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紅蓮の盾の誤算だらけの顛末4

「聖女」


 言葉にすれば、マナが唇を噛んだ。知られてしまったという諦めのような表情。知らないふりをすれば良かったのだろうか。いや、でも皆気付くだろ?


 彼女は『聖女』として目立つことを嫌がっているようだった。でも状況が変わった。その身分が今後彼女の助けになるはずだ。


 マナの視線を背中に受けつつ、そんな算段をしていた。森を半ば行ったところで川に出た。雨で水位の増した川は、過去の跨ぐ細さの小川とは様変わりしていた。浅瀬を探ろうと思っていたら、聞き慣れた音を耳が拾った。

 視界にマナがいて、咄嗟に突き飛ばしていた。


「うぐ!」


 胸に矢を受けるなど、本来の俺なら有り得ない。剣で払えばいいものを、それすら思い付かないほどに焦るなんて。

 キリリ、と弦音がする。次矢が来る。痛みで体が動かなくなる前に射手を討たなければ。視線を巡らせた先、予想よりも離れた所から矢をつがえる『鷹』の姿があった。

 次の矢も確実にマナを狙っていた。それをなんとか剣で叩き落とす。


 奴は、俺がマナを庇うのを分かった上でこんな卑怯な真似をしている。有り得ないが仮に彼女が怪我をしたらどうする気なのだ。


 ああそうか、『鷹』のマナへの気持ちはその程度か。


 血を吐き、とうとうまともに動けなくなった俺を、小柄なマナが懸命に肩を貸して支える。

 そして彼女が空中に手を突き出しただけで、追っ手の者達は次々と倒れていった。人を治療することが好きな優しいマナが、人に危害を加えるのは辛いだろうに。

 だがこれなら彼女一人でも逃げられる。なのに彼女は俺を担ぐようにして川に入るものだから、俺も遠くなる意識を繋ぎ止めて少しだけでも負担が軽くなるように足を動かした。


「ノア!ノア!」


 ポロポロと涙を溢して彼女が叫ぶ。こんなに取り乱したマナを見たのは初めてだ。俺の為に泣いているのか?

 皮肉なことに俺の意識を繋ぎ止めてくれたのは彼女がもたらす快楽の感覚で、矢を引き抜こうとする手が震えているのに気付くことができた。彼女の手に触れると力を込めるタイミングを合わせる。


「っ―――!」


 息が詰まるような灼熱の痛み。何度傷付いても痛みに慣れることなど有り得ないが、マナがいるから平気だった。彼女は俺にとって多くの意味で希望だった。


 泣きながら治療を施す彼女を見ていたが、すぐに快楽の波に浚われる。


「は、あっ、ああっ、んんー!」


 マナに殆ど抱き締められてる形で、俺は背を弓なりにして鼻にかかる声を上げた。恥ずかしい、それなのになんて気持ちがいいのだろう。


 まずいな、と片隅で思う。

 もう自制が利かない。振り切るつもりで肩を掴んだら余計おかしくなりそうだった。首筋に額が触れる。最初の頃とは比べようもないぐらい彼女の肌に惹き付けられる。


 ダメだ、この状態では信じてもらえない。以前マナが、快楽を好意と間違う客の話をしていたことは記憶に新しい。それなのに………


「ん、う?!」


重ねたら止まらなかった。もう何も考えられない。今だけでも口づけを許して欲しい。

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