侵入者2
「国境で捕まったってジベルさんが言ってた」
「奴をさん付けするな。確かに一度わざと捕まってやった。伝令がそれを報告したのを見計らって」
「僕達が急襲をかけた」
ロイドが話に割り込んできた。そのどこか諦めたような声音は、ノアに無理やり協力させられているのだろう。
「『鷹』がノアを捕らえたと油断して警備が手薄になったところを侵入したんだ」
「そうなんだ」
二人の間にどんなやりとりがあったかは分からないが、ロイドの一転して彼へ従う態度は一悶着あったのかもしれない。
すり、と彼の胸に頬を擦り寄せると、今度はしっかりと抱き寄せてくれた。もう気持ちも離れて行ったかもと思っていたから、こんな風に抱きしめ返されるなんて幸せだと感じた。
「んん、邪魔して悪いけどまずはここを出よう」
ロイドが促すと、腕を緩めたノアが私の手を取った。
「ん?待って、もしかして私を連れ出すために来たの?」
何を今更といった顔で二人が私を見た時だった。
「いたぞ!」
通路の向こうから駆けて来た複数の兵に見つかってしまった。物も言わず二人が同時に剣を抜きざまに床を蹴った。悲鳴と剣戟の音と、二人の息の合った動きが目の前で繰り広げられる。
すぐに決着は着いた。動体視力が追い付かず、二人の後にどうやられたかは不明の倒れ伏す人々があった。
「あ、治療を」
痛みに呻く人を見て反射的に駆け寄ろうとする。もはや職業病だ。
「大丈夫、死にはしない」
フラフラと怪我人に吸い寄せられる私を、予想通りだと言わんばかりにノアが抱き止める。
「ノア、あの」
ちょっと言いにくいけど話したいことがあるので、私を引っ張り早足で歩く彼に声をかける。
「話は後だ」
また前から来た兵が見えて、ノアが素早い動きで斬り伏せた。
突破することを目的にしているようで皆さん死んだりすることはなく呻いている。それを見るたびにムズムズと腕が疼く。あんなにジベルでヤっておきながら、私は何て貪欲な生き物なのだろう。
「ノア、でも今話したいことが」
「……………まずはここを抜けてからだ」
またザシュ!ザシュ!と『剣』と『盾』が新たな兵を迎え撃つ。
いやあなた、さっき勝手に決めるなと言ったから話したいのに。ますます言いにくくなってきたじゃない。
モヤモヤしている間に複雑な構造の城を出た。
「こんなこともあろうかと、主様が仰っていた通りだ」
松明の灯りの元照らされたそこには、私達をぐるりと包囲する多くの兵がいた。隊長らしき者が得意そうにしている。
「聖女様をこちらに返せ。言うことを聞けば命は助けてやる」
さすがは『鷹』、ピクンピクンしてても根回しは怠ってはいなかった。
「返すわけないだろう」
私を背中に挟むようにして二人が剣を構えた。動揺した素振りは見せない。戦うまでだという気迫を感じた。
でももう怪我人は見たくないな。
「マナ?」
距離を考慮し私は前へと出た。二歩、三歩と歩いて手を突き出す。
何をする気だろうと眺めていた兵達がたちまち喉を押さえて苦しみ出した。
「さあ、今のうちに行って」
「マナ?」
私を見たノアが急に顔を強張らせる。
「来てくれてありがとう。でも、私は行けない」




