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第55戦・決着! 魔王城

前回のあらすじ

山田花子という女の子

 『ワース』には数多くの貴族が居を構えている。その中でも一際権力を有した名門の貴族、その長女としてエレジアは生まれた。

 彼女の家系は反人間を掲げており、その影響を多分に受けた。物心つく前から、両親に人間がいかに悪いのかを言い聞かされてきた。


 かつて、地上では人間と魔族が暮らしていた。お互いに非干渉を決め込み、その暮らしは平穏なものだった。

 しかし、人間は地上を我が物にするため、魔族へと侵略してきた。結果、魔族は地上を追われ、何もない地下世界、『魔界』へと追いやられた。

 太陽が照らし、緑あふれ、資源が豊富な地上こそ、魔族がいるべき世界である。人間は地上を奪った害悪であり、魔族の天敵。お互いは決して相容れぬ存在。どちらかが滅びるまで戦いは終わらない。


 優等生であったエレジアは、両親の言うことを正しいと信じていた。両親の言いつけ通りに行動すれば、周りからの信頼を得ることができた。だから、疑うことなどなかった。疑う必要もなかった。

 名門貴族という立場と、確かな実力に裏付けられたエレジアが、反人間側のトップに立つことは必然だった。彼女は常々思っていた。今の魔界はぬるいと。

 地下である魔界に閉じこめられていることを平然と受け入れ、人間と戦うこともしない現在の体制を変えるべきだと、彼女は盲目的に信じていた。


 そんな中、彼女は四天王の募集を知った。これは内側から魔界を変えるチャンスだと思い、申し込んだのだ。

 結果は散々なものだった。ジャンケンによって、もう一人の反人間側の人間が四天王入りを果たした。最も優れた自分を差し置いて、ただ運がいいというだけである。


 そこから、彼女の矛先は魔王へと向かうようになった。

 勇者一行という人間代表を平気で受け入れ何もしない魔王に成り代わって魔界を収めようと考えるようになった。

 そして、エレジアはついに魔王となり、憎き人間へ報復するために動き出した。その矢先――彼女の目論見は見事に失敗した。




 魔王を守るように勇者ハナコが立ちはだかる。意外とも思えるこの展開に魔王は笑うべきか、悲嘆するべきか解らずにただ口角を上げた。


 彼女がここにいるということは、異世界への送還に失敗した。伯母から『賢者の石』を譲り受け、魔法を完璧にするために何度も術式を組み上げた。それらすべてが無に帰したのだ。魔法の失敗を認める他なかった。

 そして、それが結果的に自分を助けたのだ。魔王の胸中は複雑な思いでいっぱいだった。


「はぁ……本当に失敗していたのだな。随分と苦労して準備したのだが……どうして戻ってきたのだ。自分の世界に帰れたのだぞ?」


 ハナコに向けて問うと、背中越しでも彼女が笑っているのがわかった。


「一度はね、元の世界にほんが見えたんだけど、急に腕を引っ張られてね、気付いたら異世界こっちに戻ってきたみたい。私もよくわかんない」


 そう言うハナコは左手を上げて手首に付けたブレスレットを魔王に見せつけた。そのブレスレットには青い宝石があしらわれている。以前デートした時に魔王が贈ったアミュレットだった。

 そのアミュレットを見て魔王は伯母が言っていた注意事項を思い出した。


「『こちらの世界』と繋がりがあると失敗する」


 縁結びの御利益がある『邪神社じゃじんじゃ』にて購入したものが、結果としてハナコと魔王を繋げていたとでもいうのだろうか。

 魔王は伯母の言ったことが的中してしまったことに頭を抱えた。あの魔界最高の魔術師にはすべてがお見通しだったというのだろうか。


「ハナコよ。加勢はありがたいのだが、さっき斬った宝剣『魔開まかい』はとても価値のあるものだったのだぞ」

「だからって、手を斬るのは可哀想だなって」


 お互いに状況を把握できたため、以前のような気楽な会話を始めた。こうして話をするのが随分と昔のことのように感じて魔王は心が落ち着いていた。腕を切断され、全身には斬られた傷が残っているという状態であるはずなのに。


「どうして、勇者が現れるの!? もうあと一歩というところだったのに、魔法を失敗したですって? 人を馬鹿にするにも程があるでしょう!」


 無視されて会話を繰り広げる魔王たちに、新たな魔王エレジアは憤懣ふんまんやるかたない様子で叫ぶ。

 そんなエレジアを見て、振り返ったハナコと魔王はお互いの顔を見合ってにんまりと微笑む。それは悪戯を思いついた子供のようだった。


「んー……もしかして、あの人が悪い魔王なのかな?」

われは王座を奪われたのだからな、ヤツが悪い魔王だ。間違いない」

「そうですね。彼女が魔王で間違いありません」


 大臣まで参加した申し合わせたような茶番。ハナコと魔王が手を組むには充分過ぎる小芝居であった。新たな魔王エレジアを討つ理由が、ハナコにもあるということをハッキリとさせた。


「何が勇者ですか馬鹿馬鹿しい! お前がいなければ今ごろ! 今ごろ私は魔王の座を我が物にできたというのに――」


 エレジアは台詞を言い終わる前にハナコの薙ぎ払いによって吹き飛ばされた。剣の腹で殴ったその一撃は強烈で、その先にあったはずの玉座へと吹き飛ばされる。しかし、魔王の魔法で既に破壊されているため、城外へ落ちていった。死ぬことはないだろうが、しばらくの間は動くことはできないだろう。

 戦闘の気配は消え失せ、張り詰めていた空気が緩む。そこで、ようやく一息つくことができた。


「まったく、まさか魔法を失敗して助けられるとはな……」


 そこまで言って魔王ははたと何かに気付いた。そもそも、この窮地に陥ったのは何故だったのか。


「いや、魔法を使ったから危機に陥ったのか? 結局は、魔法を使ったことがすべての元凶なのでは?」


 頭が混乱してる魔王を余所に、大臣が佇まいを正して魔王とハナコの方向へと向きを変えた。そして、ゆっくりと頭を下げる。


「お疲れ様でした、魔王様、そしてありがとうございました、勇者ハナコ」

「えへへ、そんな、私は何もやってないよー」


 大臣からの謝意を受けて、ハナコは照れて顔を赤く染めた。いつも大臣から冷めた眼差ししか受けていなかったハナコにとってはむず痒いものがあったのだろう。

 大臣は一度顔を上げてから、魔王へと真っ直ぐな視線を向けた。


「魔王様、私は一度でも裏切った身、いかなる処罰でも受け入れましょう」


 神妙な顔をした大臣に向けて魔王は一笑する。そんなことは些事であり、特に気にしていないと、そう言っている。

 その後、魔王はその場でくずおれた。気丈に振る舞っていたとはいえ、身体を切り刻まれ、右腕を斬り落とされている。そろそろ失血により意識を失う頃合いだった。


「そうだな……お前らには色々と言うべきことがあるのだが、今は少し休ませてくれ。もう魔力の残りがない……少し眠るが、われを起こすでない……ぞ……」


 ガクリと項垂れると、魔王はそのまま動かなくなった。目を閉じた様はすべてをやり切ったように晴れやかなものであった。

 こうして、新たな魔王を巡る騒動に幕が下りたのだった。

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