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第12戦・反省会

あらすじ

とある事件から、勇者一行と戦う羽目になった魔王。

負ける一歩手前で、事件の真犯人が判明する。

主犯である四天王の補欠は、魔王の手でしょっ引かれた。

 夕焼けが眩しい空を分厚い雷雲によって閉ざされている魔王城。

 城塞都市プライドで起きた刺殺事件の処理を終えた魔王は、クタクタになったその身体を玉座に預けて休憩していた。玉座の肘掛に頬杖をついてだらしなく脱力していた。


「あー……疲れた」


 勇者たちとの激突だけではなく、部下の不始末の後片付けもあって一日の労働時間を超過していた。これほど仕事をしたのは、魔王に就任して以来初めてのことだと魔王は嘆く。大概の仕事は大臣に丸投げして楽をしていたのだが、今回の後始末では体力を根こそぎ奪われた。


「お疲れ様です」


 魔王より仕事量が多かったはずの大臣は、疲れ一つ見せずに玉座の左側に控えていた。


「はぁ……。それにしても、われが選んだ四天王が、ステータスが高いだけの馬鹿で無能とは思わんかった。お前と四天王とが選んだ人材だったからと油断していたようだ」


 四天王の推薦があったとはいえ、あの馬鹿たれの漆黒の魔術師を選んだのは他ならぬ魔王である。誰に文句を言うわけにもいかず、胸の内のもやもやが晴れることはない。


「まあ、反人間側の圧力があったのだろう? 四天王に反人間側の人物がいないとか因縁付けて、ねじ込んできた……。そうでなければ、お前があんな雑魚を選ぶはずがない」

「ご想像にお任せします」


 大臣は魔王の質問に敢えてぼかして答えた。魔王も素直に答えるような愚鈍な人物だとは思っていない。


「だが、ゴブリンを選んだのは、大臣だな?」

「その通りです」


 わかり切っていた回答に魔王は苦笑した。こういう悪戯めいたことには正直であることを魔王は知っていたのだ。


「お前もご苦労だったな。殺人犯をすぐに特定してくれて助かったぞ」


 傲慢門の死体安置室にて大臣に命じてから、犯人発見までさほど時間はかかっていない。勇者とぶつかり合ってすぐにロザリクシアが介入していなかったら、魔王はボコボコにのされていたに違いない。


「今回は本当にお手柄だった。流石は我の右手」

「それを言うなら、右腕です。それだと(ピー)するときに使われそうで嫌です」

「そんなわけないからね! 勘違いしないでよね!」


 魔王は自分の無知を誤魔化すようにまくし立てる。それから、一つ咳払いをして仕切り直した。


「ともかく、まるで最初から犯人を知っていたかのような速さだった」

「恐れ入ります」

「お前のような有能な部下が実は裏切者だった――なんてことはあるまいな。もしそうなら、これほど怖い相手はおらん」

「滅相もありません。絶対に裏切りませんよ、私は魔王様が大好きですので」


 大臣から出た思わぬ言葉に魔王は耳を疑った。普段は尊敬されるより馬鹿にされていることが多いように感じていた大臣が、絶対に口に出さないようなことを口にしたのだ。


「え? 今、なんて?」

「大好きだと申しました」


 魔王は白磁のような肌を赤くさせて少し視線を逸らした。

 そんなことを言われた後だと、いつも表情なく感情の起伏もない大臣がとても可愛らしい女の子に見えてきた。もしかして、大臣は絶世の美女なのでは? と勘違いし始めた。


 大好きなどと好意を寄せるような言葉を聞いたのは初めてのことだった。魔界の王として生きてきた魔王にとっては程遠いものだ。


「魔王様は知らないと思いますが、貴方に一目惚れして大臣を目指したのですよ。魔王様の就任パレードのテレビ中継で初めて見たときからこの心は魔王様のものです」


 さらに予想外の言葉に魔王は胸の鼓動を高鳴らせた。まるでベタ惚れされているような感覚になって、今までの疲れが吹き飛んでいく気がした。

 テンションが上がって笑顔を隠さない魔王とは対照的に、大臣は平静なまま口調も表情も変えずに言葉を続ける。


「覚えていますか? 魔王就任の時の言葉」

「えーと……」


 魔王は心当たりが多すぎて何のことを指しているのかわからなかった。


「『われが魔界の王となったのだ、貴様らは黙って従っていればいい。気に入らなければ実力を以て王位を奪うことだな! ハハハ!』と、仰いました」

「えー……」


 魔王は困惑した。自らが口にした言葉のどこに共感できる部分があったのか、まったく解らない。あらためて自分の吐いた台詞を聞くと、あまりの暴言に頭痛がしてきた。魔王とはいえ傍若無人すぎた。


「そんなこと、言ったっけ?」

「はい。言いました」


 即答された魔王はぐうの音も出ずに口を閉ざすしかなかった。


「一目惚れした私は魔王様の隣に並び立つような人物になりたいと行動を始めました。並み程度の能力しかありませんでしたが、勉強し、鍛錬し、研究し、とにかく自らを磨き上げました。ですから今、私は魔王様の隣で大臣をしているのですよ」


 大臣の言葉を魔王は意外に感じた。自分と並ぶ優秀なステータスに技能、そして内政能力に事後処理の手際。なんでも涼しい顔をして難なくこなす大臣がそんな努力をしてきたとは思いもしなかった。


「……そうだったのか。苦労したな」

「ふふふ、冗談ですよ」


 大臣の言葉に魔王は肩透かしを食らった。つい、頬杖から頭を落としてしまうところだった。


「まって、どこからどこまで!?」

「さぁ、どうなんでしょうね」


 魔王は色々と聞きたいことを煙に巻かれてしまったように感じて歯噛みした。

 そんな魔王を見て、大臣は微笑んで見せた。胸の内はもやもやとしていたが、その笑顔が見れたことに魔王は満足した。

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