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リランジュールの鷹2

 リランジュールへと戻る行程はとてもスムーズだった。スプリングの利いた高級な馬車で整備された道を通ったし、使者の監視の目があって世間話をする気にもなれず良くうたた寝を決め込んでいたから思ったよりも疲れずに到着した。


 まずは王族の方達に儀礼的な挨拶があって皇宮に向かう。意外にも彼らは常識人が多くて私を聖女として丁重に歓待してくれた。ノアのことがあったせいで身構えていたが、よく考えたらここで何年も暮らしてきたけど治安は悪くなかったし、来店するお客様は皆気のいい人が多かった。役人の不正や腐敗も見た感じ無かったし生活全般でも平民は最低限の保障はされていた。勿論奴隷売買などの法や差別などの遅れはあったがそれを除けば住みやすかったのは事実だ。

 なんで戦争なんかしたんだろうと不思議。話し合って理解し合おうとする姿勢がいかに難しく且つ大事なことか。


 ただその後に会った『異世界研究機関』は、やばかった。

 私をこの世界に落とした張本人達は、まずは土下座せんばかりに謝罪をしてくれた。問題はその後。向こうの世界のことから、やって来た時の状況など事細かに食いつき気味に尋ねてきた。神聖力の調査に至っては被験体となるべく我先にと私の前に並ぶ始末。


「はあはあ、お願いします」


 万年筆を腕にぶっ刺して目を輝かせている人とか、もう目を合わせられない。


「……………い、いきますよ」

「はい!わあああああっあん!い、いき、いイキ、い、いいい」

「つ、次の方」

「すごっ、すごおおいい!あはあん!」


 彼らの貪欲な学術的探究心により『異世界研究機関』の一室は卑猥な叫びで溢れ満ち充ちた。誰もが目の当たりにした神聖力に悦んで打ち震えて研究結果をメモし議論し合っていた。

 あ、こういう人達がもしかして戦争のきっかけ作ったりしたのかもな、と私は少々恐怖を覚えた。


 でも皆さん私に好意的だし悪い人ではなさそうで良かった。頻繁には協力できないと念押しして粗方満足した私は再び数日掛けて移動した。

 途中まで本当に行き先を忘れていたのは黙っておこう。


 全体的に黒い色調の重厚な構えの屋敷……………いやこれは城だな。双方の国の皇宮にも劣らない広さを誇る庭園と城は、ノアの屋敷が質素で可愛らしかったと思えるぐらいだった。


「待ちかねたぞ」


 馬車から降りる私の手を引き、ジベルが焦がれたように頬を染めた。

 そうだった、この人いたんだったわ。

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