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自分が生きる世界のために

「何を言って……………」

「私はまだリランジュールの聖女だから、今ノアと行けば国際問題になる。ロイドさん、そうでしょ?」


「……………ああ、そうだよ」


 ロイドは睨むノアから顔を反らした。転がっても燃え続ける松明の灯りの元、彼の目元に青痣があるのが見えた。


「ロイド」

「マナの言うとおり、リランジュールの聖女を再びシュランバインの者が拐えば問題になるかもしれない。ノアだって分かっていたが…………」


 それでも来てくれたんだ。

 私は少し笑った。


 ここまで危険を省みず来てくれた二人には感謝しかない。


「ノア、聞いて」

「ダメだ」

「いいえ、聞いて。ノアが言ったこと、そのままノアに返す。勝手に決めないで私の意思を蔑ろにしないで」


 冷たく聞こえるほど強い口調で話す。少々抜けた普段の私とは違う様子に、彼は驚いたようだった。


「マナをこんなところに一人にさせておけない。俺はマナを守りたい」

「だったら、私にも守らせて。今も、これから先の私とノアのことも守らせて欲しい」


「私弱くなんかないよ」と、窒息しかけて苦しむ兵達をバックに胸を張れば、ロイドとノアの顔がひきつった。

 忘れるところだった。神聖力を流すのを止めれば兵達がバタバタと失神する。危うく命を奪うところだった。


「心配しないで、ちゃんと自分でジベルとこの国にケリをつけるから。自分の生き方ぐらい自分で決めるから」

「……………マナが戻らなければ、ここまで来た意味がないじゃないか」


 恨み辛みが溜まっているのか、ノアは悪あがきめいた事を言う。


「ううん、そんなことない。ノアの安全を確認できたから安心したよ。ノアも、安心したでしょ」

「まあ、それは」


 ロイドが「やれやれ」と緊張を解き、ノアの肩を叩いた。


「まあ男としては、もっと頼って欲しいなと思うけど、現実的にはマナの言うことが正しい。ノア、ここはマナに任せて一旦戻った方が良さそうだ」

「あ、ロイドさん待って」


 餞別代わりに彼の痣に神聖力を流しておく。


「ああっん!は、あ、んん!あ」

「おまえ……………何て声出して…………」


 頬を赤らめよろめくロイドに、ノアがドン引きしていた。


「ち、ちが、これは」


 友人にも内緒にしていた性癖を見られたように、ロイドがオドオドと動揺しているが、ノアは無視して私を見つめた。


「すぐに会えるよな?」

「もちろん」


 私の肩を一度抱き寄せて腕に包み、ノアはそっと離した。


「分かった……………待ってる」

「うん」

「その代わり、次は俺の我が儘を聞いてもらうからな」

「え?」


 何だろうとキョトンとする私の頭を撫でて「気を付けるんだぞ」と言い、ノアは私を見ながら数歩下がった。そして、ふいにロイドと示し合わせたように二人地を蹴り、灯りの届かない場所へと消えていった。


 しばらく二人が消えた方を眺めていたが、ゆっくりと踵を返すと城内へと戻っていった。


 私はノアの…………ううん、自分自身の幸せの為にしなければならないことが残っていた。


「自分の生き方は自分で決めなきゃね」


 他人に与えられた幸せは、薄い。私がこの世界で生きて学んだこと。それは、幸せは自分で築くから確かなものになるということだった。

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