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聖女マナ2

 連れて来られた部屋は私の部屋よりもシンプルな造りだった。広さは同じくらいだが白い壁のそこにはベッドと衣装棚ぐらいしか無かった。

 彼の部屋を見ている間にベッドに腰掛けたノアが黒いガウンを脱いだ。寝間着代わりの白シャツのボタンを外して襟元を大きく開けるとチラチラと私に視線を送ってきた。


「お邪魔します」


 灯りを消して、彼の後ろを回る形でベッドの上に上がり青い上掛けをめくって身を滑り込ませた。


「ノア?」


 いつまでも違う方を向いて座ったままの彼を呼ぶとビクッとしている。


「………立場が逆のような気分だが………その…………何もしないのか?」


 そろりと隣ににじり寄る彼が再度聞いてくるので、私は見える範囲で逞しい体をチェックした。


 傷らしいものは見えない。最初の時の痩せ細っていた体は栄養状態も良くなり日にも焼けていた。それに男性的な色気がどんどん増しているような気がするのは、神聖力により何度も何度も快楽を教え込んだせいなら許して欲しい。


「そんなに、見るな」


 私の舐め回すような視線に、初めて相手に全てを晒け出した乙女のように震えた彼は赤い顔を逸らした。


「何もしないから、もう怪我しないでね」

「言いたいことはあるが…………怪我は気を付ける」


 隣に横たわったノアが、私の頬を指で撫でた。

 ルビー色の瞳は、まるで蜜を溶かしたような甘さを含んで私を映していて、この人がこんな風になるなんて思いもしなかったな。


「明日、俺の傍から離れないでくれ。何を言われようが従わなくていい」

「うん」

「約束してくれ」


 停戦に合意したものの、実質シュランバインは負けた。リランジュールからの要求を拒む力は無い状況で、ノアが私を諦めなければどうなるか。


「マナ、約束を、んっ」


 衝動のままに手をついて身を起こすと、覆い被さる形で彼の唇を唇で塞いだ。重ねるだけで精一杯でいたら、薄く開けた彼の唇から呻きが漏れた。


「ぷはっ」


 息継ぎもできずに苦しくなって唇を離せば、後ろ手にシーツを掴んだノアが恨めしげに私を見上げていた。


「ハア、何もしないって言ったのに」

「ごめん、つい………」


 いきなり私の頭を片手で引き寄せると、彼の方から再びキスをされた。唇が触れ合うだけなのに、気持ちが良くて更に切なくなる。


 ちょっと泣きそうになった私を見た彼が、また寄せようとしていた唇ごと動きを止めた。その胸にしがみつけば、彼の腕が迷った挙げ句私の頭を抱き寄せた。


「マナは…………手強い」


 悟ったようにノアは断じて暗闇に長い息を吐き出した。そして二人そのままじっと身を寄せあっていた。


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