紅蓮の盾の誤算だらけの顛末7
「マナ、う、ふうう、い…………いくな、くうう、だめだ、まな、あっ」
強烈な快楽をこれほど鬱陶しいと思ったことはない。自我が飛びそうになる中、地面に爪を立てて凌いでいた。
最初は彼女が何を考えているのか分からなかった。
だが普段とはかけ離れた冷たく突き放す言葉を聴いた時、その震える声と半泣き顔を見れば、自ずと伝わってしまった。ロイドに何を言われたのか想像もついて、なぜ早く察することができなかったのかと歯噛みする。
マナは優しすぎるのだと思った。俺は守りたいのに、彼女は俺を守ることだけを考えていた。守られるなんて思ってもいない。自身を犠牲にするのを厭わないというのか。
怒りや悔しさがないまぜになって息が苦しいようだった。自分の力では、抗うだけで何かを動かす力が無いことが最も腹立たしかった。
快楽を逃すことで精一杯だった俺は、後頭部を殴られたようで気が遠くなっていった。
「ノア、ごめんね」
耳元で囁かれた言葉が、ずっとこびりついて離れない。
次に目覚めた時には寝台に横たわっていた。固く窓は閉じられていてカーテンが閉められていた。暗いが、部屋の意匠から自分の館ではないことは分かった。
体を起こそうとしたら手足が言うことを聞かない。
「は…………っ」
両手首は革紐で纏めて縛られ、両足首も同じだった。枷でないのは、それなりにロイドの配慮かもしれないが、自由を制限される状態は奴隷だった頃の記憶を引き摺り出す。
吐き気を堪えていたら、ロイドが様子を見にやって来た。
「ノア」
「よくも……………」
怯んだ様子を見せたが、直ぐにロイドは寝台に座る俺の横に距離を空けつつ見下ろしてきた。
「怪我をさせてすまなかった。だがこうでもしないと無茶をすると思った」
「マナは今どこだ!」
「もう発ったよ」
寝台から立ち上がろうとしたが、拘束された手足が縺れよろめいた。
「こんな仕打ち、おまえに何の権限があってやった!?早く外せ!」
「嫌だ」
「ロイド」
「冷静になれ、ノア。あの娘一人の為に自滅するなんて馬鹿げている。マナのことは忘れるんだ、そうすれば元のように暮らせる」
俺は喉を鳴らして嗤った。俺がそれを喜ぶとでも思っているわけないだろう。
「ノア…………僕はもう二度とノアを見捨てるような真似はしたくないんだ。ただ守りたいだけなんだ」
俺が笑うのを気味悪そうにしながら、ロイドはそう弁解する。
俯いて黙った俺を居心地悪そうに見ていたが、やがて背を向けた。
「直ぐに自由にするから……………忘れるんだ」
ロイドの言葉は頭にまるで入ってこない。腕の革紐を見つめたまま俺は思考を巡らせていた。




