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第16戦・第五回勇者対策会議

あらすじ

勇者一行の女性三人が修学旅行のテンションではしゃいでいた。

 魔界の最奥、雷雲轟く魔王城。その円卓の間にいつもの五人が揃っていた。

 円卓の中心にはボードゲームが置かれ、いつものように五人はゲームに勤しんでいた。


「よし、われは『グリード』にホテルを建てるぞ。くくく……これでたんまりと資金を巻き上げてやろう」


 魔王は手に持っていた一〇〇〇万魔界ゴールド札を二枚、銀行へと渡した。そして、ボード上にある緑のコマを赤のコマへと交換した。


「魔王様……また、そんなギャンブルみたいなことを」


 忠臣ケラヴスがため息まじりに呟いた。それは、他のメンバーも同じようで、呆れ果てた顔をしていた。


「ふふふ……一点買いこそ、男のロマン! これをやらずして何の『歩野保利異ボノポリイ』か!」


 『歩野保利異ボノポリイ』というのは、今興じているゲームのことで、土地を買い、建物を建て、相手から金を巻き上げるという魔界的ゲームである。魔王はたった一マスにすべてをつぎ込んだ一攫千金の手法である。


「魔王様、今度負けたら罰ゲームですからね」

「この魔王であるわれが今回も負けるわけがないだろうが!」


 無慈悲な宣告をする大臣に大見栄を張る魔王は、手に持っていたサイコロを転がした。して、そのサイコロの目だけ自分のコマを動かした。


「パパの止まった『ラスト』の所有者は……大臣ね」


 『ラスト』のマスには緑のコマが三つ置かれていた。緑のコマがあるマスは通常より多くの資金を支払わなくてはならない。しかも三つもコマがあるのでその支払い額は飛躍的に高くなるのだ。


「魔王様、二〇〇〇万魔界ゴールドを支払ってください」

「え? ちょっと待って。われの手持ちは五〇〇万魔界ゴールドしかないんだけど?」

「なら、ホテルを売り払ってください」

「ちょっと待て、ホテル建てたばっかだよ!?」

「問答無用です」


 ホテルである赤いコマを除外され、その資金は大臣の手に渡った。



 数分後、顔に落書きされた魔王は、不機嫌そうに頬杖を突いて自分の席に座っていた。


「――いつもの流れで、勇者一行を足止めする作戦を議論します」


 すました顔の大臣は必要なことだけ口にすると、すっと椅子に座った。勇者対策会議も今回で五回目。ここにいる全員が会議の流れを理解していた。なかなか成果の出ない作戦ばかりで、現状を打破する案が必要である。


「はい、魔王様! やはり、ここは全員で勇者と戦う――」

「うん。いつもご苦労だな、アングリフ。それは、最後の手段な」


 出鼻を挫かれた初手のアングリフだが、さすがに馴れてきて気を落とすこともなくなってきた。それでも、少し堪えているのか竜の顔を俯かせた。


「五回目ともなると、少々マンネリしてきた感が否めないな。たまには大臣の意見を聞きたいが?」


 真面目な顔を作る魔王であったが、落書きされているのでどうにも締まらない。どうにも気の抜けた雰囲気がまとわりつく円卓の間に、大臣の澄んだ通りの良い声が発せられた。


「そうですね。魔王様、勇者と戦って負けたらいいんじゃないですか?」

「えッ!?」


 唐突に円卓に緊張が走る。あきらかな冗談なのだが、平静なままの大臣の面持ちを見ると冗談に聞こえない。つい、魔王は聞き返してしまう。


「大丈夫です。魔王様が死んだら私が代わって魔界を治めますから」

「ちょ、冗談だよね? われが死んだら大変だよ!? もう、とんでもないことになるから!」


 魔王は明確なデメリットを口に出来ずに、語彙が低下してしまう。実際、魔界の内政はほとんど大臣に任せてあるので、このまま魔王を引き継いでも大きな問題は起こらないだろう。それどころか、歓迎されてしまう可能性まである。

 その慌てた様子を見た大臣は口元を綻ばせた。


「冗談です。前にも言ったじゃないですか、私が魔王様を裏切るなんてあり得ない、と」

「ふ、ふふふ、そ、そうであろう……」


 微笑む大臣に少し恐怖を覚えながらも、魔王は胸をなで下ろした。

 失われた威厳を回復させようと、魔王は居住まいを正す。表面上は冷静さを取り戻したように見える。


「と、とにかくだ。大臣は怖いので誰か別の案はあるか?」


 魔王が仕切り直すと、円卓の間の緊張が少し緩んだ。

 魔王は困った時のお決まりとばかりに、ケラヴスへと視線を向ける。その視線を受けたケラヴスが頷いて魔王に応えた。


「先の勧誘は失敗しましたが、相手はさほど悪印象を持ってはいないようですな。ならば、公正なルールに則った試合を申し込んでみてはいかがでしょう? これなら、命のやり取りまでする必要はないでしょう」

「成る程。たしかにその通りだ」


 やはり頼りになると、魔王は首肯する。

 何かの競技で競うことになれば、勝ち負けで相手に言うことを聞かせることは容易い。真正面からぶつかり合うよりはよっぽど安全であり、被害も抑えられることだろう。


「もし……だ。こちらが負けたらどうするのだ?」

「それは、こちらも誠意をもって応えるしかありませぬ。さすがに、死ねとか言い出さないでしょう」


 これは諸刃の剣だ。五分の試合に持ち込んでも負けてしまっては意味がないし、相手の出方次第ではどのようなリスクを孕んでいるかわからない。


「……ならば、こちらに有利になる競技がいいな。かつ勝ち負けがはっきりするものが好ましい。誰ぞ、申し出はあるか」


 これには時間がかかるとふんでいた魔王だが、それはあっけなく裏切られる。愛娘であるロザリクシアが挙手をしてきたのだ。


「ハイ、ハイ、ハイ! わたしにいい考えがあるの!」


 少し気圧されながらも、魔王はロザリクシアの発言を許可した。


「ゲームとか、どう? 負けた方が罰ゲームって感じで。ほら、会議の前にいつもやってたでしょ? みんなだったら勝てるよ」


 会議前のお遊びがこんなところで伏線になっていたとは、当の魔王も思ってもみなかった。

 娘の発言後、一斉に視線が魔王へと注がれる。当然、いい意味ではない。


「しかし、魔王様がおりますからな……」

「魔王様がいるから無理です」

「オレが言うのもなんですが、止めるべきです」


 ロザリクシアの発案に円卓の間がひとつになった。ゲームをするべきではないと。


「そんなことないし、われが本気を出せば余裕だし!」

「――と、多少問題はあるけど、ゲームを有利に運ばせるいい案もあるの」


 魔王の反論を塗りつぶす形で、愛娘は発言を続ける。


「いい? 勇者たちは四人、それに対してわたしたちは五人。ゲームを四対四で行えば、必然的に一人余るよね。その一人がゲームの進行を務めればいいの。つまり、イカサマよ!」


 魔王はそれは『イカサマ』ではなく『八百長』なのではと、心の中で思った。

 イカサマという身も蓋もない解決方法に選択のメンバーにの表情に一縷の希望が宿る。


「それはいい案だと思うのですが、イカサマがバレる可能性もありますぞ」

「大丈夫! それも、いい考えがあるの! イカサマを合法化するればいいじゃん」

「娘よ、それはただのルールと言うのだぞ」


 娘には絶対的な自信があるように、魔王は感じ取った。


「ばれないように、ルールに潜ませておけばいいんだって」

「成る程、とある麻雀ゲームでイカサマが技として使えるのと同じ理屈か。まあ、相手は天和を連発してくるような奴が相手だが……」

「魔王様、例えが古すぎます。あと、セクハラなので、後に謝罪文を提出してください。」


 大臣も脱衣麻雀のことを知っているのかと、魔王は訝しんだ。

 イカサマはバレなきゃイカサマではない、という名言があるが、イカサマがルールだからイカサマではない。という強引な解決方法が提示された。これには、円卓のメンバーも苦笑い。


「まあ、面白そうではあるな。よし、ここはロザリーに一任しよう。頑張るのだぞ」

「うん! 絶対に勇者に勝ってみせるんだから! 作戦名は『幸せラブラブちゅっちゅゲーム大作戦』!」

「待って、不安しかない作戦名なんだけど!?」


 ロザリクシアは一分、一秒も惜しいとばかりに、円卓の間を飛び出していった。彼女のいなくなった円卓の間は静寂に包まれ、残された四人の心は風に揺られる木のようにざわついた。


「魔王様、本当にこれでよろしかったのでしょうか?」


 魔王はケラヴスの意見に肯定するしかなかった。

 どんなゲームになるのか、魔王は戦々恐々するのだった。

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