Cランク冒険者と港の騒動(後編)
カルロ。茶髪の青年。属性魔法からレア魔法まで使えるCランクの冒険者。
エリス。金髪の美人エルフ受付嬢。
マークライズ。筋肉ムキムキのオカマ解体士。
バル。元凄腕冒険者のマッチョ造船士。歳は七十近い。
カロス。カルロの父。元Bランク冒険者。力がある。
風魔法を使って空を飛び、船が沈没した所まで行くと、船員たちが陸の方に向かって泳いでいるのが見えた。
すぐさまゲートを冒険者ギルドの入り口まで繋ぎ、転移させる。
これでギルドや警察に状況説明をしてくれるはずだ。もう逃げた住人によって説明されているかもしれないが……。
だが彼らが転移したことで、僕が港で戦っているのは伝わる。この町で転移魔法が使えるのは僕だけだからだ。
すぐに救援がくるだろう。それまでなんとか……
この巨獣化した火ウツボを――食い止める!!
海面からゆっくりと顔を出した火ウツボに向かって、僕は雷を放った。
○○○
『…………ぁ……』
カルロのゲートで転移させられた船員たちは、声も出せずに茫然とする。
目の前にある建物は、見慣れた町の冒険者ギルド。全員が、自分たちは助かったのだと混乱する頭の中で理解した。
わけもわからず突然自分たちを襲った恐怖。長い胴体、絞め壊され燃える船、薄暗い海中に見えた怪しい眼光。
どれを思い出しても恐怖でしかなく、船員たちは震え上がる。
同時に、安心感からか、その場で眠るように気絶してしまった者も少なくない。
しかし船員たちのリーダーである船長は、長年漁師をやって鍛えた精神力でなんとか意識を保っていた。
突然の嵐による遭難をした経験に比べれば、こんなものは……と、疲労と濡れた服で重い身体をゆっくり起こし、荒く息を切らせながらギルドの扉を開ける。
「――!? どうしたんですか?」
ギルド職員のエリスは、船員の異常な姿を見てすぐに駆け寄った。
さらに、見ればギルドの外にも漁師らしき人たちが倒れているではないか。
それに、ザワザワと心が揺れるこの感覚は……。
「りょ、漁の仕事中に、怪物が出た……。俺たちは、船から飛び降りて、それで……気がついたらここにいたんだ。海を泳いでいたはずなのにだ……はは、不思議だろ?」
ここでエリスはピンときた。
脳裏に浮かぶのは、一人の冒険者。町の住人からも、警察やギルド職員からも信頼されている、茶髪の青年……。
そこからのエリスの行動は早かった。
町の放送を使い、できる限り闘える者たちを、港に集合させることにした。
『冒険者ギルドから緊急クエスト! 冒険者ギルドから緊急クエスト! 港に大型の魔物が出現! 戦闘のできる者は、直ちに武器を持って港に向かわれたし! 繰り返す! 港に大型の魔物が出現! 戦闘のできる者は、直ちに港に向かわれたし!』
エリスが戦闘のできる者……と呼称したのは、この時間帯、冒険者たちは森の方へ行っている者が多い。そのため引退した元冒険者などにも助けを求めた。
そして……
町にいる冒険者、元冒険者たちが一斉に武器を取り、港に駆け出していった。
○○○
「はぁ……さすがにこれはちょっとキツくなってきたな」
僕は結界を足場にし、空中で膝をつく。下からは結界を壊そうと尻尾による打撃攻撃や炎のブレスが襲ってくる。
「だいたい海の中にいるのに属性が火なのがなぁ〜」
やり難い。非常にやり難い。
弱点の水魔法も、水中に潜られてしまえば消えてしまう。氷魔法を使うにしても、流れている海水を凍らせるほどの魔力はない。
風魔法で飛びながら、結界魔法で足場を作りながら、威力の高い魔法を放つ。
ふぅー。と僕はため息をして、アイテムボックスから魔力回復のポーションを取り出す。
その場凌ぎのポーションでも、今使わずにはいられない。
「そろそろだと思うんだけどなぁ」
さっき港の方から冒険者ギルドの緊急放送が聞こえた。だからそろそろ援軍が……おっ、来た来た。
魔導エンジンを搭載した高速船が一隻、僕の方に向かってくる。
乗っているのは解体士のマークライズさん、父さん、バルさんの三人だ。
「……まさかとは思うけど」
僕の脳裏に浮かぶとある作戦。
いやいやいや、無理でしょ。
と、三人の乗る船に火ウツボが大きな口を開けて攻撃する。
僕は咄嗟にゲートを開き、三人を僕のところに転移させる。魔導船は粉々に砕け、海の藻屑と化した。
「さ、始めるわよカルロちゃん。ゲートの方よろしくね」
「一応聞きますね。何を始めるんですか?」
「んもーうっ! そんなわかりきったこと聞かないでぇー!」
開口一番、準備体操をしながらマークライズさんが僕に言う。父さんとバルさんも同じように体操していた。
「久々に滾るのぉ〜」
「二日後は筋肉痛だな、こりゃ」
「えっ? バルさんも父さんも何言ってるの? というかバルさんはもう七十近い……」
「歳なんか関係あるか! がはははっ!」
マジか。この人らマジか……。
「本当はドノムちゃんも連れてくる予定だったんだけど、ワシは海が嫌いだとか言っちゃって。向こうで待機してるから、安心よ」
んん……。
「……転移先は?」
「港区の公園。そこで現役冒険者と元冒険者たちが待機してるわ」
「まあワシらの頑張り次第じゃがのぉ」
「息子に美味しいところ全部持ってかれるのも癪だからな。まあこれぐらいは頑張るか」
そして、体操が終わったと同時に、火ウツボが尻尾を叩き落としてきた。
「じゃ、じゃ上と正面の結界だけ解きますね!」
防ぐ魔法障壁はない。僕らに大きな尻尾が振り下ろされる。
それを「ふんぬっ!」と気合を入れて三人は受け止めた。
そして一斉に背負い投げをする体勢になり、三人の怪力に、火ウツボは空を舞った。
えぇ〜〜〜………………この人らマジでやったよ。
「今よカルロちゃん!」
「ゲ、ゲート!」
空に舞った火ウツボをゲートで送り、僕らも港区の公園に向かった。
○○○
「【求めるは水、滝の防壁、アクアシェル】」
「【求めるは水、冷水の槍、アクアスピア】」
「水属性の魔法が使えるやつはどんどん撃ち込め! 前衛! 魔法使いを守れよ! 尻尾攻撃がくるぞ!」
陸地(公園の広場)に上げられた火ウツボは、ドノムさんの指揮の下、現役の冒険者や元冒険者たちの手によって針の筵と化していた。
打撃は大盾を持つ前衛に防がれ、火のブレスは水の防壁に防がれ、八方塞がりとなっている。
「カルロちゃんが頑張ったのね。巨獣にしては力が弱まっているから……ほら、あんな攻撃を喰らったら普通は吹っ飛ぶところだけど、踏ん張って耐えられた。もう力尽きるわね」
マークライズさんの言葉通り、巨獣化した火ウツボの動きが傍目にもわかるほどに遅くなっている。
そして、カグヤの必殺の居合が巨大な胴体を真っ二つに切断し、火ウツボは息絶えた。
直後、勝利の雄叫びが公園に響き渡り、この日、町を脅かした脅威は、無事に討伐されたのだった。
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