表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/61

越境5

 生々しい告白が終わり、しばし静寂が訪れた。


「………………」


『カナカナカナ』と、何処かで蝉のような鳴き声がした。まだ夏ではないのに、ひぐらしのような生き物がいるのだろうか。物寂しい鳴き声に、なぜか不吉なフラグを感じる。


「もういいだろう、通してくれ」


 ノアが疲れたように言えば、兵達が我慢できないとばかりに肩を揺らして吹き出した。


「ギャハハ!残念だが上から『奴隷とその主人の男女二人』は絶対に通すなとお達しがあってな!」


 兵が一斉に抜剣し、それが私達へと向けられる。

『リランジュールの鷹』は伊達じゃないね、もう先回りして伝令回ってるとか仕事速い!


「一緒に来てもらおうか」


 チャキと鞘走る音にノアを見れば、めっちゃ怒っていた。


「てめえら!!」


 剣を抜いた彼の怒号が響いた。


 うん怒るよね、あんなに恥辱を堪えて朗々と話したのに遊ばれてたとか許せないよね!


「おっと、ご主人様に傷がつかないように抵抗はするなよ」


 後ろから羽交い締めにされて喉元に刃を押し当てられた私にノアの動きが止まる。詰所から出てきた兵を合わせると10人。


「見つけたら直ぐに伝えろとのお達しだ、伝達を送れ」

「は!」


 上官らしき人の命令に、兵が一人鳩らしき鳥を翔ばした。そうか鳩か、凄い頑張るね。


「マナ!」


 鳥に感心してる場合じゃない。ノアの案じる声に我に帰り、視線を下げて羽交い締めにする兵の手を観察する。武器を扱う人は怪我しやすいから。


「早く剣を下ろせ!」


 上官がノアに迫った時だった。


「あひゃ!?なんひゃあああああああ」


 仕事熱心な兵で良かった。訓練で付いたらしい手の甲や腕に掠り傷と痣、掌に剣ダコ。全部私が治してあげましょう。


「ひゃああん、なにこれえ!」


 身をくねらせて喘ぐ部下の痴態に凍り付く上官とその他。今アンアン言ってる人、きっと真面目な人なんだろうな。皆が信じられないって顔して固まっている。


 でもすっかり慣れてしまったノアの行動は速かった。まず上官に斬り付けるや反応の遅れた兵を次々に倒していった。

 それからよだれを垂らして息を上げている兵の傍にいた私の手を引いた。


「行こう」


 私は躊躇して辺りを見回した。数人の通行人がこれ幸いとゲートを突破している傍らで兵達が痛みで呻いている。一人はまだ喘ぎが収まらないようだ。

 斬り傷で出血しているが、死人がいないのはノアが手加減したかららしい。


「ノア、少しだけ待ってくれる?」


 血を流し痛みで苦しむ人を放っておくのは、私の気持ちが収まらない。


「マナ、急がないと」

「重傷の人だけでもお願い!すぐ済ますから」


 溜め息を付いたノアが「わかった」と答えて、自らの耳を両手で塞いだ。

 胸から血を流す兵に神聖力を流す。急ぐので最初から強めにいかせてもらった。


「ああああああああ」

「ふゃあああああ!」

「ひいいいいいいい!」


 それはまさしく阿鼻叫喚の快楽地獄だった。

 聴覚を遮断し、その地獄を見つめるノアは何を思うのだろう。ちらりと目を上げれば、紅潮した顔を慌てるように横に向けていた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ