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リランジュールの鷹4

「とはいえ、それだけが目的ではない」

「それだけじゃないの?」


 驚く私に、彼はスッと目を細めた。


「私を何だと思っておるのだ」

「え、へ…………いや」


 私が最も多く見たジベルは、変態なジベルだ。それ以外は攻撃的なジベルしか見ていないのだから何だと言われても他に答えられない。


「まあよい、ろくなことを思っていないようだしな」


 カチャリと、察しの良い彼はティーカップを置いた。


「そなたは我が国の武器になる。婚姻はそなたを留めるための枷だ。森で手の者を窒息させかけたのを見た時、絶対に傍に置かねばと思った。他国に渡れば脅威になるが、そなたがいればどの国をも支配下におけるではないか。それに何よりこの国で王族をも凌ぐ力を手にすることができる」

「そんなこと……………」


「思いもよらなかったか?本当にそなたは考えが甘ったるいな」

「そもそも無理です」


 得意げなところ申し訳ないけど、私の神聖力にも有効範囲がある。まず触れることが条件になる。


「無理ではないぞ、その力を増幅させる物を開発すれば良い。奴隷の首輪も私が作らせたものだからな。それに異世界研究機関なら喜んで協力するだろう。奴等は研究の為なら何でもする連中だ」


 悪趣味だ。そして異世界研究機関の人達ならやりかねない。私は、そんなこと考えたこともなかった。いや仮にできたとしても実行するわけがない。


「私は………………この力を誰かを傷付ける為に使うつもりはありません。ギフトは神様が授けてくれた神聖なものだと聞いています。武器として使うなんて、あまりにも……………」


 人を治療することに意味を見出だしていた。この世界に落ちたきっかけが何であれ、この力で救われる人がいるなら、私がここで生きていく理由になると思っていた。


「そう、神に授けられた力なら許された力だということだ」

「絶対に嫌です、死んでもごめんだわ」


 私が出せるカードはそれほど多くない。でもジベルにとっては今までの行動から考えるに、私が死ぬよりは生きていることに価値を見出だしている。だから自らの命をカードにするのは仕方ないことだ。

 口を付けていないカップを両手で包むように持つ。回答次第では彼に掛けてやってもいい。


「ほう…………そういえば現在シュランバインとの国境は特別に許可された商人以外は通行できないのを知っているか?」

「え?い、いえ」


 急に話が変わったので、私は肩透かしを喰らった気分で生返事をした。ティーカップの持ち手を指で引き、くるりと向きを変えながらジベルは薄く唇を上げた。


「先程言ったはすだが、そこで問題が起きた。我が領地に接していないとはいえ、国境などの重要拠点には私の兵も派遣しているので、今回はこちらで処理させてもらったのだ」

「……………はあ」

「シュランバインから単身バカな男が無理やり国境を越えようとしたので兵が捕らえたそうだが、その者は赤髪の男だったそうだ」


 ガチャと耳障りに陶器が鳴った。揺らしてしまったカップから溢れた茶が少し膝を湿らす。


「そなたは勘違いをしている。聖女認定されたからといってそなたの意見が通ると思っているのか?私はそなたを黙らし、飼い慣らす手段なら幾らでも持ち合わせている……………『快楽の聖女』よ、私に従わねば捕らえた男はまた奴隷になるだろうな」


 嘘だ、そんなはずないじゃないか。ロイドが絶対にノアを監禁してでも止めているはず。それにジベルが私を操る為に騙しているのかもしれない。

 でも、もし本当なら?


「………………やめて」

「何?」

「まず『快楽の聖女』なんて呼ぶのやめて」

「……………………………………………………………ふむ」


 肩透かし返しを喰らったジベルが僅かに黙る。そして顎に指を当てしばし考えを巡らせていた。


「では『最終兵器聖女』」

「凄い強そうだけど絶対に嫌」

「それなら『悶絶の聖女』」

「はあ?」

「何だ、そのバカにした態度は『昇天の聖女』」

「何か卑猥!」

「『喘ぎの聖女』?」


 まだ最初の案が良かった。そもそも呼び名なんて必要ない。

 聖女だと知っても、ただ『マナ』と呼んでくれた人は無事だろうか。ぶつぶつと二つ名の案を模索するジベルを前に祈らずにはいられなかった。









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