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夜の帳2

 夜も更けた城の一室で、バチッバチッと鞭の音と男の声が響き続ける。


「あ、いぎ、うう!」


 予想よりも、これはかなり私の精神を削る行為だった。一度相手の体を傷付けないといけないのと、神聖力を流し続ける為に傷付けることも繰り返さないといけないことも辛い。例え治すにしても、人を傷付けることなんてそもそも嫌に決まってる。


 うつ伏せの彼の背中に鞭を振るい、もはや抑えようともしない悲鳴と甘い喘ぎを聞き続けること2日目。

 途中意識を失ったジベルの横で、部屋の前に持って来てもらった食事を摂り仮眠をする。

 使用人達には数日は部屋に籠ると伝えてある。誤解されたのは仕方ない。


「ジベルさん、あなたも強情ですね」

「っあ!はああああ、あ、ひい!ひっ」

「もう辛いんじゃないですか?そろそろ『言うこときくから止めて』とか言った方がいいと思いますよ」

「だ……………だれ、が、んぎいい、ふう、かはっ」


 汗と涙と諸々の水分でぐちゃくちゃになった彼が、腫れた目蓋を持ち上げて私を睨む。ガクガクする体を反転させて私に手を伸ばそうとするのを見るや主流となった鞭をペシペシして非情な癒しを与える。


「ひあああああ」

「私に触ったらダメだと言ったでしょ」


 自分だけ啼かされるのは悔しいらしく、私にキスしようと顔を近付けてきたり、押し倒そうとしたり何度も挑んでくるのでその度に聖なる力で倒されて屈辱の喘ぎを漏らしている。


「まだするんですか?」

「あ、は、ヴ」


 枯れた声が痛々しい。満たされた更に上を強制された体は勝手にピクピクと震えて力を失い、ベッドに沈むように投げ出している。私は途中入浴して普段着のシンプルなドレスに着替えているし、疲れもそんなにない。

 そしてその間、ジベルには私の髪の毛一本さえ触れることを許さなかった。


 ジベルは神聖力に限界があり、行使する私にも負担が掛かると思っていたようだが、それは違う。

 私は底無しだ。神聖力は無尽蔵に使える。


「いい加減言ったら楽になりますよ。ほら、一言『もう止めろ』と」

「ぐ…………あっあっあああ!」

「言わなきゃいつまでも終わらない」

「ひい!ひ、も……………も……………」


 どう見てもプレイだな。

 でも私にとってはこれは戦いに等しい。神聖力を使うことに手を抜かない。楽しんでいるわけでもない。

 私は私のやり方で、本気でジベルを追い詰める。


「も?何ですか?」

「ふはああ!あふっ、う……………う、や…………」


 体はもうしばらく動けないだろう。正気を失った彼の耳に聞こえるように顔を近づける。


「知ってましたか、快楽も過ぎれば苦痛だと。さあもう止めましょう」

「も……………やめ…………ろ」


 彼は何とか言った途端、再びガクッと意識を失ってしまった。


「ふふ、言った」


 長かった。安堵の笑みを浮かべて、彼に布団を掛けておく。

 聖女のすることじゃないだろうと思う。かなり残酷なことをした後味の悪さが残ったが、血は流れずにすんだ。


 ところでジベルは大丈夫だろうか。体が元の状態に戻っても精神が今までとはいかないかもしれない。

 神聖力を甘く見るからだ。


「次起きたら文書にして公開しなきゃ」


 ぐったりしている彼の横で考えていたら、外が騒がしいことに気が付いた。










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