クズ勇者は迷子になり森を破壊する。
「目標は決めた。なら、まずすることはアルの居場所を知る。それだけだ細かいことはその後決めればいい」
スラム育ちのアルはごちゃごちゃ作戦を立てるのが苦手だ。ただがむしゃらに何かに没頭する方が性に合っている。
だから、どうやってアルの居場所を突き止めるとか、どうやってアルの全てを奪うか何かはその場その場で決めればいい。そんな問題は全て力で捻じ伏せればいい。それをするだけの力をネトリは持っているのだから。
「とりあえず、ここ出るか」
上半身裸のことなど気にすることなどなく、ネトリは自身の側にあった相棒を手にし大広間を後にした。
◇
大広間にあった大きなドアを開けると、ネトリの視界に飛び込んできたのは陰湿な空気を放つ大樹林。
「森の中か。人里が見えるのが一番楽だったんだが…まぁ適当に歩いてたら誰か見つかるだろ」
一般人なら不快感を表すような場所だが、これよりも劣悪な環境に居たネトリにとっては唯の森と変わらない。何の躊躇いもなく森の中へと入っていく。
森に入って一時間後、ネトリは歩いても歩いても景色が一切変わらないことに苛立ち始めた。
「あぁーーここさっきも見た気がする!何でだ?俺は真っ直ぐ歩いてるのによー!はぁ、こういう時に斥候のカルアが居たら楽なんだがアイツ居ねぇし、…ていうかアイツ生きてんのか?俺が殺されたんだから、まぁ生きてねぇか。生きてたらそれはアイツらの悪運が強かっただけの話だしな」
こういう時は、美少女エルフの斥候カルアに任せていれば大抵どうにかしてくれていたことを思い出し、ネトリは他メンバーの生死が少しだけ気になった。が、そんなことは気にしても現状が変わるわけではないので考えることをやめ現状を打破することを考える。数秒後、パーティメンバーの聖女ナーリスが森には人を惑わせる魔物がいるという話をしていたのを思い出した。
「魔物のせいだとして、何処にいるんだ?俺が見たのは木だけ魔物なんて見てねぇ。……ああっ、考えるの面倒臭え!とりあえず周り全部ぶっ飛ばせば何か変わるだろ。あらあっ!消し飛べ!」
相棒の聖剣ラキュナスに魔力を込め、身体強化を発動。右足を軸にし回転切り。ネトリを中心に円形の斬撃波が発生した。
……………イ゛ャ゛ア゛ーーーーーーーーーー!!!!!!
数秒後、何かの生き物の悲鳴がいくつか聞こえたかと思うと、それを皮切りに斬撃波で斬られた木々が傾き始め倒れるととまるで地震が起きているかと錯覚するほどの揺れと鼓膜が破れるかと思うほどの爆音と視界を埋めたく大量の砂埃がネトリの世界を支配した。
「ようやく収まったか。おっ、なんかさっきまでの変な空気が無くなってる。てことは原因の魔物を仕留めたんだな。いやぁパーティメンバーの話は何だかんだ覚えとくもんだな。これでこの森から抜け出せそうだ。生きてたまた会えたら礼言っとくか」
ネトリは清々しそうに呟くと聖剣を肩に担ぎ倒れた大木の上に飛び乗ると、周囲を見渡す。
斬撃波によって更地になったのは大体300メル。その程度では周囲に見えるのは大自然のみ。
これで森を抜けられると思っていたネトリは、肩を落とし溜息を溢す。
「はぁ、だっる。まぁ、これを繰り返してれば抜け出せそうだからさっきよりはマシだけど」
そう言ってネトリは聖剣に再び魔力を込め、侵攻方向にある邪魔な木々を切り裂いた。