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11話 ドラゴンの巣

『うーん。この辺かな? それともこの辺……?』


「ティア、どうしたんだ?」


 白骨のドラゴンを倒した後、ティアは人間の姿になってくんくんと周囲の匂いを嗅いでいた。

 ティアは『あのドラゴンの巣を探しているの』と言う。


『ドラゴンって巣穴に宝物を集める習性があるからね〜。見つけたら何かもらって行けないかなーって思って。あんなに苦労させられたんだから、少しは何かの足しにしたいもん』


「確かにドラゴンって宝物を集めるって習性があるとは伝承とかで聞くな。ちなみにティアには宝物ってあるのか?」


『そりゃもちろん、相棒のカイルに決まってるじゃん! それと一緒に過ごしてきた時間!』


 ティアは言いつつ照れたのか顔が若干赤くなっていたが、俺も正面切ってそう言われると小恥ずかしくなってくる。

 いや、正直かなり嬉しいけど。


『……あっ! こっちからあのドラゴンの匂いが少し強く感じる。カイル、早く早く〜!』


「待てって。レイナを背負っていかなきゃいけないだろ」


 小柄なミユに背負わせるのも難しいだろうし。

 俺はミユの手を借りつつ眠るレイナを背負い、ティアの後を追った。

 そうしてティアとやって来たのは、ドラゴンがすっぽり入れるほどの巨大な洞窟だった。

 中からはじっとりとした風が吹いて来て、いかにもあのアンデッド的見た目の骨ドラが好みそうだった。


「ここがティアの言ってたドラゴンの巣か」


『うん。思ってたより雰囲気悪そうだけど……。まああのドラゴンは倒したし、もう怖いものナシっ! さ、早く行こ行こ〜』


 ティアは普段通りの適当さと快活さを見せつつ、ずんずんと中に進んでゆく。

 俺はそれについて行こうとするが、ふとミユが立ち止まっているのに気がついた。


「ミユ、早く行こう。ドラゴンを倒したとはいえ、逸れると別の魔物に後ろから襲われかねないぞ」


「ええ。ですがこうしてドラゴンの巣に入れる日が来るとは、思ってもみなかったので……」


「どういうことだ?」


 聞くと、ミユは言った。


「冒険者にとってドラゴンの巣とは、伝説的存在であるドラゴンを討った者にのみ入ることが許されると口伝される場所なのですよ。そのような場所に、カイルたちのおまけで入って良いものかと今更ながら……」


 若干遠慮がちなミユに、ティアは微笑んだ。


『いいのいいの! 一緒に探した方が宝探しだって捗るでしょ?』


「ティアもこう言ってる。行こう、ミユ。こういう宝探しも冒険者の醍醐味じゃないのか?」


「ティア、カイル……。ええ、分かりました。確かに醍醐味といっても嘘じゃありませんよね」


 それから俺たちは竜の巣の中を進んでゆく。

 洞窟内は幸い一本道で、帰る際に迷う心配はなさそうだった。

 もっといえば洞窟はそこまで深くはなく、最奥にはものの数分でたどり着いた。


『ここが一番奥かぁ〜。それであのドラゴンのお宝って……これ?』


 ティアが首を傾げるのも無理はない。

 俺たちの目の前には大量の白骨が積み上がっていた。


『何を宝物って考えるかは竜次第だけどさぁ。今時倒した相手の骨が戦利品兼宝って、感性が古すぎるよあのドラゴン〜』


「苦労して倒して、その後見つけた宝が骨じゃなぁ。でも何かめぼしい物とかあるかもしれないぞ?」


『うーん。ちょっと待ってね』


 ティアは目を閉じ、じっと固まる。

 そんなティアを見て、ミユが首を傾げた。


「カイル。ティアは何をしているのですか? 魔術行使前の瞑想のようにも見えますが」


「あれは魔力を感知しているんだ。面倒くさがりやなティアは滅多にやらないけど、必要な時、時たまやってくれる」


 大方、魔道具の類が転がっていないか調べているんだろう。

 もしくは魔力をふんだんに含んだ鉱石、宝玉とか。

 しばらく静かにしていたティアが、ぱちっと目を開いた。


『んー、なんか一本細長いのがあるねー。取ってみようか』


 ティアは洞窟の壁際、骨ドラが寝床にしていたらしき枯れ草が積み上がった場所へ向かう。

 その中央に潜り込んだティアは『よいしょ!』と一本の古びた剣を手にして戻ってきた。


『これ、鞘越しに結構な魔力を感じたよ? 何かの魔道具じゃないかな?』


「もし魔道具ならかなり高位のものですね。もしくは魔剣で、力の代償に呪われている可能性もありますが。一応は祓っておきましょうか?」


「頼む」


 ミユは治癒系の魔術を唱え、魔法陣を展開して光を放ち、剣を浄化する。

 治癒系の魔術はアンデッドや怨霊を祓う効果も持っている。

 呪いにも効果覿面だと前に屋敷の文献で読んだが、S級冒険者のミユならその効果は凄まじいだろう。


「……ふむふむ。呪いの類はないようですね。カイル、剣を抜いても大丈夫です」


「ありがとうな、ミユ」


 俺はレイナを一旦背から降ろし、剣の柄と鞘を掴んで引き抜いた。

 キィン、と鋼の澄む音が響いて、青みがかかった銀の剣身が露わになる。

 古びて黒くなった柄と鞘からは考えられないほど、刃の輝きは強かった。

 一目で名剣と分かるそれを見て、ティアが感嘆の声を上げる。


『おおお〜っ! これ、カイルの武装にしたらかっこよくない? 相当な魔力を秘めているし、きっと何か特殊な力があるよ!』


「でも俺、魔力についてはからっきしだぞ。しかも剣、ティアの背に乗って戦うにはリーチ不足じゃないか?」


『いいのいいの! 自衛用に持ってるだけでもいいんだし。何より……やっぱりドラゴンな私としては、乗り手にはかっこいい剣を持ってて欲しいかなーって! ほら、有名な竜騎士の絵画とかでも乗り手は剣をよく持っているって、カイルも前に言ってたじゃん!』


 ティアの言う通り絵画や伝承の竜騎士は大抵剣を持っている。

 聖剣とか魔剣とか、その手の特殊な剣だ。

 正直「たとえ聖剣でも竜の背に乗ってどう使うんだ。明らかに槍とか弓じゃないと敵に攻撃できんだろ」とは思う。

 しかしティアもドラゴンとしては、乗り手の武装にはこだわりたいらしい。


「……まあ、魔物との白兵戦で剣があれば便利か。俺の武器、買ったダガー以外は全部妖力で生み出してたし」


『そうそう! 妖力の薄い場所で戦う時とか、きっと役に立つから。ね?』


 妖力の薄い場所、例えば自然の少ない街とかか。

 妖力は自然エネルギーなので、森林や湖、海などでは豊富にあるが、逆に人里やそれに類する場所では減少する傾向にある。

 冒険者はどこで荒事があってもおかしくないと聞くし、帯剣するのも理にかなっていると言えば間違いない。


「ティアがそこまで言うなら、この剣はもらっていこう。手ぶらで帰るのも癪だしさ」


 それから俺たちは洞窟を出て、ドラゴンの姿に戻ったティアに乗って王都へ戻った。

 空の旅路で、レイナが「まだ眠い……」と寝言を呟き、一同を和ませてくれたのはここだけの話だ。


《作者からの大切なお願い》


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