12話 新たな依頼
「あれっ、ここは……?」
「レイナ、目を覚ましたんですね!」
幽谷から戻った翌日。
ギルドの医務室で目を覚ましたレイナに、ミユが感極まった様子で抱きつく。
レイナはミユを見て目を白黒させていたが、この様子なら体も回復しきったのだろう。
「あたし、確かドラゴンに襲われて。それで……」
レイナはあれこれ考えるように黙ってから「あっ!」と声を上げた。
「い、依頼は!? あたしがポーチに入れてた薬草、ちゃんと納品してくれた?」
「お前、起きて早々にそれかよ……」
嬉しそうに言いつつ、目の端に涙を溜めていたユリウスが言う。
「安心しろ。ちゃんと見つけて納品済みだ。報酬も支払ってもらった。それよりミユたちに感謝しろよ? 瀕死のレイナを助けてくれたんだからよ」
「それはもうね。ミユ、本当にありがとう。それと気になったんだけど……」
レイナは俺とティアを見つつ、言った。
「そこの二人、誰?」
ミユがずっこけた。
「レ、レイナ! 私よりこの二人です! カイルとティア、この二人がレイナを襲ったドラゴンを倒してくれたんです! それにイグドラシルに新しく入った冒険者でもあります!」
「え、ええっ!? 嘘、新入り!? ……ごめんね、誰とか言っちゃって。しかも助けてくれたんだ」
「皆が必死そうだったから、力を貸したくなっただけだ。俺はカイル、よろしくなレイナ」
『相棒のティアで〜す! よろしくねっ!』
俺やティアと握手をしてから、レイナは言った。
「この二人に助けてもらったなら、報酬も山分けだね。ああ、後で遠慮せずに受け取ってよ。あんたたちがいなかったら、あたしは今頃あの世だからさ」
「そう言うならありがたく。こっちも生活費は溜めておきたいからなぁ」
手持ちもダガーやポーションを買って少ない。
そこで多少でも金が入るならありがたい。
と、思っていたのだが……。
「レイナがそう言うと思ってもう分けておいたぜ? はいこれ、カイルとティアの分な」
ユリウスが俺とティアに渡して来た皮袋はずっしりと重く、中には金貨がぎっちりと詰まっていた。
『えっ、こんなにいいの!?』
「山分けだから大丈夫だ。全員均等に等分してある」
「これは想像以上だな……」
思わずそう呟く他なかった。
これだけあればしばらく遊んで暮らせるほどだ。
これがS級冒険者の報酬のその一部とは、依頼を続ければ生活には困らないだろう。
「しっかし、カイルとティアって何者なの? あたしを襲ったドラゴンを倒すなんて」
聞いていたレイナに、俺は答える。
「俺は妖力使いで、ティアの方は……」
『はい、ドラゴンだよー! 実はカイル、私に乗るドラゴンライダーだから!』
ティアはギルドの空きスペースでドラゴンの姿に戻り、レイナに見せる。
するとレイナはぽかんと口を開けていた。
「ド、ドラゴンライダー!? またとんでない新人が入って来たね……。それにああ、うん。あたしを襲ってきたドラゴンを倒したって話も納得したよ」
そう言いつつ、レイナは首を伸ばしたティアの頭を撫でた。
おっかなびっくりといった様子だったが、ティアは気持ちよさそうに目を細める。
それからティアは人間の姿になった時、マスターが医務室に顔を出した。
「騒がしいと思いきや、目を覚ましていたかレイナ」
「マスター、心配かけちゃったね」
「全くじゃ! この阿呆め、今後はこのようなことがないようにな。儂らもお前さんが死んだんじゃないかと気が気じゃなかったわい」
怒鳴りつつも、マスターはなんだかんだでレイナが無事に帰って来て嬉しそうにしている。
レイナもそれを分かってか、怒られたのに気分を悪くはしていなかった。
「それとカイルにティア。入ったばかりなのに苦労をかけたな。ティアの翼がなかったら、レイナの救助は間に合わんかっただろう」
『それを言うならカイルもだよ。骨のドラゴンと私、一対一ならいい勝負だったと思うし。レイナを連れ帰れたのは、カイルがあのドラゴンをやっつけてくれたからだもん』
マスターは「ほうほう」と俺の方を見て、ヒゲを揉んだ。
「カイルもなかなかにやり手のようだな。では初の依頼として、こんなものを任せてみようか」
マスターが懐から取り出した依頼書には【A+級指定区域】と記されていた。
A+ってことは、A級とS 級の中間くらいだろうか。
場所はフォルティア大森林とあったが、この名前には聞き覚えがあった。
「フォルティア大森林って、あの精霊が住むって噂の場所では。しかも依頼主の欄には『大精霊ローゼ』って」
「ああ。見ての通り精霊からの依頼だ。当ギルドは人間からの依頼以外に、精霊のような希少種族からの依頼も受けておる」
マスターはさらっとそう言ったが、いやただごとではない。
精霊とは万物に宿る概念が形を得たものだ。
伝承にもおとぎ話にも出てくるが、実際に会うのは並大抵ではないと聞く。
それに高位の存在は神の写し身である人間の姿を取ると古い文献にあったが、依頼が来るなら人型精霊からのものだろうか。
「カイルは魔力が使えないが、妖力、つまりは自然エネルギーを扱える。自然の化身たる精霊とは相性がいいと思うのだが。どうだ?」
「マスター直々に渡してくれた依頼なので受けようかと。ただ……」
俺は依頼書の概要欄を眺める。
「……魔王討伐とは?」
依頼書の概要欄には女性らしい柔らかな文字で『魔王討伐』なんて穏便じゃない文字が並んでいる。
マスターは頭を掻いた。
「いや、なぁ。それは儂にも分からん。だができればS級を寄越して欲しいとも依頼書と一緒に来た手紙にも書いてあったし、それなりにハードな依頼になるのは間違いないと思うのだがな」
『魔王だかなんだか知らないけど、私のブレスで消しとばして終わりだよ〜』
ほんわかした声で恐ろしいことを言う我が相棒。
とは言えティアのブレスで片付くなら、それに越したこともない。
「ついでにミユ。しばらく時間はあるか?」
「はい。しばらく好きにしたいと陛下……父上には伝えてきましたので」
「ではカイルについてやってはくれないか? 初依頼でカイルも勝手が分からんだろうし、儂もミユがいれば安心だ」
「マスターの指示とあらば。承りました」
ミユは二つ返事をして、俺の方を向く。
「ではカイル。この依頼でもお願いしますね?」
「こっちこそよろしくな」
俺がそう言うと、横にいたユリウスが茶化し気味に言う。
「カイル。お前ミユとこのままパーティー組んだらどうだ?」
「パーティー?」
今までティアと二人であれこれやってきたから、他の人と組むなんて考えたこともなかった。
でも治癒術師が一人いれば、安心感もある。
何より気のいい先輩兼仲間は一緒にいてくれるとありがたい。
「ミユ。ユリウスはこう言ってるけどどう思う? 俺はできればこれから先も組んでもらえると嬉しいんだけどさ」
「一応は皇女という立場なので、冒険から離れなければならない時期もありますが……。それでもよければお願いします!」
ミユの快い返事に、ティアは『それじゃあこれからはミユも乗せて飛ばないとね!』とはしゃいだ。
するとレイナが「おお、やるじゃんカイル」と目を丸くして言った。
「ミユって皇女だからさ。何かあったら困るって意味で冒険に誘う奴も少ないんだけど。いきなりパーティーに誘うなんてやるじゃない」
「ん、そうだったのか」
「だって皇女様だよ? 万が一があったらカイル、打ち首じゃ済まないかもよ?」
これまた茶化した物言いのレイナに、今度はミユがぷりぷり怒り始めた。
「もう、レイナ! せっかくパーティーを結成したのに、速攻で崩れるようなこと言わないでください!!」
「冗談よ冗談。でもあたしにもミユを積極的に危ない依頼に誘う度胸はなかったし、カイルは一気にパーティーまで誘って、すごいなーって思っただけよ。冒険者のパーティーって一蓮托生って意味もあるから」
どうやらミユを気軽に誘った「パーティー」には、思いの外深い意味があったらしい。
「とは言え俺、ユリウスの言葉に乗っかっただけなんだけどな」
苦笑しつつユリウスの方を向くと、ユリウスは明後日の方向を向きながら口笛を吹いていた。
こいつ、完全に冗談のつもりでパーティーについて言ってたな……。
とは言えこんな適当なところも冒険者らしさか。
「それでカイル。いつ依頼に向かいますか?」
「今日はもうゆっくり休んで、準備もして明後日に出ないか? ティアにもあまり無理をさせたくない」
『私はまだまだ平気だけどね〜。ドラゴンだもんっ!』
ドラゴンでも疲れは溜まるだろうに。
こっちに疲労を気取らせないようにしているティアに感謝しつつも、やはり明後日に行こうというところで話はまとまった。
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