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雨と魔物と追っ手

「とにかく『鷹』の支配圏は抜けたな」


 ぐったりして動けない兵達をゲート前に残し、私とノアは山道を馬を牽きつつ登り下り、再び馬に乗って二つほど町を過ぎた。

 日もすっかり暮れた頃、しとしとと雨が降り始めた。


「もう少し先に進みたかったが、今夜は宿をとろう」

「うん」


 疲労困憊の私は宿の部屋に入るなり、ベッドにバッタリと倒れた。


「うう、疲れた」

「すまない、無理をさせたな」

「謝らないで」


 俯せになったままの私の傍に立っているのか、頭上から声が降ってくる。節約と安全の為に相部屋を取っているが、疲れているのと最近状況が許さず一緒にいることが多かったので男の人と二人きりという緊張感はまるで無い。


「足、痛い」


 夕食は食べているので、このまま眠ってもいいだろう。もう動くのが億劫だ。


「どこだ?」


 ベッドの端が沈み、大きな手が私のスカートを少し押し上げた。


「ここか?」


 脹ら脛を指で押されると、とても気持ちがいい。


「………あー、効くう」


 ところで長時間歩いたりして足は臭くないだろうか。靴を脱いで裸足だが、雨まで降って蒸れてるかもしれない。

 ノアの膝の上に足が置かれ、モミモミと脹ら脛が揉まれている時点で違和感を覚えたが、それよりも足が臭いかもという問題が凄く気になってきた。


「ふあ、ちょ、待って。も、いいから。ノアも疲れたでしょう」

「気にするな。ああ、マメができてるな」

「きいゃ!や、いいって!」


 よりにもよって足の指の間を触られたので、足を引っ込めようと抵抗した。


「じっとしてろ、どうした」

「く、臭いから、私たぶん足匂うから」


 恥だ。ちょっと声が上擦ったら膝から足が降ろされた。ノアがどこかへ行く気配に脱力する。

 ああ死んだわ、はずかしぬ。


「少し熱いぞ」


 どちらかと言うと恥ずかしいよりも眠くなってしばしボウッとしていたら、彼の声と共に足を掴まれてしまった。


「ひゃ」


 温かいタオルが私の足を丁寧に行き交う。ああ、めっちゃ気持ちいい…………じゃなく。


「ちょ、そんなことしなくても!」

「嫌か?」

「イヤじゃないけど!」


 体を捻って彼を見たら、どことなく楽しそうに私を見ていた。


「嫌じゃないんだな。気持ちいいか?」


 何てことを……………


 ニヤリとする彼に睨む気力は無かった。


「からかってるでしょ?」

「何度も俺ばかり良くしてもらっているからな。これは単なる意趣返しだ」

「もう…………」


 だがお陰で足はさっぱりして楽になった。

 ついでに雨が窓や屋根を打つ音に、うとうとしてきた。


「無防備だな、この前俺が男だと言ったことを忘れたのか?」

「あ…………」


 するすると足を包むように撫でられて、ピクッと体が小さく跳ねてしまった。それに気を良くしたのかゆっくりと暖かい手が動く。


「ん…………」

「啼かされるより、啼かす方がいい」


 足に吐息を感じた。それがどういうことなのか考える余力はなく、ふわふわした気分で私は眠りに落ちてしまった。


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