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Cランク!  作者: 尾北ルイ
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Cランク冒険者と港の騒動(前編)


カルロ。茶髪の青年冒険者。父の名はカロス。


ランツ。紫髪リーゼントの元不良冒険者。パル君という子分がいる。


バル。船大工。カロスの仕事仲間。パル君の祖父で元凄腕冒険者。


 

 防波堤に波が当たり、水しぶきが空を飛ぶ。

 カモメが三羽、円を描いて飛ぶ港は、漁師や取れたての魚を買い付けにきた商人たちの声が騒がしいほどに響き、競りの値段が段々と上がっている。


「賑わってますね、アニキ!」

「うん、後で何か買っていこうかな」

「俺も親父に、どうせ行くならサバを買ってこいって言われました」


 僕はランツと共に父さんの仕事場にきた。


「うおっ危なっ! ア、アニキ、気をつけてください! ここは糞が降ってきます! あっ! あのハゲてるカモメ、こっちを見て笑ってますよ!」


 降りてこいやコラァァァ!

 と、頭の毛がないカモメに喧嘩を売るランツ。やめなって、糞を落とされるだけだから。


「うおっまたかよっ!」


 ほらね……。

 被るのもあれだし、外にいる時だけでも結界を張っておこうかな。

 と思っていると、父さんが迎えに来た。


「おはようございますアニキの親父! 自分、アニキの一番弟子のランツっす! 以後、よろしくお願いしやす!」

「お、おう。名前は聞いていたが、そうかお前がランツか。じゃあこっちだ二人とも」


 僕とランツは父さんに連れられ、船の修理や造船をしている造船所へ来た。


「カルロには言ったが、船大工の一人がぎっくり腰になっちまってな。二人には資材の運搬を手伝ってもらいたい」

「うっす! 三人分働きます!」

「ランツも気合いが入り過ぎてぎっくり腰にならないようにね。回復魔法じゃ治らないから」


 なぜかぎっくり腰って回復魔法じゃ治らないんだよね。自然にひいた風邪とかも。


「わかってま……」

「――アニキィィィィ!!」


 と、修理中の船の上から、こちらに手を振る若い船大工が一人。

 彼はランツに向けて手を振っている。船から降りると走ってこちらに向かってきた。


「おう! お前パルか! そうか、お前ここで働いてるのか!」

「はいっす! アニキも冒険者になったって聞きましたけど、ほんとだったんすね。てっきり冗談かと思ってました」

「ふっ、甘いぜパル。俺はもう口だけの男じゃねぇ。今や凄腕冒険者、カルロのアニキの一番弟子、ランツたあ……あ、俺のことぉぉよぉぉぉぉ!」


 カンカンカンッ!

 と、残念ながら波ではなく、代わりに船大工たちの金槌で叩く作業音が聞こえてくる。

 パルと呼ばれた彼は、ランツの不良時代の仲間だろう。

 ちなみに父さんは僕らが話している間に、年配の人と話をしていた。

 年配と言っても、仕事柄筋肉が多く、体格が大きいためとても父さんより二十歳も上だと思えない。


「ふむ、お前がカロスの息子か」


 カロスとは僕の父の名前だ。


「はい、カルロと言います。今日はよろしくお願いします」

「うむ、礼儀正しくてとてもカロスの息子だとは思えんな。がははっ!」


 豪快に笑ったあと、筋肉質なお年寄りはバルと名乗った。ランツの子分、パル君のお爺さんらしい。


「で、お前がパルの言ってたヤツだな。孫が世話になったそうだな! がははっ!」

「う、うっす! よろしくお願いしゃす!」


 ランツって不良だったくせに迫力がある人には怯むだよね。マークライズさんの時もそうだったし。

 挨拶もそこそこに、僕らに仕事が割り振られた。

 ランツはパル君の元で資材運搬。僕はバルさんの元で運搬と……


「こっち、終わりましたよ」

「おぉそうか。じゃあ次はそこな」


 なぜか金槌片手に修理の手伝いだ。まあ釘を指定されたところに打つだけなので、問題はないのだが……


「うぐぅ……さ、三人分働くなんて、言わなきゃよかった」


 真っ青な顔で資材を運ぶランツを見ると、少し申し訳なく思えてくるな。



 ○○○



「んががががっ! 海鮮丼うめぇぇっ!」


 海の幸が載る宝石箱の中身を、ランツが掻き込むように放り込んでいく。

 確かに美味い。新鮮だから、ということもあるだろうが、汗水流して働いたあとの塩っ気が効いた海鮮丼は、顎の筋肉を止まらなくしている。


「パル! お前毎日こんな美味いもん食ってたのかよ。ずりぃじゃねぇか!」

「獲れた中には売れない海鮮物もあるっすからね。今日の海鮮丼もその具材で港のおばちゃんたちが作ってくれたっす」


 パル君の話を聞いていると、バルさんが「そういえば……」と切りだす。


「ここ最近傷物が増えてんだよなぁ。まあ、魔物が喰っちまってんだろうが、このまま続くようなら、あと数日でギルドに依頼せにゃぁならんな」

「じゃあその時は、僕が受けますよ」

「おっ、じゃあ指名依頼として出しておくか。しかし、相手は海の中だが、大丈夫なのか?」

「大丈夫で……」

「――アニキなら問題ないっすよ! なんてったって『万――」



 ――ドバアァァァンッ!!!!



 と、ランツが僕の話に割り込んできたかと思えば、さらに大きな音がランツの声をかき消す。


「なんだ? 何の音だ!?」

「海の方からだ!」

「きゃあーーーっ!」

「な、なにあれっ!?」


 外から悲鳴やら驚く声が聞こえてくる。僕はまだ半分残っている海鮮丼を置き、駆け出した。


「あっ、アニキ、待ってください! んががががっ! ご馳走様です!」

「ああっ、ランツのアニキ、危ないっすよ!」

「カロス、ワシらも行くぞ」

「はい」



 なっ、なんだあれっ!?


 外に出た僕は、先ず漁猟中の船を襲っている魔物に目がいった。

 その魔物は船に巻きつき、木造船を絞め壊している。船員たちが船から飛び降りる姿が見えた。

 さらにあの魔物に驚いたのか、ハサミが四つある四つ刃蟹が海から港に上がってくる。


「あれは火ウツボか? 海の中でも炎を吐く厄介な魔物だ。しかし大きい……まさか巨獣化しているのか?」


 バルさんの言葉通り、船が燃え盛り、海の中へ沈んでいく。

 とにかく、まず先に船員たちの安全を確保しなければ!


「父さん、ハルバードでいいよね?」

「おう! ここは任せろ、行ってこい!」


 アイテムボックスからハルバードを取り出し、地面に突き刺すように置く。僕用だから父さんにしたら小さいかもしれないが、充分だろう。

 さあ行こう!

 と、風魔法で空を飛ぼうとした時、バルさんに声をかけられた。


「待て小僧! 他にも武器があるなら置いていけ! 槍がいい!」

「え、あぁ、はい!」


 た、戦うのか? お年寄りは逃げた方が……。という僕の視線を読み取ったのか、バルさんは不敵な笑みを浮かべて僕を見返す。


「これでも若い頃は名を挙げた冒険者よ! 戦争も経験してるから心配はいらん!」

「そ、そうですか。じゃあ僕は行きますね!」


 父さんとバルさん、ランツが四つ刃蟹と戦闘を開始し、パル君は物陰から応援しているのを尻目に、僕は空を飛んで巨獣化した火ウツボの元へ向かった。



お読みいただきありがとうございます。

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