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Cランク!  作者: 尾北ルイ
3/7

Cランク冒険者の昼sideカグヤ


カグヤ。黒髪ポニーテールの侍美少女。


カルロ。茶髪の青年。


ランツ。紫髪リーゼントの元不良新人冒険者。カルロの弟子。

 


 ムカつく……。

 ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくぅぅぅぅ!!!!


「ああああああああっ!!!」


 イライラするぅぅぅっ!!

 私カグヤは路地で上を向き、空に向かって吠えた。近くにいるほぼ全員がビクッと震え、なんだこいつという目を向けてくる。

 だけどそんなこと知ったことか。私は怒っているのだ。あいつにだ。


「あーもう! どうしてアイツはこうなのよ!」


 何が全然……よ。

 あんたが一番舐められてんのよっ!!

 決闘なり闇討ちなりして黙らせればいいじゃないのよ!!

 ビリッ! と、依頼用紙のコピーを半ばまで破ってしまい。いけないいけないと冷静になる。


「お、お名前をお願いします」


 町の門まで行くと門番が怖がりながら聞いてきた。私の目つきがそうとう怖いのだろう。


「……Cランク冒険者、カグヤ」

「は、はい、ありがとうございます。で、ではお気をつけて!」


 はぁ……。私は心の中でため息を吐きながら、依頼を片付けるため森に向かった。



 ○○○



「なんか拍子抜けね……」


 運が良かったのか悪かったのか。

 討伐対象の二尾猿の群れがすぐに見つかってしまったので、私は一時間ほどで依頼を終えてしまった。

 素材も換金してもらい、成功報酬を含めて10万Gの報酬だ。

 この後はドノムさんに刀を研いでもらおうと、武器屋に向かう。


「こんにちはドノムさん」

「おういらっしゃい」

「刀、研いでもらえる?」

「おお、いいが……なんか刃こぼれが荒くないか?」

「……ちょっと力押しした部分もあったかも。反省してるわ」

「……とてもそうは見えねぇがなぁ」


 ごくごくとドノムさんはひょうたんに入っている酒を飲んだ。

 そして私にもお茶を用意してくれた。そういえば喉が渇いた。ありがたく頂戴する。


「お前さん、カルロとなんかあったのか?」


 ぶぅーーー!!


「は、はぁー別に何もないし」


 くるくる、くるくる。縛った髪の毛の先を指でいじりながら答える。


「……まあいいけどよ。お前らは冒険者なんだから、やりたい時にやりたいことをやっておけよ。先輩からの助言だ」

「……そうね」


 冒険者は命懸けだ。

 一瞬の隙も命取りになる。

 町の外では魔物や盗賊と闘い、命を奪ったことに罪悪感を覚えることもある。

 それでもやらなければいけない時がある。

 町中は町中で僻みや妬みでトラブルがつきものだ。酷い場合は暗殺なんてしてくる時もある。

 宿に襲撃でもされれば本当に休まる所はない。


「そういえばカルロのやつ。ランツが何か犯罪に巻き込まれたかもしれない、とか言って飛び出して行ったんだが帰って来た時何もなかったか?」

「え? 特に聞いてないけど……」

「じゃあまだ解決してねぇんだな。でもそろそろだと思うんだがなぁ……」


 …………。

 気になった私は棚に置いてある売り物の刀を取る。


「ドノムさん、ちょっとこれ借りるわね。様子見てくるからその間に刀の整備お願い」

「ん? おう。壊したら倍の値段な」


 ……たぶん冗談だろう。

 私はドノムさんの言葉を無視して武器屋を出た。



 ○○○



 武器屋を出るとちょうどタイミング良く一人の男性警官が走っていた。私は冒険者のカードを見せながら聞く。


「ねぇちょっと、朝からあった事件何か知らない?」

「……! え、あ、あぁー、そういえば北西の方に同僚たちが集まっていったよ。ま、まだ詳しいことはわからないけど……」

「北西ね、ありがとう」


 北西といえば商店街の方ね。あそこの路地裏って暗いし意外と人が通らないから結構犯罪が起こるのよね。

 倉庫の方にはほとんど人が行かないし。

 それにしても今の警官、ちょっと緊張し過ぎよ。私に声をかけられたのがそんなに怖いのかしら?


 この時、この警官の異変に気づくべきだったのだ。でも、あいつのことでイライラしていた私は、それに気づくことができなかった。

 そのことが後に、町に大惨事を招くことになるとは、まさかこの時は思わなかった。



 ○○○



 商店街に来るとやはり何か騒ぎがあったのか住民たちが喋っていた。

 すると道の真ん中を一台の馬車が通る。警察馬車だ。

 檻に入れられ、晒し者にされているのはここ最近来た冒険者だった。どうやら本人は気絶しているようで起きる気配がない。

 いったい何の犯罪を犯したのか。それよりも、たぶんあれを倒したのは十中八九あいつだろう。


「アニキやっぱすげぇっすよ! 俺にもあれ、教えてください! こうパァンッって!」

「あはは、すぐにできるとは思えないけど。まあそのうちね」

「約束っすよ!」


 呑気に喋りながらこちらに歩いてくる二人組……のうちの一人、カルロ。


「あっ、カグヤの姉御! いやぁ惜しかったっすね! カグヤの姉御も俺と巡回していればアニキの奥義を見れたのに!」

「うるさいわね」


 奥義ってあれでしょ? 対人技の魔衝刈気。別に奥義でもなんでもないでしょ。大袈裟な。

 私でもやればできるし。……じゅ、十回に三回くらいは成功するし。


「仕事、もう終わったの?」

「え、ああ、うん……」


 くるくる。


「なんか姉御、顔赤くないっすか? 熱でもあるんじゃ」

「――魔衝刈気!」

「うぼぉぉっ! は、入った……」

「ちょ、カグヤ! ランツ、大丈夫か?」


 うるさいやつがおでこを触ろうとしてきたので鳩尾に拳を叩き込んでやった。技は成功しなかったようだけど。


「くくく。あ、姉御もまだまだってことっすね。でも俺は、姉御よりも早く、その奥義を……あ……うばぁ……」

「ランツ。お、おいランツ! しっかりしろ!」


 あらら気絶しちゃったわね。悪いことしたかしら?


「はぁ……午後からの修行は中止だな。休ませた方がいい。ちょっと家まで送ってくるよ」


 ああ、そういえばこいつの家、商店街にある八百屋だったわね。

 ランツを置いたカルロは一人で戻ってきた。戻ってきたが、手には大量のリンゴが入った袋を二つ持っていた。


「参ったよ。差し入れもらっちゃったんだけど、僕ん家でこんなに食べれないから……カグヤ、手伝ってくれる?」

「まあ、それくらいなら……。というか孤児院のガキンチョ共にやりなさいよ」

「それもそっか……」


 と、流れるような動作でカルロのやつは私のおでこに手を当てた。

 な、な、な……!


「なにするのよっ!」

「あいや、さっきランツの言ってたことが気になって……熱はないみたいだからよかったよ」

「ね、熱があってもあんたに関係ないでしょっ!」


 あー、私のバカ。なんでこんなこと言っちゃうかなぁ……。


「そっか。じゃあこれ、僕はアイテムボックスにしまえるから」


 そう言ってリンゴの袋を一つ渡してくるが……多っ!

 え〜、これ全部私が食べるの? 確かに私はよく食べる方だと思うけど……これは私も孤児院に寄付ね。


 はぁ……。


 心の中でため息をつくと、ドノムさんに言われた言葉が蘇ってくる。

 やりたいことをやりたい時にか……。


「ねぇ」

「ん?」

「お昼、まだでしょ? どこかで一緒に食べない?」


 断られたらどうしよう……。という心配は杞憂に終わった。


「いいね。どこにしようか? どこかおすすめある?」

「ちょっと行ったところにオムライスが美味しいお店があるわ」

「じゃあそこにしようか」


 了承の返事をしたカルロに、私はリンゴの袋を渡す。


「じゃこれ持って。邪魔になるから」

「ああ、はいはい。帰りに渡すね」


 カルロのアイテムボックスにリンゴの入った袋をしまわせる。

 このまま忘れたフリをして受け取るのを辞めてしまおうか? こいつなら孤児院に……いや、律儀に届けにくるかも。

 アイテムボックスって時間経過しないって言うし……。便利なヤツだけど、こういう性格は少し面倒だ。


 はぁ……。


 先ほどとは別の意味でため息をついた私は、カルロと二人、並んで歩きながらオムライスの美味しいお店へと向かった。



お読みいただきありがとうございます。

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