Cランク冒険者と森の噂
カルロ。茶髪の青年冒険者。様々な魔法と数多の武器を使いこなすCランク冒険者。
カグヤ。黒髪ポニーテールの侍美少女。
「おはようカルロの兄ちゃん!」
「おはようございます」
「おっす、カルロの兄ちゃん!」
翌朝になり、あんな騒動があったにもかかわらず、僕はいつも通り朝のゴミ拾いと子供たちの登校を見守っていた。
「おはようみんな」
町の被害が多いと学校も休みになるのだが、今回被害を受けたのは主に港と公園だ。
「昨日、大変だったそうですね」
「まあね。でもみんなで協力したからそんなに大変じゃなかったよ」
サーシャはそうなんですねと納得し、怪我がなくてよかったですと付け足した。
「カルロの兄ちゃん、昨日あの不良の兄ちゃんにお礼言えたよ。ありがとう」
「そっか、よかった」
レッドのお母さんを助けたのは僕ではなくランツだからね。昨日のゴミ拾いするエリアを代わって正解だった。
「カルロの兄ちゃん、聞いてよ。こいつ将来冒険者になってカルロの兄ちゃんを越えるのが目標なんだって」
「へぇ〜」
「ちょ、イルマ! なんで今言うんだよ!」
揶揄うようなイルマに顔を真っ赤にしたレッドが言う。
「え〜だって烏滸がましいじゃん、レッドのくせにぃ〜。カルロの兄ちゃんは、朝から怒られたりしないし〜」
「あ、あれは朝から母さんが野菜ばっかり出すからだ! 俺は肉が食いたいって言ったのに!」
あはは……また始まっちゃった。
「と、とにかく! カルロの兄ちゃん、俺は絶対兄ちゃんを越えるからな! 俺が冒険者になるまであと五年。それまで誰にも負けなんじゃねぇぞ!」
「あ、敵前逃亡だ」
「ま、待ってください!」
三人は元気に学校方面へと駆け出していった。
芽が育つのは悪い感じはしないな。僕も負けないように頑張らないと。
そう思っていると一人の女の子が凄い形相でこちらに向かってきた。カグヤだ。
「あ、あんた! 昨日の夜、私に何かした!?」
真っ赤な顔でこちらに大声で尋ねるので、通りかかった人たちが微笑ましい目で僕らを見ている。
実は昨日、巨獣化した火ウツボを無事に討伐したあと、冒険者ギルドの酒場で盛大なパーティーが行われたのだが、夜遅くまで続いたパーティーは、ギルドが宿屋になってしまうほど酔い潰れる者が多くでた。
家や宿がわかっているランツとカグヤだけでも送り届けたのだが……実はカグヤが凄い力でしがみついていて引き剥がせなかったので、僕もカグヤの部屋に泊まったのだ。
はぁ……早く起きたけど、誤魔化さなかったか。まぁ宿屋のおばちゃんも妙にニヤニヤしてたもんなぁ〜。
とりあえず誤解が生まれる前に弁明しなければ。
「何もしてないよ」
「……ほ、ほんとに?」
「ほんとに」
「……そ、そう。ねぇ、私って酔ってた?」
「うん、凄く。立っていることができないくらい酔ってたよ」
というかあれだけ呑んでよく普通に歩けるものだ。
ランツなんか体調が悪そうだったから帰したのに……。今日は仕事に行く冒険者は少ないのではないだろうか。
「そう……まあ、次からは気をつけるわ。その……ありがとう」
「うん。あっ、そういえば母さんが、カグヤが来たらご馳走にするって言ってたけど、いつ来る?」
母さんも母さんで、連れてこないと煩いからな。
「そう……まぁ、近いうちに行くわ。その時は声かけるから」
「わかったよ」
「じゃあ、私は宿に帰る」
と言ってカグヤは帰っていった。やっぱりまだ眠いのかな?
○○○
森の中に雷光が煌く。
ミスリルのロープで縛られ、雷魔法により倒れたのはシャドウカンガルー。
影の中に潜り、さらには岩をも砕くその拳から、危険度がBランクに指定されている魔物だ。
本当、魔物というものはどこから湧き出てくるのやら……。
ちなみに、こいつらは必ず二体以上で行動する習性をもつ。こいつだけで終わり、というわけでもないだろう。
ガサッ、ガサッと茂みが同時に二つ揺れ、シャドウカンガルーが飛び出してきた。
「同時に二体……ね」
ま、特に問題ないけどさ。
「【求めるは光、線となりて的を穿て、フォトンレーザー】」
真上に高く飛び上がり、先手必勝で高威力の光魔法を撃ち込む。これで一体。
もう一体は……
「これで終わり」
咄嗟に影の中に潜り込んだもう一体を、ミスリル製のロープで引っ張り出す。シャドウカンガルーの影に潜る魔法は、空間魔法の一種だ。
同じ属性の魔法が使える僕なら引っ張り出せる。
「ギュイッ!!」と驚く声を上げるシャドウカンガルーに掌底を打ち込み、戦闘を終わらせる。
ふぅ……。今日の仕事はこれで終わりだ。
三体のシャドウカンガルーをアイテムボックスにしまい、町へのゲートを開く。
すると、後ろから小さな悲鳴が聞こえ、僕はすぐさまその悲鳴の元へ駆け出した。
辿り着いた先には、十匹の二尾猿に囲まれた三人の女の子。
盾持ちの前衛剣士、杖装備の後衛魔法使い、棍棒持ちの僧侶と、バランスの良いパーティーだが装備はまだ初心者のそれだ。
ここはそこそこ森の奥だ。いったいどうして初心者パーティーがこんなところまで来たのだろうか?
とにかく助けなれば。
今にも三人に襲いかかりそうな二尾猿たちの前に立ち、アイテムボックスから取り出した刀を振り回す。
こいつらは素早くが防御力は低い。カグヤに使い方を教わっておいてよかった。
「ふっ!」
「ギギ!? キシャーーーーッ!」
僕の振った刀が二尾猿の一匹に当たらず、虚しく空を切った。それをチャンスと思った二尾猿は、無造作に飛び込み――
次の瞬間、意識は闇へと屠られた。
燕返し。
最初の一太刀はフェイクで隙を態と作り、相手が攻撃をしてきたところに素早く刃を返し、斬り込む剣術。
カグヤの……とまではいかないけれど、僕の刃もなかなか鋭いだろう。
さてと……
「君たち、大丈夫かな?」
とりあえずへたり込む三人はギルドに連れ帰るとして、どうして駆け出しのパーティーがこんな奥にいるのか事情を聞こう。
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