第18戦・続、作戦名『幸せラブラブちゅっちゅゲーム大作戦』
あらすじ
ついに始まった作戦名『幸せラブラブちゅっちゅゲーム大作戦』
魔王が仕掛ける勇者への挑戦
勇者よ、ゲームで決着をつけようではないか
「はい! やってまいりました、『幸せラブラブちゅっちゅ大家族計画ゲーム大作戦』!! 実況はわたし、魔王の義娘ロザリクシアが、ゲーム進行は大臣さんが、温泉の街『グリード』からお送りするよ」
『グリード』の往来に再び魔王幹部と勇者一行が顔を合わせる事態が発生した。それを一目見ようと大勢の野次馬が集まっている。彼らはこれから何が始まるのかと期待を膨らませている。当事者である一行も何が始まるのかと、不安を募らせている。
「さあ、パパ、早くルーレットを回しちゃって」
娘に促されるままに魔王はルーレットを回した。
「お、二が出たな。このまま街を歩けばいいのか?」
「そうだよ。二人一緒にね」
事前にロザリクシアたちが作成したマスに沿って魔王とナディスは歩きはじめる。温泉街としての風情ある『グリード』は、ただ歩くだけで情緒豊かな町並みを楽しませてくれる。
「ただ練り歩くだけでも結構楽しいではないか。貴様もそう思うだろう?」
「ま、まあ、悪くはないわね」
二人はまんざらでもない様子で歩を進める。それを見た大臣の目つきが少し変わった事に誰も気付いていない。
「到着したのだが、イベントか何かあるのか?」
「魔王様の止まったマスは不幸マスです。『馬車にはねられた。怪我の治療に五〇〇万魔界ゴールを支払う』だそうです」
「いきなり幸先悪いわね。お金を払えばいいのかしら」
お金を払おうとするナディスを大臣が手で制する。それは、必要ないと言わんばかりである。
「車にはねられたのは、魔王様だけです」
「え? 我だけ?」
「はい。魔王様ったらドジですね」
何か納得いかないと思いつつも、魔王は渋々支払いを行う。
今回のゲームは所持金で順位を競うゲームである。よって、パートナーは関係なく各々がお金を所持しているのだ。
「次はハナコちゃんとアンネちゃん夫婦の番よ」
ロザリクシアの実況で勇者子供組にスポットライトが当たる。
ハナコとアンネの夫婦は代表としてハナコがルーレットを回す。
「幸運マス。『お金を拾って一〇〇万魔界ゴールド得る』」
「やった! アンネ、お金拾ったよ」
「よかったのう、ハナコ」
最後にケラヴスとアングリフの四天王男性夫婦。ゲームが始まってから死んだ魚のような死んだ目をしており、まるで覇気がない。魔王と勇者の勝負であることを完全に忘れている。
「幸運マス。『埋蔵金を掘り当てて五〇〇万魔界ゴールド得る』」
「ケラヴス殿、オレたちは埋蔵金で一攫千金狙ってたらしいですよ」
「そのようだな」
二人は表情ひとつ変えることなく、埋蔵金を受け取る。そこに、魔王から待ったの声が上がる。
「このイベント、ちょっと雑過ぎない!?」
「私がルールです」
苦言を申し出た魔王を大臣がバッサリと切って捨てる。この対応にもやもやする魔王だったが、一応大臣がゲーム進行をして魔王側を有利に進めるという作戦は継続中である。胸のつかえがあるものの、とりあえずは溜飲を下げた。
一巡して魔王の番となる。一回目と同じくルーレットを回してマスを進む。
「おめでとうパパ。そこは出産マスだよ。子供が生まれたパパには……これをプレゼント! 私の手作りだから大切にしてね」
ロザリクシアから渡されたのは、赤子を真似た人形である。手作りというだけあって、非常によくできており、それを抱いた魔王は本当に自分の赤ん坊ができたかのような錯覚を覚えた。
「こうして赤ん坊を抱くのは新鮮だな。娘はもう成長してたしな」
「へぇ、よく出来てるわね。結構可愛いじゃない」
魔王が抱く人形をナディスが軽くつつく。傍から見れば、その光景は仲睦まじい夫婦そのものである。その様子に大臣の目つきが鋭くなったのに、誰も気が付いていない。
ゲームは滞りなく進行してハナコたちも出産マスに到着した。
「はい、どうぞ。これはジューディア様が作った人形だよ。手荒にしないでね」
勇者が赤子の人形を受け取ると、ロザリクシアに付き添っていたジューディアが照れたように頭を掻いていた。その人形はロザリクシアのものと比べて不細工であったが、裁縫は丁寧であり心が込められているのが判る。
「ほらほら、アンネ。赤ちゃんだって。どうどう? いいでしょ?」
「こら止めろ。嬉しいのは解ったのじゃ、儂に擦り付けるでない」
笑みを浮かべた勇者は嬉しかったのか、アンネに見せつけるように人形を突き付けてくる。アンネは困った様子ではあったが、ハナコが楽しそうなので今の状況を甘んじていた。
続いて四天王男性コンビも出産マスに到着する。
「出産おめでとう。グリっちには、この竜の頭の赤ちゃんをプレゼント。わざわざグリっちのために作ったんだから感謝してよ」
無表情のアングリフに竜の人形が手渡される。その人形を受け取っても、アングリフはピクリとも動かないし、死んだ死体の目をしたままだった。
「ケラヴス殿、オレたちのどこから子供が生まれたんですかね」
「拙者にも解らん」
まったく楽しんでいないケラヴス、アングリフ夫婦を置いてけぼりで、ゲームはさらに進行していく。
しかし、その進行は急に雲行きが怪しくなってきた。
「不倫マス。魔王様が勇者と不倫したことが、エルフにバレました」
「ちょっと待って、わたしそんなマス作ってないんですけど!?」
唐突に出てきたイベントに製作者であるロザリクシアが慌てふためく。彼女にとってこのゲームは魔王と勇者の仲を良くするためのもので、衝突しあうようなイベントは作っていない。
「私がルールです」
「あ、はい」
有無を言わさぬ大臣の冷徹な物言いに、ロザリクシアは血の気が引いた。彼女が本気であることを瞬時に理解したのである。
「では、魔王様は手切れ金として勇者に三〇〇〇万魔界ゴールドを支払っていただきます。それから、パートナーであるエルフに慰謝料二〇〇〇万魔界ゴールド支払います」
もはや横暴の域に達してきた大臣に逆らうことはできない。反逆しようものなら命を落としかねない。生気を失った四天王男性陣を除く全員が息を呑んだ。
「いや、しかしだな、大臣よ。我はもう所持金がない。どうやって支払うのだ」
「代わりに私が支払います。そして、これから魔王様は私にお金を貢いでください。支払い終えるまでずっと待ってますので」
「ヒエッ!」
今まで秘められていた大臣のヤンデレとしての才覚が目覚めようとしていることを全員が予感した。ずっと賑やかだったギャラリーも、このときばかりは息を潜めた。
「ま、まぁ、気を取り直してゲームを再開しようね」
今の雰囲気を晴らすようにロザリクシアは明るく振る舞って実況を続ける。
そんな中、勇者だけは一貫して笑顔を保っていた。
「ねぇねぇ、アンネ。大金貰っちゃった。やったね」
「お主は何故そんなに嬉しそうなのじゃ? 弄ばれたんじゃぞ!?」
「うーん、でも喧嘩とかしたくないし、みんな仲よくしよう?」
「ハナコ、お主が将来都合のいい女にならんか、今から心配じゃよ……」
とりあえず、そのままゲームは進行していく。冷徹なる氷の女帝と化した大臣を止められる者はおらず、ゲームは完全な独裁状態に成り果てていた。
そんな中でも、四天王男性ペアは平常運転である。
「幸運マス。『盆栽コンテストで優勝し賞金一〇〇万魔界ゴールドを得る』」
このゲームが開始してから初めてケラヴスの口角が上がった。
「ケラヴス殿、少し嬉しかったですね?」
「申し訳ない」
盆栽を密かな趣味としていたケラヴスにとっては、たかがゲームだとしても胸に昂るものがあった。
ゲームは終盤に差し掛かり、ついに最後のルーレットが回る。
「はい! ハナコちゃんとアンネちゃん夫婦が今ゴール!」
独裁者である大臣の手から逃れられたと、このゲームの参加者、およびギャラリー全員がほっと胸を撫で下ろした。
そして、ついにこの暴走したゲームの勝者が決まったのだった。
(次回に続く)




