14話 雪森の踏破
結論から言えば、魔王は順当に考えれば大森林の中央部に陣取っているだろうという話になった。
その理由はずばり、この大森林の中心へ向かうに従い妖力が強くなっていくからだ。
魔術と同じで、妖術も術者から近ければ近いほどに妖力が高まる傾向にある。
ならば中心から攻めてみようという考えに至るのは自明の理だった。
そんな訳で、俺たちは大森林の中心へ向け、代わり映えしない白銀世界の中を進んでいた。
『空から魔王を探せたらいいのになぁ。速攻でブレス撃てるのに』
「そう言うなって。元々木々が多い茂ってるところだから、上空からの目視は絶望的だ。妖力の乱れも確認できないし、歩くしかないだろ?」
『それはそうだけどさ〜。寒いし早く帰りたい……』
肩を落としたティアに、ミユがくすりと微笑む。
「そう言わないでください。王国付近では雪は非常に珍しきもの。冒険先で見かけることはありますが、だからと言ってこんなに真っ白な景色は私も初めてです。ティアも少しは楽しんでくださいな」
『私、カイルと会う前は世界中を飛び回ってたから、雪なんて珍しくないんだもん。ふわふわしてて美味しそうって食べたらお腹壊したし、いい思い出ないかなーって……ん?』
うなだれていたティアが、ふと顔をあげてダガーを引き抜く。
それから小声で俺に耳打ちする。
『カイル。今の分かった?』
「当然」
俺は骨ドラの巣から拾った剣、呼び名がないと不便だと言い、先日ティアが命名した【白夜】を抜剣した。
銀世界を映した刃がサラリと輝く。
「カイル、ティア? 魔力などは特に感じませんが何を……?」
「音に振動。明らかに人間じゃないものが真下で動いた」
妖力は自然エネルギーであり、その感知には周囲環境を把握する能力が求められる。
我流ながら幼少からの鍛錬で妖力の扱いをものにしていた俺も、周囲環境の把握能力には長けている自覚があった。
足裏や肌を通して感じた振動は俺たちへと迫り……地上へ飛び出た刹那。
「そこだっ!」
「きゃっ……!?」
雪の中より飛び出した白毛の魔物は、ノーザンコボルトだった。
それも計五体、俺たちを囲うようにして奇襲を仕掛けてきた。
「嘘、魔物の気配は今の大森林にはなかったはず……!?」
「ミユ!」
瞠目するミユへと、ノーザンコボルトの爪が迫る。
俺はミユとノーザンコボルトの間に割って入り、一体目の爪を白夜で弾き、二体目は蹴りで退けた。
その最中、俺は詠唱を開始し周囲空間の妖力をかき集める。
「《轟く雷鳴・閃光を降ろせ》──閃時雨!」
俺の持つ技の中で最も出が早い、稲妻の術。
空間を引き裂く稲妻が蛇のように閃いて、ノーザンコボルト五体をまとめて貫き飛ばした。
『GRRRR!!??』
胸部を焦がしたノーザンコボルトが転がり、ティアが顔をしかめた。
『こいつら、雪の中に潜んでたんだ。私の鼻で分からなかった訳だよ』
「おまけに妖力をまとった雪と氷がカモフラージュになって、雪の下に隠れられたら接近するまで俺の妖力感知も利かないって寸法だな。それで空から大森林を見下ろした時、奴らの気配を感じなかったと。ミユの魔力感知は……」
「ダメです。私はあくまで治癒術師。簡易的な感知しかできません、雪の下の魔物の気配なんて……」
かぶりを振ったミユ。
ミユの役割は治癒なのだから、敵の察知まで要求するのは酷だろう。
「でもカイルもティナも、敵の気配に敏感だとこれで分かりました。完全な不意打ちはされにくいでしょうから、そこは安心です」
「でもどうして魔物が……って、言うまでもないか」
雪国に住むノーザンコボルトは、この大森林に本来生息していない魔物だ。
銀雹の魔王に連れて来られた配下だろう。
『大昔の魔王も魔物を従えてたって話だもんね。魔王には魔物を従える力もあるのかも』
「こりゃ相当に面倒な仕事だな。何より気温が低すぎて、長居すればするほど体力を持ってかれる。ミユ、手持ちの食料は?」
「携行食が少し。カイルやティアと同程度です」
体力や体温を保つにも、食料が必要だ。
暖を取るのは妖力でどうにかなるが、手持ちのアイテムが寒冷地向けでないのが痛かった。
「まあ、大森林が雪に閉ざされてるってマスターも知らなかったわけだし、考えても仕方ないか。こうなったら速攻で畳み掛けるぞ。ティア、ドラゴンの姿になれるか?」
『なれるけど、飛ぶの? 上から探すのは難しいってさっき……』
「悪いが俺たちを乗せて走ってくれ。三人で歩くより早いし、ドラゴンのティアならスタミナ面も心配なしだ」
『ああ、そゆことね〜。でも寒くてちょっと大変だから、帰ったらご褒美にジュースいっぱい買ってね!』
ティアは王都での生活を満喫していて、最近のお気に入りは大通りにある露天の果物ジュースだ。
爽やかな甘みがクセになる一品で、帰ったら一緒に飲もうと心に決めた。
「了解だ。それじゃあ頼むぞ!」
『おっけ〜!』
ティアは閃光をまとってドラゴンの姿になって、俺とミユはその背に乗り込む。
白銀世界を駆け出したティアは、軽快に言った。
『この姿になると、思ってたより寒くないね〜! 体温上がったかな?』
「ドラゴンの方が人間より体温も魔力も高いしな。この際だし依頼が終わるまでこっちの姿でどうだ?」
「う、馬より速い……!?」
ミユは俺にしがみつきながらそう呟いた。
そうか、ミユは走るティアに乗るのは初めてか。
「ドラゴンにも何種かいるらしいけど、ティアは大地竜の血が濃いらしい。だから走るのは得意だって前に言ってた」
『他にも空竜の血も混じってるけどね〜。お陰で私、飛ぶのも走るのも大得意っ!』
「ドラゴンの種類にも色々といるのですね……おやっ?」
ミユが目を見開いた先、俺たちの進行方向に五メートル以上はありそうな何かが三体立ちはだかっている。
雪と同じ色で目視しづらいが、明らかに魔物ではない人工物的なシルエットをしていた。
ゴツゴツとした表皮を持った人型のそれの正体はすぐに分かった。
「人型攻城魔導兵、ゴーレム……!? 魔力は一切感じないのにどうして……って、まさか妖力で駆動しているのですか!」
「ご明察だな。あいつらからは強い妖力を感じる」
あれも魔王の眷属か。
魔力に換算すればS級のアルベリクスといい勝負だろう。
だが所詮は動きが鈍重なゴーレム、ティアの敵じゃなかった。
「相棒、ぶちかませっ!」
『任されたよ相棒〜!』
ティアは口腔に輝ける魔力を充填し、魔法陣を展開。
そのまま駆けながら横薙ぎのブレスとして発射すると、ゴーレムたちの上半身がガラス細工みたいに消し飛んだ。
ゴウン! と煙を上げながら倒れるゴーレムの残骸を、ティアは踏み潰して駆け抜ける。
『私にかかればこんなもんだよっ!』
「え、ええぇ……? 五メートル級のゴーレムをああもあっさり??」
目を白黒させているミユに、俺は言った。
「ドラゴンのティアならこれくらい当然だ。流石だ相棒!」
『もっと褒めて〜! 私、褒められて伸びるタイプ!!』
ティアは調子が上がったのか、駆ける速度がより速くなっていく。
その背で俺にしがみつくミユが「速いです速すぎです!?」と半泣きになっていたが、鼻歌を歌いながら駆けるティアにはその声は届いていないらしかった。
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