Cランク冒険者の昼
カルロ。茶髪の青年。様々な魔法、戦闘技術があるCランク冒険者。
ドノム。武器屋のドワーフ店主。元冒険者で引退後に武器屋を営む。
ランツ。紫髪リーゼントの元不良。
「おはようございます。ドノムさん、注文してたやつ、できましたか?」
「おおカルロ。はは、心配しなくてもちゃんとできてるぜ」
武器屋の主人ドノムさん。
元冒険者で引退した今は武器屋を営んでいる。ドノムさんはドワーフなので鍛治の技術も良く、冒険者からの信頼も厚い。
朝からひょうたんを片手持っている酒好きの豪快な人だ。
「ほらよ。ミスリル製のガントレットとロープだ」
「わぁ、ありがとうございます! じゃあ代金を……」
「ああ、いぃいぃ。その代わり、珍しい素材が入ったらまた頼む」
「わかりました。じゃあこれ、お酒とおつまみの干し肉です」
「おう! 悪りぃな!」
ドノムさんは笑顔で受け取った。
「なにが悪りぃよ。それが一番楽しみなくせに……」
と、奥からドノムさんの奥さんが登場し、ツッコミを入れていた。
ちなみに奥さんは人族だ。町でも美人と言われていて、ドノムさんの髭の具合も相まって、まるで美女と野獣だと言われている。
奥さんはそれだけ言うとまた奥に行ってしまった。主婦は忙しいらしい。
「たくよぉ。あいつは最近当たりがきつくなってきたぜ」
それって僕が原因でもあるんじゃ……。
お酒とおつまみの差し入れ、控えた方がいいかな?
「んじゃ、武器の性能試していくか?」
「ああ、お願いします」
僕とドノムさんは武器屋を出て、庭(武器の慣らしをする場所)に行く。
武器屋で買った人はここで少し慣らし、何か異変があれば調整を依頼する。(内容によっては料金がかかる)
ミスリル製のガントレットを装備した僕は、正拳突きやアッパーなど一連の動作をする。
うん、いい感じだ。それにミスリルの利点は他にもある。
魔力を集中させるとミスリルのガントレットに炎が纏う。
魔力の伝導率が高いミスリルは、魔法を付与することができるのだ。
そのまま炎を纏わせてシュッ、シュッ、とスパーリングをする。こちらもいい感じだ。
では本番。
土魔法でゴーレムを作り出し、暴れろと命令する。これで近くにあるものから……つまり目の前にいる僕に攻撃をしてくる。
操れることもできるが、今回は練習の相手が必要なので、暴走状態にした。
ゴーレムの攻撃を躱し、懐に素早く潜り込んだあと、炎の拳で腹を撃つ。うん、やはり悪くない。
さすがドノムさんだ。
今度はミスリル製のロープを試す。
また新たに作り出した暴走状態のゴーレムにロープを巻き付け、雷の魔法を使う。
前にロープで縛っていた悪人が切って逃げ出したことがあるので、これで雷の魔法で痺れてもらおうと考えたのだが……ゴーレムではわからないな。
まぁ機会があれば使うことにしよう。
庭を整地してドノムさんにお礼を言う。一時間はここにいただろうか。
「ありがとうございます」
「もういいのか?」
「はい」
「じゃあ茶でも飲んでいけよ。どうせ今日は暇なんだろ?」
「あはは、じゃあお言葉に甘えて……」
午後からはランツの修行があるけどね。
「おう。じゃあ女房に言って茶菓子を……ん? あれは……」
「えっ?」
ドノムさんが何かに気づき、顔を顰めていた。僕も振り向いて見ると、赤く細い煙が町中から上がっているように見える。
あれは……緊急信号の発煙。巡回中の警察か依頼を受けた冒険者が戦闘を開始したのか。
……待てよ? あの方角は……。
「すみませんドノムさん。僕、行って様子を見てきます。あの方角、ランツのジョギングコースなんです!」
「お、おう、頑張れよ!」
地面を蹴って屋根に飛び移り、屋根伝いに目的地を目指す。
そこは路地裏だった。既に二人の警官が到着していて、発煙筒と買い物のバスケットが転がっていた。中身も半分が溢れている。
それにまだ新しい血の跡があった。飛び散り方からして剣での斬撃だ。
僕はその様子を上から見ていて、思考を巡らす。
買い物途中の住民が犯罪に巻き込まれ、偶然にも見つけた誰かが発煙筒を使用後、戦闘を開始した。
そのまま救援を待つつもりだったが、住民を守りながら闘うことが困難と判断し、一緒に逃げた?
犯行は数人? もしくは手練れか駆けつけたやつが未熟だったか……。
どれにせよ、そう遠くへは行けないはず。
やることは一つだ。
僕は屋根の平らな部分に、チョークで魔法陣を描く。
「【精霊よ、顕現せよ。我が求めるは風】」
光った魔法陣から出てきたのは茶色い犬の精霊だ。
召喚魔法。
契約した異界に住む精霊を呼び出す魔法だ。
精霊は人型から動物まで様々だ。
今回僕が呼び出したのは契約した一体で、犬の姿をした風の精霊だ。
名前はシバ。
階級はそんなに高くないので戦闘力はあまりないが、こいつは探知に優れている。
僕はシバと一緒に屋根から飛び降りた。上から降ってきた僕たちに警官が驚いたが、血の臭いをシバに嗅がせる。
「臭いを辿ることはできるかい?」
「わんっ!」
「そうか。じゃあ案内よろしくね!」
任せろと最後に吠え、僕は疾走するシバの後を追う。警官も数人ついてきているが、距離はすぐに空いてしまった。
ちゃんと追跡ができるように光魔法で僕の足跡を残し、僕はさらにスピードを上げる。
どうか間に合え!
○○○
そこは倉庫が並ぶ町の一画。
建物と建物の隙間から反対側の道を一人で走る女性を見つけ、急いで屋根に飛び移り反対側の道、女性の前に降り立つ。
「きゃあっ!?」
「すみません、ここら辺で……あ、あれ? レッドのお母さん?」
その女性はヤンチャ坊主レッドの母親だった。
「カ、カルロ君? はぁよかった。あっ、じゃない! カルロ君助けて! リーゼント頭の子が向こうで闘ってるの!」
「えぇっ!?」
リーゼント頭って……ランツ!!
「ありがとうございます! それが聞きたかったんです! すぐに警察もここに来ます!」
そこから五分ほど奥に進むと、男の野太い雄叫びや、石や木材を破壊する音が聞こえてくる。
サイズの大きい武器を持っているようだ。そして……
『ア゛ァ゛! 出てこいコラァァァッ! まだ終わってネェゾォォ!!』
怒り狂う男の声が反響して聞こえてきた。
この反響具合……倉庫の中だ!
「わんっ!!」
「そこか!」
出入り口のドアは無事だ。いったいどこから……。
そうしている間にも破壊音が聞こえてくる。見つかってしまったか?
ん? あれは……。
側面の壁が壊され穴が空いている。
ランツのやつ、どんな馬鹿力の相手と闘っているんだ?
僕はその穴から中に入った。
埃の舞う倉庫内には、膝をつくランツと大剣を掲げる大男。
大男の左腕にはショートソードで切られた傷がある。現場にあった血はあの大男のもののようだ。おそらくランツが付けたのだろう。
「お、お前なんか、アニキが来たら、一撃で、終わりだ……」
激しく息を切らせながら強気に、でもどこか弱く震える声を振り絞ってランツが言う。
よかった。本当によかった。死人が出る前に……
ランツに向かって片手で振り下ろされる大剣。僕はそれを、片手で受け止めた。
――止められて。
「ア、アニキぃぃぃぃぃっ!!!」
「よく頑張ったね、ランツ」
「な、なんだテメェ! ぐ、こ、こいつ、モヤシのくせになんて力を……」
大剣を取り戻そうと力を入れる大男。僕は親切にそのまま手を離してやる。
「うおぉぉっ!」
ステーンッ!!
後ろにひっくり返った大男は、起き上がると僕を睨みつけてきた。変顔コンテストでは優勝できそうだ。
「テンメこのヤロォォォォォッ!!」
我を忘れて両手で大剣を振り下ろしてきた。冷静さを忘れているようだ。
ふぅ……まったく、弟子の期待には応えてやらないとな。
「キィィィアアアアアアッ!!!」
「一点集中……」
対人技、魔衝刈気!!
ぐらっ……。と、大男は意識を失くし、僕の方に倒れてくる。地面にガランと大剣が虚しく落ちた。
対人技【魔衝刈気】は、魔力の衝撃波を相手の鳩尾にぶつけ、意識を刈り取る技だ。
これの利点は防御不可、さらに相手を傷つけることなく捕獲することができるところだ。
デメリットは魔物や幽体に効かないことと、結構な魔力を消耗するため僕の魔力では一日二回くらいが限界なところか。
「ア、アニキぃぃぃぃ! さすがですぅぅぅぅ! うわあぁぁぁぁぁ!」
おいおい、これくらいで泣くなよ……。
おっ、警察の人たちも来たな。僕が入ってきた穴から十人くらいが入ってきた。
ランツとレッドのお母さんによると、あの大男はレッドのお母さんを強姦しようとしてたらしい。
巡回で通りかかったランツがたまたまその現場を発見し、止めに入ったそうだ。
大事にならなくてよかったよ。まぁなにはともあれ、これで一件落着かな。
お読みいただきありがとうございます。