その熱が冷めても
「はううう、すごっい!」
「ジャックさん若いのに相変わらず肩の凝りすごいですね」
「はん、す、すごいの!久しぶりぃ!」
『リラクゼーションマナ』は今日は最終日ということで一段と賑わっている。店じまいサービスで三日間限定の料金半額設定で呼び込みをしたものだから殺到してしまった。予約無しで受け入れたのは失敗だったな。
店舗は引き取り主が既に決まっている。思い入れのあるものなので、ちゃんと使われることになって良かった。ちなみにケーキ屋として活用されるそうだ。
「ジャックさん、今までありがとうございました」
「はああ、すご、い、さびしくう、なるう」
「そうですね、でもまたいつかジャックさんの店にも遊びに行きますね」
「う、うん!ぜひい」
こんな風に馴染みのお客さん達は残念がってくれて有り難かった。私も寂しいが、どこかスッキリもしていた。
そういえばジベルも来てた。店と彼の城は実はそれほど遠くなくて三日間のみのオープンの初日に顔を出していた。額を何度も床に擦り付ければこうなるのかなという痣を作っていた。
「あああじょうおうさまああ!」
「わ、わかりましたから!女王様やめて!」
「わ、わたくしめはあ、あなた様のイヌです、あっ!うなああ!」
「あなた本当にジベルさんですか!?」
もう彼は以前の『鷹』じゃない。人畜無害なとんびだ。能ある鷹は爪を隠すけど、もう爪も無いだろう。
「ジベルさん、私は店を閉めてここを去ります」
「あ……………あああ」
「だからもう快楽は忘れて、元の…………いや、まともなジベルさんになって下さい。もう無駄に怪我しても治療できませんからね」
「あああ」
また泣かせてしまった。彼にも涙があったとは。
従者に支えられながら帰る彼の俯いた背を見送る。ジベルの状態は医者によれば極度の快楽による一過性のものらしいと従者は言っていたけど、あんなので本当に元に戻るんだろうか。
閉店時間をかなり過ぎて客がようやく途切れた。馴染みの皆さんから花束まで贈ってもらい、心地よいと思える疲れを感じながらそれを眺めた。
入り口に掲げた暖簾を仕舞おうと支え棒を手に背伸びをしていたら、後ろから手が伸びて難なく暖簾が下ろされた。
「まだ……………治療お願いできますか?」
ハッとして急いで振り返った先には、夕暮れに染められたかのような色を帯びた人がいて、自らの影に私を覆っている。
「どうぞ」
私が戸を開ければ、微かに口元を綻ばせていた。




