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第48戦・『D・D・D』

前回のあらすじ

魔王城、攻略開始!

 石造りの床を蹴って、二人は魔王城の廊下を走る。魔王は未だに担がれたままで、ジューディアに運ばれていた。


「やけにあっさりと侵入できたな。城内にももっと兵士がいるかと思っていたんだが」


 辺りを見回すジューディアが拍子抜けばかりと言葉を漏らす。

 魔王城の外周には数多くの兵士が配備されていたというのに城内に兵士の姿はない。それどころか、城門は開かれ、まるで入ってこいと言われているかのようだ。配備されていた兵士は魔王が侵入するための、ふるいのようなものだったのだろう。


「相手はわれを誘っているのだろう。魔王を自らの手で始末する……そういうシナリオだ」


 揺られる魔王は真剣な面持ちで答える。

 広い魔王城の階段はさらに奥にあり、走っていたとしてもそれなりの時間がかかる。魔王の指示による最短コースであっても、長い距離がある。


「ねぇ、さっき知らない四天王がいたけど、いつもの喧しい三人はどうしたのよ。こういう非常時にこそ必要でしょうに」


 ナディスの指摘に、魔王は、あー、と曖昧な返事をする。


「実はな、あの三人は地上に派遣した。このクーデター絡みの調査で、ちょっとな」

「はぁ!? あんた、魔力が尽きるほどの大魔法を使うっていうのに、側近を地上に寄越すとか、馬鹿なの? いや、馬鹿ね」


 魔王は痛いところをつかれて、ばつが悪そうに口角を下げた。

 言うべきか、言わざるべきか、逡巡したが結局理由を言うことを決めた。


「ハナコを……異世界に送還することをあの三人には知られたくなかった。あいつらはきっと反対するだろうしな」


 魔王の答えを聞いて、ナディスも苦笑いを浮かべる。

 あの四天王が反対する姿が目に浮かぶ。なんだかんだ、それなりの付き合いであったし、あのロザリクシアが黙っているとは思えない。そういう点では、魔王が秘密裏に行動していた理由が納得できた。


 いよいよ二階への階段へと近づくと、行く手を阻むように巨漢が立ちはだかっていた。

 大男は手に巨大な鉄球、やけにとげとげした肩パット、顔には威嚇するかのような化粧が施されている。どこから見ても悪役だとわかる恰好だった。


「ようやっと来たか! そこの情けないのが魔王かよ、まったく待ちわびたぜぇ」


 巨漢の男は舌でペロリと唇を舐める。舌なめずりまでして、悪役を演じきっている。


「貴様などお呼びではない。とっととそこをどくがいい」

「おいおい、随分と言いぐさじゃぁねぇか。オレは新しい四天王の錬戦、『ドラマスティックデッドデストロイア』だぜ? ここを通す訳がないだろうがぁッ!」


 ニヤニヤと下卑た笑みを見せる錬戦に、ナディスの長い耳がピクリと動く。

 魔王はその下品な物言いに眉を顰めた。


「その壊滅的なセンス……貴様は魔族ではないな?」

「流石は魔王って訳だ。その通り、オレは異世界から召喚された人間だ。格好いだろ? 『DDD(劇的な死などクソっくらえ)』って、オレが考えたんゼ?」


 その言葉に、ジューディアは息を呑んだ。ハナコの実力を知っているからこそ、異世界の人間に警戒してしまった。

 人間を排斥しようとする反人間側の新たな魔王が四天王に人間を任命したという事実は、その実力は折り紙付きということだろう。魔王はジューディアから降りようとするが、力強い腕によって押さえ込まれてしまう。

 独り悦に入っている『DDD』を前にして、目を伏せ無言だったナディスが口を開いた。


「ここは私に任せなさい」


 その声は低く、普段は高く美しいナディスの声とは思えないおぞましいものだった。


「おい、さすがに一人は無理だろ、俺も力を貸そう」

「必要ないわ」


 その頑なな様を見て、魔王はナディスの意を汲み取る。


「解った。ここは貴様に任せよう。ほら、筋肉ダルマよ、階段を上がれ」


 ジューディアは一度ナディスに視線を向けるが、すぐに振り返って階段を上り始めた。


「……感謝するわ」


 『DDD』はその様子を楽しそうに眺めていた。どうやら、ここで魔王を足止めする気はないらしい。

 階段の前にはナディスと『DDD』の二人が残された。



 舐め回すような『DDD』の視線にナディスは嫌悪感を丸出しにして睨み返す。それが、嗜虐心をそそるのか、『DDD』の笑みがより一層下卑たものになった。


「貴様が『DDD』だな?」

「そう名乗っただろうが。それより、エルフか……地上にいる間に随分と殺したなぁ。あいつら柔らかくてすぐ死ぬんだぜ。歯応えはなかったが、沢山殺せたから満足だったがな」


 ナディスの弓を握る手に力がこもる。それは弓を折ってしまいそうなほどだ。


「あ? もしかして、あれか? 仇討ちってやつか? それはよくねぇ。ああ、実によくねぇ。死とはな、ただの死であるべきだ。何の意味もなく、何の悲劇もなく、何の価値もない。死ってのは、そうじゃなきゃいけない。そこに意味を持たせる『仇討ち』ってのは、もっとも気に入らねぇ」


 ヒュン、と白木の弓から放たれた矢が『DDD』の腕に刺さる。無言で放たれた矢に反応できないようだったが、まるでダメージは無いとばかりに、『DDD』は刺さった矢を抜いて捨てた。


「やっぱり、エルフってのは弱いなぁ。こんな矢なんて、何の役にも立たねぇんだよ」


 自分の矢が相手に効果がないというのに、ナディスは焦るでもなく次の矢を番えて、ぽつりと呟いた。


「矢は刺さった」


 まったく動じることのないナディスが気に入らないのか、『DDD』は歯ぎしりする。


「オレに歯向かうなんて、許せねぇよなぁ。クソ雑魚のくせに生意気なんだよぉッ!」


 『DDD』は手に持っていた鉄球を放り投げると、鎖をブンブンと回しはじめる。

 鉄球は轟音を纏ってナディスを薙ぎ払おうと迫るが、軽やかなステップで鉄球を躱す。その涼し気な様子が『DDD』にとってはさらに気に入らない。


「くらえよッ! オレの編み出した『トルネードクラッシュデストラクション』だぁッ」


 その攻撃はただ鉄球を無暗に振り回すだけだったが、その一撃の破壊力は致死に充分なものだ。嵐のように振り回される鉄球は無軌道であったが、ナディスはその攻撃を躱していく。

 鉄球は速いが、ナディスはそれ以上に速い。ぴょんぴょんと跳ねて攻撃の隙を狙うが、それを許さぬほどに鉄球が暴れ狂う。


「クソ雑魚のくせにぃッ! 一発当たりゃ、終いってのによ! 動くんじゃ……ねぇぞッ!」


 イラつくような言葉を口にしているが、その表情は兎をなぶるような邪悪な笑みで歪んでいる。

 ナディスはチッと舌打ちをして回避に専念するが、勢いを増した鉄球は魔王城の壁、床、階段を破壊していく。そうなれば必然的に破片が辺りに散らばっていく。

 その破片は地面に落ちることなく、『DDD』の鉄球に弾かれてさらに宙に飛んでいく。それを繰り返すことで、鉄球の嵐はつぶてを纏い、何ものをも破砕するトルネードへと変化していく。

 回避を続けていたナディスではあったが、細かくなった破片が次々に肌を裂いていく。

 逃げ場も少なくなり、徐々に追い詰められていった。もう、弓を構えることすらできない。


「ははっはぁッ! 結構楽しかったぜッ!」


 鉄球は最後の一撃とナディスの傍の壁を砕く。その破片は宙を舞うものとは比べ物にならない程大きい。


「しまッ――」


 その破片がナディスの身体にめり込み、激しい威力となって打倒す。破片と吹き飛ぶナディスは血を伴って地面に叩きつけられた。

 防御力の低いナディスにとってそれは致命的な一撃だった。地に倒れたまま、口から血が吐き出された。


「エルフにしては結構楽しめたぜ?」


 また舌なめずりをしてから『DDD』は鉄球をナディスへと叩きつけた。

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