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第35戦・ゴー!!

前回のあらすじ

地下闘技場での真剣勝負が決定!

 ライトで照らし出される闘技場の舞台は、多数いる観客の注目を集める。そこに集うは、魔王とその精鋭、それに勇者一行。計九人が武器を持ち向かい合っていた。


「勇者の合意を取り付けた! これから我らと勇者との誇りを賭けた戦いを開催することを宣言するッ!!」


 マイクを持った魔王が宣言すると、舞台を囲む観客から大きな歓声が上がる。その熱気は舞台に佇む九人に向けられている。こういった観衆に囲まれることに慣れていないのか、勇者一行は呆然と佇んでいた。


「別に誇りは賭けていないんだけど……」


 ナディスは不服とばかりに言葉を零すが、熱狂に包まれた闘技場ではそんな言葉はかき消され、意味を成さない。

 魔王は他の言葉は耳に入らない様子で、マイクに向けて叫び続ける。


「勝負の形式は五人チームの星取り戦形式。一対一で戦い、勝利の数が多いチームが優勝だ! 勇者が勝てば、好きな武具をプレゼント! 我らが勝てば、勇者一行には地上へ帰ってもらう!」


 観客は大声を上げてヒートアップしていく。

 普段から武器の試し斬りの対戦が行われてきた闘技場だが、所詮は個人で行うもので、どうしても地味なものになりがちであった。


 しかし、今回は違う。ただの試し斬りではなく報奨を賭けた一大イベントなのだ。しかも、魔王と勇者の対決ともなれば、その盛り上がりは比べるまでもない。


「ちょっと待ってくれ。そちらは五人いるからいいが、こちらは四人しかいないぞ」


 そこに、待ったの声が上がる。

 周囲の騒がしさに気圧されつつも、ゴリラの胆力を持ったジューディアが訊ねてきた。魔王はすでに抜かりなく対策を講じていた。

 勇者一行に近づくゴブリンが一匹。どこから紛れ込んだのかわからないが、エルフのナディスに興味があるようで、じっと見つめた後に小躍りを始めた。


「このゴブリン、何なの?」

「彼はスペシャルゲストのアルバートだ。勇者側の五人目として呼び出したのだ。以前(四天王入門テストで)、嫁を紹介してやると――」


 スコーンという音を立てて、ミスリル銀の矢が魔王の頭に突き刺さった。ノーモーションで魔弓から繰り出された一発は、魔王の『絶対結界』を軽く突き破っていた。


「その話を持ち出すなッ!」


 弓を放った後の姿勢のまま、ナディスが叫んだ。魔王はというと、あまりの痛さでその場に蹲ってしまっていた。


「でも、ゴブリンで大丈夫なの?」


 負けられないハナコにとっては、ただのゴブリンが自らのチームに入るのに不満を持っていた。見た感じでは魔王側の面々に勝てるとは思えない。


「それは問題ありません。アルバートの戦闘力は死戦アングリフに匹敵します。もし、不満があるのなら大将にしてください。それまでに勝てば良し、勝敗が決まらなかったら私が相手をします。私は戦闘を行いませんので、そちらの勝ちになるでしょう」


 ハナコの理解力では大臣の真意を読み取れなかったが、このゴブリンは強いとだけは解った。肝心のゴブリンは先ほどからナディスに向かって求婚の踊りを踊っている。それが、よけい勇者を不安にさせた。


「そんなことはどうでもいいのじゃ。クソ雑魚の魔王には良いハンデじゃろ」


 早く戦いたいばかりのアンネが試合開始を促してくる。それは観客も同じようで、試合が始まるのを待てずに騒ぎ立てる声が多く、大きくなっていた。

 ビキビキと頭に血管を浮かばせながら、魔王はその侮辱の言葉を受け止めた。



 勝負を始める前に魔王側と勇者側の二手に別れ、戦いの舞台から下りていく。こお互いにれから始まる大勝負に備えて、策を練る必要があるのだ。


「ククク……馬鹿な奴らだ。こちらの策にまんまと乗りおって」


 魔王は場外で邪悪な笑みを浮かべた。


 この勝負の立案者は愚直なアングリフのものではあるものの、それにケラヴスが手を加えたのだ。それは、武器を破壊された方が負けというものだ。


 正面から戦ったのでは、勇者に勝つことは非常に難しい。不可能と言ってもよい。勇者本人には攻撃が通じないとしても、扱う武具は本人のような無敵性は帯びていないはずである。そこに勝機があると、魔王側は考えたのだ。


 それでも、魔王には一抹の不安がある。それは、伯母であるアンネリーゼの存在である。魔術を極めた賢者は勇者の次に厄介な相手である。だからどうしても、ジューディア、ナディス、には確実に勝利する必要があるのだ。幸い、その二名は強敵ではあるが、勝てない相手ではない。


「魔王様、まずは先鋒をいかがしますかな? 相手の裏をかくような選出が必要かと」


 ケラヴスの提言に魔王は真剣な面持ちで頷いた。

 メンバーの選出は重要である。ハナコとの対決は最強の魔王であることが好ましい。アンネとの対決は負ける可能性が高いため、他の二人の対策を行うべきだ。


 しかし、ジューディアとナディスとの相性の良し悪しを判断するのが難しい。誰が当たったとしても、勝てるのは間違いないが、もしもという可能性がある。

 頭を悩ませる魔王に愛娘が挙手をした。


「わたしが一番手でいいかな? ナディスさんとの相性は悪いし、最初に使い潰した方がいいんじゃない?」


 ロザリクシアの言うとおり、お互いは後列で戦うスタイルである。ロザリクシアの魔法詠唱が速いとはいえ、ナディスの弓の速さに勝つのは難しい。勝ちの目が少ないロザリクシアで様子を見るというのは、充分に有用である。


「そうだな……エルフの性格なら初手に出てくるとは考えにくいな」


 不利な相手との戦いを回避するのなら、ロザリクシアが一番手であることが最適なのかもしれない。


「頼めるか? ロザリー」

「まっかせて。頑張って勝ってみせるから」


 ロザリクシアは笑顔を向けてから、舞台へと進んでいった。



「さぁ、やってまいりました! 魔王と勇者の栄誉を賭けた一番勝負! まずは、最初の対決だぁ!」


 闘技場を沸かす実況がスピーカーから響いてくる。その声が観客を駆り立て、観客も応えるように大声を上げる。


「まずは、我らが魔王側! 四天王の紅一点、絶戦ロザリクシア様だぁッ! 魔王様直伝の四属性魔法に高速詠唱、最高峰の魔術師ッ! 得物はヒヒイロカネの柄にレッドダイヤを添えた金色のロッド! これは、勝利確定ですッ!」


 実況に応えてロザリクシアが手を振ると、観客も諸手を上げて手を振る。その光景はアイドルのステージの様である。


「そして、勇者側からジューディア・セグランサ。ただの筋肉ハゲゴリラダルマ。得物はダマスカス鋼の十字架? いったい何に使うのでしょうか? どちらにせよ、負けますよ、こいつはァ!」


 ジューディアの登場に魔王は頭を抱えた。これを予想してロザリクシアは先鋒を申し出たのだと解ったからだ。


 よく考えなくとも、勇者一行の中で最もザコなジューディアが一番手を務めるはずである。見た目はゴリラで強そうに見えるが、勇者のような力はなく、賢者のような賢さはない、エルフのような素早さもない。どう考えても勝ち確定枠。


 しかし、相手がロザリクシアである場合は別だ。お互いを想い合う二人が真面目に拳を交えるはずもなく――


 猛然と突進していくジューディアに、それを真っ向から挑みかかるロザリクシア。そして、お互いが拳を交差させて、ほっぺたをつつき合う。


「うわー、やられたー」

「いやーん、やられちゃったー」


 二人は仲良く同時に石畳の上に転がった。いくら経っても、立ち上がる様子はない。


「……え? えーと、だ、ダブルノックアウト? です」


 実況の困惑した言葉に、闘技場を囲む観客、魔王たち、勇者一同が言葉を失い、妙な沈黙に支配された。

 誰もが納得しないうちに初戦は引き分けという結果となった。

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