紅蓮の盾の誤算だらけの顛末12
仕事が好きだったのか客の反応が好きだったのかは不明だが、マナは働くことを楽しんでいたからどこかで店を続けていると思っていた。
俺は彼女の行方の手掛かりを求めて、まずはリランジュールでの俺とマナ二人で住んでいた家へ向かった。
古びた小さな家。玄関の前に立った時、郷愁のようなものを感じた。マナは知らないだろうが、この家とそこでの一時がズタボロだった俺にどれだけの安らぎをくれたか。
戸を叩いてみたが応答は無い。施錠されていて人の気配は無かった。まあ予想はしていたから落胆はしない。ただ少しぼうっと玄関を眺め突っ立っていた。
控えめに置かれていた花壇も無くなり片付けられているから空き家なのだろう。
「君、もしかして…………」
こちらへと歩いて来た男が、俺の顔をまじまじと覗くようにする。
「あ………」
こいつは確か近所の商店の息子だ…………名前は忘れた。二度ほどマナの家に食材を届けに来ていたのを見かけたことがある。
「ああ、やっぱり君か。どこにいたんだよ?」
「マナを見なかったか?行方を知らないか?」
「へ、あ?」
「答えろ!」
肩を掴み、つい喰い気味に問う。男は目を丸くしていた。それはそうだろう、いきなり開口一番飛び付くようにして聞かれたら驚くだろう。
冷静にならなければ。期待すれば落胆が大きいと分かっているだろうに。
「…………すまない、焦ってて」
俺は何をやってるんだ。
肩から手を離すと、半ば怯えていた男がきょとんとしたように首を傾げた。
「店にいるけど」
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店から客が出ていくのを、俺は眺めていた。
「ふ…………」
喉の奥から苦笑が漏れた。
何のことはない、家が片付いて見えたのは引っ越す手筈を終えていたからだ。勿論、店にも捜しに行くつもりだったが、何も無かったようにマナが働いていることに力が抜ける思いだった。必死な気持ちでこっちは捜していたのに。安心と呆れの入り雑じる気分でいたら、マナが店の外に出てきた。
小さな身体で暖簾を仕舞おうと背伸びをしている。
気付けば彼女の背後から腕を伸ばしていた。
上を向いたマナは目を丸くして俺を凝視していた。
「まだ………治療できますか?」
溢れ出しそうになる言葉の代わりに、そんなことを問うた。
俺の胸中を知っているのか、マナが嬉しそうに笑みを浮かべた。
「どうぞ」
促された俺は、なぜか緊張で手に汗を掻いていた。
どうやってこの気持ちを伝えよう。二度と彼女が俺から離れない為にはどうしたらいいのか。
まあ、そんなことは杞憂で終わるのだが、この時の俺は知るよしもなかった。
これは聖女マナが俺の為だけに立てた遠大な計画だった…………と自惚れてもいいだろう?
〈完〉
長く空けていてすみませんでした。




