央部であり妖力が最も高い場所だからに他ならない。


「この辺りの妖力が高いというのは本当なのですね?」


「ああ。ローゼと会った場所に比べてもびっくりするほど高い」


『私には魔力も妖力も両方感知できるけど。これ、魔力に換算したらドラゴンのブレス並みの魔力がそこら中にある感じじゃないかな?』


「ど、ドラゴンのブレス並みときましたか……」


 桁外れの妖力に、ミユが若干引いている。

 正直、俺もこんなことあり得るのかと思っているくらいだった。


「これだけの妖力が暴発もせずに漂ってるなんてな。何より風景だけなら他の場所と似た感じだし、ローゼも魔王がこの場所のどこにいるのか見つけられなかったわけだ」


『こりゃ面倒臭いねー。どこに隠れてるのか謎だし、ここで時間を食ってたら魔物やゴーレムが四方八方から押し寄せてくるかもだよ?』


「あり得る話だな」


『あ。でもいい手があるよ? 簡単に魔王を倒せて早く帰れる手が』


「……? 正確な居場所も分からないのに、ですか?」


 小首を傾げたミユに、ティアは『もう一回私に乗って?』と催促する。


『ほら、カイルも』


「構わないけど、どうする気だ?」


『へっへー』


 ティアは人間の姿ならニヨニヨしていたであろう声を出す。

 本当に何する気だ、と思いつつティアに乗ると、ティアは翼を広げて上空へ向かった。

 そのまま口腔に輝ける魔力を充填開始。

 その輝きはさっきのゴーレムを倒した時の比ではなく……って。


「ちょっ、ティア!? まさかそのブレスで大森林の中央ごと……!!!」


『そーれっ!』


「ああっ!?」


 ミユが止める間もなく、巨大な光球と化したティアのブレスが大森林に投下された。

 直後、轟音を轟かせて地面に着弾したブレスが爆ぜ、圧倒的熱量をもって大森林の中央を根こそぎ抉り払ってしまった。

 後に残されたのは、巨大なクレーターと煙だけだった。


「近くに凍った精霊やエルフがいないのが幸いしたな」


『そりゃ確かめて撃ったもん、大丈夫だよ』


「だからってバチあたりですっ!! ああ、王国でも神聖視されるこの大森林の、中心部を焼いてしまうなんて……!!」


 嘆くミユに、ティアは言った。


『これで魔王を倒せれば、ローゼも許してくれるでしょ? ねえ、カイル?』


「そうかもな」


「ダメです。今後、今の方法は禁止です禁止……!!」


 拳をわなわなと震わせるミユ。

 冒険者といえど、流石に今のはまずかったらしい。


「……で、肝心の魔王は跡形なく……いや」


 直下の煙が風で流れる。

 するとクレーターの中心付近に、巨大な氷のようなものを見つけた。

 中には目を瞑った、銀髪の少女が埋まっている。


「あの人、ローゼの映像で見た、凍らされてしまったエルフや精霊の一人でしょうか……って! やっぱり巻き込んでるじゃないですかティア!?」


『え、えええええっ!? いやいや、そんなはずないよー!!』


 ティアは頭を猛烈な勢いで横に振った。

 俺は嫌な予感がして、目を「妖力を視る」方へ切り替えた。

 あの少女は強大な妖力をその身に抱え、意識の動きである妖力の乱れも見られた。

 道中で見かけた凍った精霊もエルフも、眠っているようで意識の動きそのものがなかったのに。

 ……ということは、だ。


「ティア、ミユ、あいつだ。あいつが銀雹の魔王だ! ああして地面に埋まってたからローゼも見つけられなかったし、俺たちもティアがブレスを撃つまで見つけられなかったんだ」


『おお〜! ってことは私、ブレス撃ってよかったってことだよね?』


 ドラゴンの姿のままドヤ顔になったティア。

 ミユは「それでも次から方法は考えましょう!」と妙に必死だった。


「話は後だ。ともかく今は、姿を見せたあいつを叩くぞ!」


『りょうかーいっ!!』


 ティアは降下しながらブレスを放つ準備を始める。

 すると地面から人間大ほどの巨大な氷の棘がいくつも立ち、こちらに向かって射出された。


「相棒!」


『掴まって!』


 ティアは曲芸のような飛行で、射出される棘を躱してゆく。

 このままだと降下できない、ならここから攻撃するしかない。


「氷の中にいるなら躱せないだろ! 《真紅の帳・爆炎となりて・舞い降りよ》──煌炎降!!」


 俺は巨大な爆炎の波を生み出し、魔王へと向かわせる。

 この場所は自然エネルギーが濃く、妖力切れによる負けはほぼないだろう。

 一気に大技で畳み掛けてもまだ後が続く。

 ……そう思っていた時、一気に周囲の自然エネルギーが消失していくのを感じた。


『何? 周りの自然エネルギーが少なく……?』


「いや、魔王に集まってるのか?」


 そう呟き、炎の大波となった煌炎降が氷漬けの魔王に炸裂する直前、地面から巨大な腕が生えて煌炎降を押し留めた。


「魔術にしてA級相当の大技を、受け止めたのですか!?」 


 ミユが叫んだすぐ後、地面がひび割れ巨大な腕の主がゆっくりと起き上がっていく。

 そいつは甲冑を纏った騎士のような外観で、全身は白銀で統一されていた。

 雄々しくも威厳すら感じさせるほどの妖力の濃さに、ティアが息を飲む音が聞こえる。

 太陽を背に立つ巨人は、銀雹の魔王を守護するように仁王立ちして俺たちを阻んでいた。


「雪のゴーレム……! 体高もさっきの五倍以上はあります!」


『しかもあいつ、この辺の自然エネルギーを全部食って出てきた……! これじゃカイルの技に使う妖力が足りなくなっちゃう!』


 ティアの言うように、奴は周辺空間の自然エネルギーこと妖力をごっそり食い尽くして召喚されていた。

 このままではジリ貧は確実。

 取れる手は撤退か、もしくは……。


「ここで依頼を完遂するなら、本体の魔王を早期討伐するしかない! ティア、ゴーレムの注意をミユと一緒に逸らしてくれないか?」


『構わないけど、カイルは?』


「魔王を直接叩く。一対一で勝負に持ち込む!」


「了解です、お気をつけて!」


 ティアは地上近くを滑空し、その隙に俺は木々へと飛び移った。

 降りた俺へとゴーレムが巨大な体を向けようとするが、その側頭部へティアがブレスを放った。

 ゴウン! と小爆発が起こってゴーレムの頭が削れるが、周囲の雪が崩れた頭を修復するように集まっていく。


『嘘でしょ!? 回復能力付きなんて卑怯だーっ!』


「《光の鉄槌よ・裁きたまえ》!!」


 ミユがB級魔術、フラッシュパージを詠唱した。 

 魔法陣から照らされた光が力場を生み出し、ゴーレムを地面へと押さえ込もうとする。

 ミユは治癒術師ながら流石にS級冒険者、治癒系以外の魔術も習得していたか。


「カイル、今です!」


「すまないミユ!」


 俺は木から飛び降り、一気にクレーター中央の魔王へと駆け寄る。

 そのまま白夜を抜剣し、魔王に斬りかかるが……。


「チッ!?」


 雪が壁のように俺の斬撃を阻み、さらに腕のような形となって掴みかかってくる。

 俺はバックステップで大きく後退し、詠唱を開始。


「《焔龍の息吹・この地を焼き・岩漿と成せ》──焔帝撃!!」


 妖力による陣を展開し、煮えたぎる溶岩を広範囲に噴出させる。

 いくら防御が固くても所詮は雪、溶かしてしまえばただの水だ。

 されど、敵も然るもの。

 銀雹の魔王はこちらの溶撃を上回る量の雪崩を魔法陣より生み出し、向かわせてきた。

 物量で押された俺は、大きく跳ね飛んで距離を取った。


「空間内の妖力も残り少ないのに、向こうはこの大森林の雪と氷の全てが武器みたいなものか。どうしたら倒せる……!」


 歯噛みした時、鞘に収まっている白夜がカチリと鳴った。


「……なんだ、使えってことか?」


 勘任せに白夜を引き抜き、刀のように構える。

 けれど何かが違う。

 この白夜には強い魔力がこもっているとティアが言っていた。

 その癖に今までの戦いで、白夜は大して役に立っていない。


「何かいけないのか? 使い方が違うとか……」


 そう呟いた時、俺はふと白夜の綺麗な刃を見つめた。

 初めて引き抜いた時にも感じた、美しく傷のない剣身。

 でも普通に切り結んでいる剣では、どんな名剣でもどこかに傷がつくだろう。


 それすらないと言うことは、この剣は今まで一瞬で敵を切り捨ててきたと言うことか。

 鞘と柄の劣化具合から一度も使われていないなんてことは決してありえない。

 ならば一瞬で敵を切り捨てる剣術とはと思い描いた時、思わず笑いがこぼれた。


「……おいおい、それって妖力と同じ東洋出身の剣技だぞ」


 前の使用者はもっと違った剣技で白夜を使いこなしていたのかもしれない。

 それでも今の俺が白夜を使う方法は、たった一つしかなかった。


「……よし」


 意識を集中させ、白夜を鞘に戻す。

 そのまま白夜を引き抜く体制で腰を落とし、魔王に向かって突っ込む体勢を取る。

 鞘から剣を引き抜く瞬間に敵を斬る剣技、東洋で言う居合切りだ。

 一応、妖力で刀を作って戦うスタイルを元から取っていた都合上、我流ながら抜刀術は覚えている。

 それがどこまで魔王に通じるか、刀ではない剣の白夜で応用できるかは未知数。

 それでも、やるしかない。

 ティアとミユがゴーレムを抑えているうちに、奴を氷ごと叩き斬る!


「……」


 ふと、氷漬けの魔王が小さく目を開く。

 初めて体の一部を俺たちの前で動かした魔王。

 何をする気だと思った刹那、俺の体が足元から氷始めていた。


「エルフや精霊みたいに凍りつかせるって算段か。でも……《真紅の帳・爆炎となりて・舞い降りよ》──煌炎降!!」


 俺は周囲を焔で包んで、体を覆いかけていた氷を強引に溶解させた。

 そのまま焔を纏いながら魔王に突っ込み、白夜の柄を握る。

 チャンスは一瞬、最高のタイミングで最大の斬撃を放つ。

 乾坤一擲。


「ハァッ!!!」


 魔王とすれ違う直前、白夜を抜剣して魔王を包んでいた氷に叩き込む。

 その氷は鋼かと思わされるほどの硬度だったが、煌炎降による融解効果もあり、俺の刃は魔王の氷に食ってかかった。

 そのまま氷を貫いて、白夜を振り切って静止する。

 パリン! と魔王を覆っていた氷が破壊され、ティアを襲っていたゴーレムに亀裂が走って倒れこむ。

 それだけでなくこの大森林全体を覆っていた雪と氷も消失を始め、目に見えて蒸発していた。

 上空からミユを乗せたティアが降下してくる。


『カイル、やったんだね!』


「ああ。魔王を覆っていた氷、あれ自体がこの大森林の雪や氷を制御している魔道具みたいなもんだったんだ。あれを壊した以上、もう魔王は好き勝手できない」


 俺は白夜を構え、割れた氷の中から立ち上がった銀雹の魔王を見つめる。

 雪のような銀の長髪に、冷水を思わせるアイスブルーの瞳。

 元が精霊だからかぞっとするほど美しかった。


「……見事。この銀雹の氷を、破るなんて」


 魔王は小さく拍手をしながら、小さくか細い声でそう言った。

 殺気も敵意もない、不思議と落ち着く声音だった。


《作者からの大切なお願い》


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