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神聖力

 暖かい日だ。もうすぐ春だなあ。

 ホーホケキョ、と家の東の林からウグイスらしき鳴き声がする。生態系と四季の移ろいがほぼ前の世界と同じなのは、結構安心する。


「は……………あ……」

「大丈夫ですか?苦しくはないですか?」

「や…………もう、くるし…………ああ」


 首輪のパネルは白くなっている。もう電気ショックはきていないようだ。


「苦しい?どこですか?此処?」

「あっ」


 朝っぱらから悩ましい声を上げる彼。心配そうに聞きながら胸に置いた手から、一度弱めた神聖力をパアッと勢いづける私。

 あまりのことに真っ赤な顔をして倒れ伏す彼を眺めながら、これはイタズラだと……………違う、治療だと自らに言い聞かせる。やり過ぎたわ。


「………………今のはわざとだろ」

「え、何のことです?」


 すっとぼける私を、じっと見上げていた彼だったが、息が整のうと目を瞑り「どいてくれ」と疲れたように………疲れたらしく言った。


「あ、ごめん」


 彼の膝を跨ぐようにして、まだ胸をまさぐ………触っていた私は、慌ててベッドから飛び下りた。落ち着いたらかなり恥ずかしい状況だな。慣れって怖い。


「痴女か」

「違います」


 彼も乱れた姿を見せたことが恥ずかしかったらしく、両手で顔を隠して壁の方を向いて横になっている。


「貴様何なんだ?今のは何だったんだ?クソ」


 き、貴様?女の子に貴様とか!


「あの混乱しているのは分かるけど、私は一応奴隷さんを助けたつもりで」

「ああ………………なるほど」


 また小馬鹿にしたように嗤い、彼がムクリと半身を起こした。フルフルと腕が細かく震えている。余韻、残ってるね。


 彼は首輪のパネルを指で弾き、私を睨んだ。


「そういう趣味か」

「ちが…………違います」


 そんな蔑むように見ないで欲しい。


「私は、ただ苦痛を取り除きたかっただけなんです。この力は神聖力で痛みを快感に変換しちゃう効果があって」

「は?神聖力か何か知らんが、あんなヤバい変態な力…………もはや趣味だろ?俺を玩具にするために買ったんだろ?」

「違います!」

「楽しんでたくせに」

「ふぐっ」


 神様、どうして私にこんな力を授けたのですか?お陰様で純粋無垢な私はキレイさっぱり消えてしまいました。ああ、思えば、お世話になったおじいちゃんおばあちゃんに悦楽の声を上げさせた時から私は…………私は!


「………………好きでこんな力欲しかったわけじゃないです」

「その割には、俺が苦痛を感じ無くなっても、しつこく胸をまさぐっていたな」


 どうして命を助けた人に責められているのだろう。


「もうやめて。私は奴隷さんが死にかけてたから、ただ助けたくて、それで……………」


 なぜか正座して反論する私を冷めた目で見下ろしていた彼が、ハハッと乾いた笑いで首輪を指差した。


「ここを見ただろ。そのために俺を買ったんだろうがよ」

「え?どれ?」

「ここだ」


 彼はパネルの文字盤を乱暴に叩くが、どんなに目を凝らしてもその文字は読めない。


「あの………………何て書いてあるの?」

「は?」

「私、文字読めない……………のだけど」


 彼は口を開けたまま、しばらく沈黙した。その何とも気まずげな様子に何かやっちまったと知った。

 俯いた彼が、ぼそりと呟いた言葉に、ジャックの信じられないといったように私へ向けていた眼差しの意味を悟った。


 10分後、私は市場をよたよたと走っていた。


『性奴隷』なんて聞いてないからあ!










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