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予兆

「な、なんっ、ぬああ!」


 このよがりよう、かなり痛んでいただろうに。


「長い間我慢していたんですね。もう楽になりますからね」

「はん、あうっ」


 プルプルと震えながら男が私を振り返る。涙目で睨んでくるとか無闇に煽ってくるとは調子に乗りそうだ。いやいや、これは仕事だ…………イタズラじゃないと自分に言い聞かせる。


 そうしていたら、バタバタと物音がして従者さんが飛び込んできた。


「我が君に何をしている!?」


 主人の喘ぎを悲鳴と勘違いしたようだ。最初に来たお客さんは大抵こんなふうに誤解する。

 腰に帯びた剣を今にも抜きそうになってるけど。


「ま、待て……………ハアッ、ち、治療してもらっているだけ、だっ」

「ですが!」


 困惑している従者に、頬を染めた男が目を逸らし気味に命じた。


「外で、はう、待って、いろっ」

「は、し、失礼を」


 主人の様子に何かを悟った…………誤解したらしい彼らは、わたわたと出ていった。


「大丈夫ですか?」

「は、早く、続きを」

「いいんですか?」

「早くう」


 言っておくけど、私は治療をしているだけだ。それも神様から頂いたという神聖なる素晴らしい力を行使している。

 別に拷問しているとか、快楽漬けにして楽しんでいるわけでは絶対ない。


「はい」

「あっ、ああああ、はあ、ん、ひい、いい、いい!」


 この悦びよう。元々敏感体質な上、Mっ気があると見た。


「んんんんー!!」

「終わりましたよ」

「い………んあ?ハア、終わった、と?」

「お疲れ様でした。怪我の痛みはいかがですか?」


 快楽で腰が砕けたのか時間を掛けながらヨタヨタと起き上がり、物足りなさそうに私に視線を送ってくる。その上目遣いはあかん。


「これは………」


 背中の古傷が跡形もなく消えていることに、手で触れて驚く男。鍛えているのか程好く締まった肉付きをしている。


「どうですか?」

「痛みどころか、傷跡すらない。そなた一体…………」


 信じられないといった顔で、しばらく茫然としていた。客のそういう表情を眺めるのは好きだったりする。


「お会計は受け付けでお願いします。あの、動けます?」


 閉店時刻を過ぎてしまった。あの人が心配するかもしれない。そう思ったら胸の奥がこそばゆい気分だ。


「そなた」


 不意打ちの如く、いきなり腕を掴まれて驚いた。


「あ、お客様、お触りは禁止です」

「そなた、この力は何なのだ?い、いやそんなことはいい。私の専属にならないか?厚待遇で雇うぞ」

「え?いえいえ。そういうのはちょっと」


 風俗じゃありません。それにこの人だけに治療するって、そんな頻繁に私いらないでしょう。


「そなたのような者がこんな所に埋もれるようにしているのは惜しい。よく考えるのだ」

「埋もれてませんし、考えてます」


 グイグイ来る。たまにいるんだよね、快感に中毒になっちゃう人。気持ちいいからリピート率が高いのは確かだけど。


「こんなにもイイとは想像以上だ」

「ヨカッタんですね」

「ああ、スゴく」


 やはり中毒か。

 でも困ったなあ。


「あの、またいらして下さったら…………」


 顔を近づけて私をじっと見ているので、やや反りぎみにしていたら「…………悪くはない」とどこかで聞いた台詞を呟かれた。


「娘、名は?」

「ま、マナです」

「マナ?これも変わった名だ」


 男が寝台から立ち上がった。ガクガクと足を震わせて生まれたての小鹿のようだ。危なげな様子に思わず手を差し出すと、両肩を掴まれた。


「ではマナ、そなたを私の妾に召し抱えるなら良いだろう?」


 まだ興奮しているのかハアハアしながら男は自信たっぷりに笑った。


「勘弁してください」


 遠い目をしてお断りを入れた。







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