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紅蓮の盾の誤算だらけの顛末8

 俺は今にも駆け出しそうになる気持ちを捩じ伏せて辛抱強く待った。暴れたりすると予想していた屋敷の者達はホッとしたようだった。だが長年の知己であるロイドは俺の態度に警戒感を解かなかった。俺は拘束具を外されることはなく、塞がれた窓と鍵の掛かった部屋からは出ることはできなかった。常に見張りがいて、食事時にはスプーンしか使わせてもらえない。


 さすがロイド良く分かっている。だが…………


「囚人扱いしたいのではない」


 ロイド自らの監視の元、足だけは自由にされた俺は入浴を許された。


「悪いが手は自由にしてやれないから、洗ってやる」

「おまえがか?」

「他の者には任せられないからな、後ろ向け」


 男に触られるのは微妙に気持ち悪いと思うが、俺は無言で背を見せた。腕捲りをしてスポンジを手にした彼が屈んだところで、振り返りざまにその首に腕を回し交差させて拘束具で絞め上げた。


「がっ?!うぐ」


 驚いたロイドが身を捩り抜け出そうとする。両手で彼の後頭部を掴むと引き下ろして、膝で顎に衝撃を加えてやる。


「こういう扱いには慣れてるんだよ」

「の、ノア」


 顎を押さえて倒れたロイドの腰から剣を奪い、拘束具を切った俺は彼の怪我が酷くないのだけ確認すると濡らしたタオルで逆に手首を後ろ手に縛った。


「ば、馬鹿が!無謀なことをするな、頭おかしいのか?私はノアの為を思ってしているというのに!」


 歯茎から血を流しながら喚くロイドを、俺は冷たく見下ろした。


「何が俺の為だ。おまえのやってることは俺を奴隷扱いした奴らと一緒だ」


 目を見開いたロイドだったが、たちまち俯いて唇を噛んでいた。


 俺の身を案じているのは分かる。だが俺の意思を蔑ろにすることは許せない。


 服を着てロイドの剣を手に歩いて出ていこうとしたら、それまで項垂れていた彼が声を出した。


「……………待て」

「今さら止めるな」

「私も行く」


 顔を歪ませた彼は泣きそうに見えた。


「何?」

「止めても無駄なら……………せめて力になりたい」





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