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聖女マナ3

「サイジョウ・マナ。汝を聖女に認定しましょう」


 皇宮の祭事場で私は両膝をつき頭を垂れる。高位の神官が錫杖の先端を私の祈る形で組んだ両手に触れさす。幾つも連なる銀の飾り輪がシャランと音を立てた。

 静溢な空気の中で見守るのは他に数人の神官と皇族のみ。

 目を閉じて受け、もう今までのように暮らせないんだろうなと思った。


「これをもって汝は、どの国でも聖女として尊ばれる存在となりました。心して人の為に尽くすように」

「はい」


 白い絹地の服に金の装飾された細いベルトを腰に回した出で立ちは女性神官と同じだが、体のラインがよく分かるぴったりした服なので、自分の普通サイズの胸がどうにも気になる。髪は解いて金のサークレットが額を囲むのは私のみだ。

 終わると見届けた皇族達が先に出ていき、最後に私がそこを退出した。


「終わったか」

「うん、お待たせ」


 祭事場の扉の外にはノアが待っていて、私のどこかをじっと見て咳払いをすると、さりげなく自分の上着を肩に掛けてくれた。

 近くにはロイドもいたが私をチラリと見ると、その場を離れていった。入れ違いに侍従と近衛兵がこちらへ来るのに気付くと、ノアがサッと私を背にした。


「マナ殿、外交部の者が話があるとのことで呼んでいます。我々といらして下さい」

「必要ない」


 私より先にノアが応えた。


「我々は貴方に申しているのではない」

「昨日俺が言ったはず。これ以上彼女に強制するな」

「貴方には関係の無いことです」

「……………そこを通せ、彼女を連れて帰る」


 低く押し殺した声は怒りで満ちていて、その手が剣を帯びた腰へ微かに動くのを見た私は彼の腕を掴んだ。


「待って!待って下さい!」

「マナ」

「彼と話をしたいので、少しだけ時間を下さい。すぐ行きますから」


 真剣に訴えれば、侍従は仕方なさそうにだが小さく頷いた。ノアの腕を引っ張ろうとしたら、彼が私を引っ張り祭事場横の小庭に向かった。

 やや距離を取った場所に近衛兵達が佇み監視しているのを目の端に捉え、私は声を抑えながら話した。


「ノア、無茶をしないで」

「無茶?違う。俺が」

「ジベルの求婚のことなら知ってるよ。あの人達はその話で私を呼んでいるんだよね」


 すると彼が思いっきり顔をしかめた。


「誰が言った?ロイドか?いやそんなことはどうでもいい」


 私の肩を掴み、彼が覗き込むようにする。


「断ったらいい、何があっても守るから」

「ノア」

「一緒に違う所に行って、また店を開いたらいい」

「馬鹿ね、せっかく帰って来たのに」


 その赤い髪に宥めるように指を伸ばせば、彼は俯いた。


「……………すればいい」

「え?」


 伸ばした指を捕らえたノアは、ゆっくりと片膝をついた。


「奴が求婚できなくすればいい話だ。話がくる前から既婚だったと証言すればいい」


 見上げる赤い瞳が火のようだと思ったら、カッと体が熱くなるのを感じた。その先の言葉が分かってしまい、彼を正視できなくなった。


「だからどうか」


 辛い目に遭って死にかけて、そしてようやくここまで戻って来たのに私の為に自らを犠牲にしてはいけない。


「ノア」


 彼の首に抱きつくと、驚きながら彼が受け止める。ぎゅっと目を瞑り、その手を彼の背中に下ろそうとした。


「くっ」


 すると振りほどくようにして彼は立ち上がってしまった。


「今、何をしようとした?」


 ああそうか、彼は私の力がどんな作用をもたらすか正しく理解しているんだ。


「…………昨日から様子が変だと思ったんだ。マナ、何を考えているんだ?」


 ぺたんと座り込む私と同じように、ノアも悲しそうだった。


「ごめん」

「どうして」


 謝る私に掠れた声でノアが問う。彼を傷付けた。分かっていたのに、その事実は想像よりも辛い。















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