表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/63

第15.5戦・勇者一行の異文化交流

あらすじ

勇者一行を勧誘しようとプリンを振る舞う。

しかし、プリンだと思っていたモノは茶碗蒸しであり、かつ勧誘に失敗した。

 温泉の街「グリード」に温泉宿は数多くあるものの、その中でも高級店とされる宿屋「業突ごうつり」。和を重んじる建築はグリードでも数少なく、料理もそれに倣っている。

 そんな値の張る宿屋に勇者一行が泊まることができたのは、先の事件で勇者に迷惑をかけたという理由から、魔王自身が魔界滞在を許可したからである。宿泊費も魔王の公費から出ているのだ。


 賑やかだった温泉街も夜が更けたことで、その影を潜め静寂を取り戻していた。観光客も寝静まった頃に、勇者たちはイ草で編まれた床の上に敷かれた布団にくるまっている。

 和室は月明りに照らされ、お互いの顔が薄っすらと見える程度。その中で、ハナコ、アンネ、ナディスは三人で川の字を作って横になっていた。


「ねぇねぇ、今日さ、ナディスがプロポーズされてたよね」


 興奮からどうにも寝付けない勇者は、今日あった魔王からの勧誘の出来事を口にする。

 ハナコは昔、修学旅行へ行った時に、就寝時間の先生の見回りをやり過ごして、深夜まで友人と語り合ったことを思い出していた。その時のどきどきとわくわくが忘れられない。その際に最も盛り上がったのが、惚れた腫れたの恋バナだった。

 今回もそんなノリでこんなことを言い出したのだ。


「はぁ? そ、そんなことないでしょ」


 ナディスは横になったまま眉を顰める。


「ほら、『これからは、われのために――』って」

「それって、ただの召使でしょ。ほら、こき使ってやるって、そんな感じじゃない……あの時はちょっと勘違いしただけだし……」

「……あのセリフでは、召使めしつかい以外ありえんじゃろ」


 今日の魔王からの言葉は、あの雰囲気に呑まれてつい勘違いをしてしまった、とナディスは思い返す。あのときはちょっとときめいたが、よく考えれば別にどうといった意味があるとは思えない。あの魔王がそんな台詞を言うわけがない。


 いつもは積極的に話に参加しないアンネも、今回は少し興味を示したようだった。長い時間生きてきた彼女もこういう話は好物のようだ。


「知ってる? 異世界にほんでは、『俺のために毎日味噌汁を作ってくれないか!』ってプロポーズの台詞があるんだよ。これって、魔王さんが言ったことと、似てない?」


 ハナコは意外と古い話を知っていた。世代は違えど女性は色恋沙汰に興味をもつものだ。それは、まだ十六歳の高校生にも通ずることなのだろう。


「いや、その台詞、ただの奴隷宣告じゃない? 毎日作れって、自分で作らないの?」


 異世界にほんとの文明の差が二人の間に溝を作る。現代と地上界とでは、考えかたに大きな違いがあった。


「えー、違うよ。これは、いつでも二人一緒にいたいって、遠回しに言ってるんだよ。結構ロマンティックじゃない?」

「そういう意味なら、直接言えばいいじゃろ。相手に伝わらんと意味ないのじゃよ」


 考え方の違いから、ハナコは布団を頭まで被って拗ねてしまう。まさか、ここまで反発されるとは思っていなかった。


「でも、ハナコの言い分は結構面白いわね。ロマンティックかどうかはわからないけど、ただ漠然と好きだと言われるよりも気持ちが伝わってくるわ。その気持ちが相手に正しく伝わることが前提だけどね」


 いじけるハナコにナディスがフォローを入れる。少しイジメすぎたと反省したようだった。


「うーむ。プロポーズとな……ここはひとつ儂も考えてみるのじゃ」


 まだ幼いアンネの発言に、ハナコは布団から頭を出して、ナディスは身体を動かして彼女に注目する。年齢を考えれば、そんなことを言うとは二人は思いもしなかった。

 だが、アンネは見た目通りの年齢ではない。転生する前は婚期を逃した独身女性である。なので、プロポーズの言葉に興味を持つのも当然といえよう。


「へぇ……アンネなら、どんなプロポーズするのよ」

「そうじゃの……ハナコの言葉を借りるなら、『お主の作るスープを毎日儂に飲ませて欲しい』みたいな感じじゃな」


 その言葉で和室に妙な雰囲気が漂い始める。具体的に言うとピンク色の雰囲気だった。


「なんか卑猥」


 ぽつりと、ハナコが漏らす。


「な――ど、何処に卑猥要素があったのじゃ? ハナコの言葉、そのものじゃろ?」


 慌てるアンネを見て、ハナコとナディスは目を細めて、にんまりと笑みを作る。

 いつもは様々な知識でパーティーを助けてくれる大賢者が、こういった話に狼狽えるのが何とも面白かった。背伸びしていても、やはり子供。その認識が二人の笑顔を誘う。


「そのスープって、何色なのかなぁ? 白とか?」

「いや、スープっていろんな色があるじゃろ。どうして、白限定なのじゃ? シチュー?」


 ねちっこい言葉を言うハナコに、ナディスが続く。


「スープを飲むって、どこの口が飲むの? 上? 下?」

「は? 人間に口は一つしかないじゃろ? 上とか下とかあるんか?」


 こうして、平和な夜は更けていく。


「結局、何故儂がいじられておるんじゃ!? 誰か説明するのじゃ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ