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Cランク!  作者: 尾北ルイ
4/7

Cランク冒険者の午後


カルロ。茶髪の青年。火、水、土、風、光、闇の属性魔法から召喚魔法、空間魔法まで使える。両親はどちらも元Bランク冒険者。少し前の異名は便利屋。現在は……


エリス。金髪の美人エルフ受付嬢。


マークライズ。ムキムキマッチョな解体士。キャラが濃い。



 

 カグヤと昼食を終えた僕は、ギルドの依頼を受けて森へ来ていた。

 カグヤもどう? と誘ったのだが、武器をドノムさんのところへ整備に出しているらしく、一緒に依頼を受けるのはまた今度ということになった。


「――ふっ!」


 バキンッ!!

 ミスリルのガントレットを装備した僕は、その拳に炎を纏わせ、鉄の釜を叩き割る。

 釜ガメという、釜をひっくり返したような形の甲羅を持つ魔物だ。

 以前は苦戦していた釜ガメの釜も、灼熱のミスリル拳には耐えられなかったようだ。これで本体は裸も当然。


 僕は空いた穴の部分に火の球を放つ。


「【求めるは火、燃えさかる球、ファイアボール!】」

「ゴガァァァァ……!」


 ポンッ! と、空いた穴に入ったファイアボールに、断末魔の叫びを上げながら釜ガメが息絶える。

 茹で……いや、焼きガメかな?

 いい感じに焦げているだろう。この釜ガメは鉄の釜も本体の亀もいい値段で売れるのだ。

 僕の懐も亀もホクホクだ。

 釜ガメは死んでいるのでそのままアイテムボックスに入れる。



 これでギルドの依頼は達成だ。

 僕は空間魔法のゲートを使い、町に近いところまで転移した。

 門番さんに挨拶し、ギルドで依頼達成の報告をする。

 昼間の時間帯は冒険者たちがいないと思うくらい空いていた。

 ちょうど馴染みの受付嬢が暇そうにしていたので、そのカウンターに行った。


「釜ガメ討伐の依頼、終わりましたよ、エリスさん」

「ふぅー、相変わらず仕事が早いですね。はい、報酬の五万Gです」


 尖った長い耳と長い寿命が特徴の、エルフの受付嬢エリスさん。胸も大きく美人で、町の人や冒険者からも人気がある。自称二十歳。


「今、何か変なこと考えましたか?」

「……いいえ何も。解体場に行ってきますね」


 触らぬ神に祟りなし。

 達成報酬のお金をもらった僕は、そそくさと受付を後にした。



 ○○○



「あら〜カルロちゃんじゃなぁ〜い! いらっしゃ〜い! 今日も魔物ちゃん持ってきてくれたのぉ〜! やだ嬉しいーっ!」


 う〜む、相変わらずキャラが濃い人だ……。

 ムキムキマッチョなのにお姉口調で身体をクネクネとさせているのは、この町の解体士の一人、マークライズさんだ。

 僕はアイテムボックスから釜ガメを取り出した。


「マークライズさん、今日は釜ガメです。あっ、お肉は家族と食べるので、半分ください」

「うふふ、了解よ〜ん! でもカルロちゃん、私のことはマーちゃんでいいって言ってるでしょぉー?」

「あはは、慣れたらですね。慣れたら……」

「もうっ、照れ屋なんだからぁ!」


 頬を赤く染めながらも、マークライズさんは釜ガメをククリナイフで解体していく。

 ん? 釜ガメの亀と釜の接合が強いっぽいな……。

 と思ったら、マークライズさんからぷちっと何かが切れる音がした。


「あ゛あ゛あ゛っ!! 釜のくせにしつけぇんだよゴラァァァッ!! それに言い難いんじゃゴラァァァ! 釜か亀かどっちかにしやがれやあ゛あ゛っ!? それともオカマになるかゴラァァァッ!!!!」


 ぶちぶちぶち! ぷちぷちぷち!

 何が切れたのかは推して知るべし。まあ教育上小さい子供には見せたくないものだ。


「ふぅー、終わったわ。見苦しいところを見せちゃったわね。お肉、多めに持っていってちょうだい。もちろん、買取価格はおまけするわ」

「ど、どうも……」


 マークライズさんのお詫びもあり、釜ガメの買取価格は全部で四万五千Gだった。


「うふふぅ〜、また何かあれば持ってきてちょうどねぇ〜。この町じゃ貴方くらいしか丸ごと持ってきてくれる子がいないから。んちゅっ!」

「ああ、はい……」


 僕はありがたくない投げキッスを貰い、解体場から去った。

 マーちゃん、マーちゃん……うん、僕はマークライズさんでいいや。



 ○○○



「あっ、カルロさん。すみません、少しお話があるのですが……」


 解体場から戻った僕にエリスさんが声をかけてきた。お話?


「何かあったんですか?」

「先ほど入った情報なのですが……実は先日、街道でとある商隊が賊に襲われたそうなんです。どうもそれが、闇商人だったそうで……」


 闇商人が移動中に賊の襲撃に遭ったか……穏やかじゃないな。

 表と裏の対立はまだマシだ。だが、裏と裏の対立は、関係ない人たちにまで被害が出る。


「……商人は殺されているんですか?」

「ええ、商人だけが捨てられた荷台の近くに遺体となって転がっていたそうです。ちなみに荷台は空だそうで……」

「へぇ〜……」


 商人は必ず護衛を複数連れている。それが傭兵か冒険者かは会ってみないとわからないが……。

 特に闇商人は慎重だ。手練れの護衛を必ず付けていたはず。

 それが、遺体はその闇商人だけだった。

 馬も荷物も護衛も、一つ残らず消えていた。

 これは……その闇商人が最初から狙われていた可能性が高いな。高確率で護衛と賊は繋がっている。

 そうなると大事なのは……


「その運んでいた荷物は何なんですか?」


 僕の問いにエリスさんは首を横に振った。


「それがまだわかっていないそうです」

「参ったなぁ……」


 せめてそれさえわかれば手の打ちようも多少はあったのに……。


「まあ、行き先がこちら方面なだけで、この町がターゲットかどうかは分かりませんけどね」

「う〜ん、それもそうですね……。これといって財源はない、至って普通の港町ですからね。ここは」


 この町よりももっと旨味のある所はある。普通に考えて狙うならそこにするだろう。


「何か情報が入ったら連絡しますね」

「はい。僕の方も町や森に異変がないか注意しておきます」

「よろしくお願いします」


 闇商人が襲われた、ということは隠して、ランツやカグヤにも異変がないか注意するように言っておこう。

 初手で遅れているのだから、耳は多い方がいい。



 ○○○



「ただいま」


 ゴミ拾いをしながら子供たちの下校を見守り、ギルドに報告し、日が半分まで沈んだ頃、ようやく家に帰れた。


「おかえりカルロ。先にお風呂入ってきなさい」

「わかった。これ、今日の収穫。釜ガメの肉」

「あらありがとう」


 母さんに釜ガメの肉を渡して、洗面所へ向かう。

 ドアを開けると、そこにはお風呂上がりなのかバスタオルを巻いた妹のミルがいた。

 ミルは少し怪訝な表情で僕を睨む。


「おっと、ごめん」


 ミルは活発な子ではない。基本的に無表情で、掴み所のない妹だ。

 将来は薬師になるため猛勉強をしている。兄妹仲は……良くも悪くもない、普通だと思う。

 と、洗面所のドアが開いた。


「もういい……」


 まだ少し濡れた髪を、肩にかけたタオルで拭きながら横を通ったミル。

 仲は良い……はずだ。



「そういえばカルロ。貴方今日、カグヤちゃんとデートしてたでしょ?」


 風呂から上がり、夕食を食べている時、母さんがそんなことを言ってきた。

 ミルはもぐもぐと我関せずといった風に釜ガメの肉を食べている。

 ちなみに夕食は釜ガメの鍋だ。この肉はやはり茹でが良い。


「ほう、カグヤちゃんてあれだろ? 一年前にカルロが家に連れてきた可愛い侍っ娘。あんな可愛い子()彼女にするたぁ、さすが俺たちの息子だなぁ、母さん」

「そうねぇ! しかも今話題のレストランをチョイスするなんて、あんたにそんなセンスがあるとは思わなかったわっ」


 あのレストラン話題になってるのか……。確かに混んでいたし、味も美味しかったけど。

 あと父さん、「も」ってどういうことだ、「も」って。


「あの店に行こうって言い出したのはカグヤだよ。それに、なんで母さんが知ってるの?」

「あらそうなの。なんでって、母さんもその時間にお店にいたからよ。セーラのお母さんと食べに行ってたのよ」


 セーラとは、隣の家にいた幼馴染みだ。

 彼女はBランクの冒険者として、とある貴族の依頼を受けており、今はこの町にいない。

 セーラ、元気かなぁ。


「ねぇカルロ、今度カグヤちゃんを家に連れてきなさいよ。ご馳走作ってあげるから」

「息子がハーレム野郎で父親としても嬉しいぞ。ちゃんと二人を養えよ」


 とりあえず、セーラもカグヤともそういう関係ではないので父さんは黙っていてほしい。


「ご馳走さま……」

「あら、もういいの?」

「うん、勉強するから……」


 そう言って食卓を離れるミルを三人で見送る。


「ミルって、学校を卒業したら王都にある薬師の学校に行きたいんだっけ?」

「そうよ。ほんと私の娘かってくらい勉強してるわ」

「あれだけやってるんだ。あいつなら受かるだろうさ」


 父さんの言葉に僕もそう思うと頷く。

 すると、父さんが思い出したという風に僕に話を振ってきた。


「そうだカルロ。お前明日暇か?」

「まあ、暇といえば暇だけど……」


 冒険者なんて依頼を受けなきゃ仕事がないようなものだからね。

 中には登録して依頼を全く受けずに、仕事は何をしてるか聞かれた時だけ冒険者ですって答える人もいるんじゃないかな?


「港の方でなにかあったの?」


 父さんは漁師をしている。ちなみに元Cランクの冒険者だ。あっ、母さんも。


「港に、というか船だな。先日壊れた船を直しているんだが、人手が足りなくてな。一番力のあるヤツがぎっくり腰になっちまって……悪いんだが手伝ってくれないか?」

「ああ、そういう……別にいいよ」


 空間魔法ならアイテムボックスでどれだけ重い資材も運べるし、なんなら浮かせることもできるしね。


「そうか。なら頼む。いや〜息子に空間魔法の適性があって良かったぜ」

「本当びっくりしたわよね。レアスキル使えるんだから……でも、魔法に関しては小さい頃から仕込んだ私の手柄ね」


 母さんも父さんも好き勝手言って……本当、僕っていいように使われるよね。

 少し前まで異名が『便利屋』だったし。

 明日は港で仕事か……せっかくだからランツも連れて行こう。

 あいつ力あるし、人数は多い方が良いだろう。



お読みいただきありがとうございます。

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