Cランク冒険者の朝
キャラ紹介。
カルロ。主人公。茶髪の青年。身長170センチ。
カグヤ。黒髪ポニーテールの侍美少女。身長160センチ。
ランツ。紫髪リーゼントの元不良。カルロの子分(弟子)。身長180センチ。
僕はカルロ。
Cランクの冒険者だ。
冒険者にしては小柄な体格をしているため、よく冒険者に見えないと言われる。
が、これでもちゃんと人は殺せるぞ。
そうじゃないと守りたいものを守れないから。
「あっ、カルロの兄ちゃんだぁー! おはよう!」
「ようカルロ! ま〜たゴミ拾いかよ」
「カルロさん、おはようございます!」
僕が冒険者になってから毎日のようにやっているのは、朝一番に町のゴミを拾うことだ。
実はこれ、冒険者ギルドに常駐している依頼で、僕はEランクだった初心者の頃から受けている。
本当は怪我をして冒険者として復帰できない者や、武器の整備で冒険に行かない者が主に受けるのだが、別に誰が受けてもいい。
ボランティア活動が好きというのもあるが、町が綺麗だと気持ちがいいから僕は受けている。
今日もトングと小さいゴミ箱を持っている僕に、登校中の子供たちが挨拶をしてくれた。
頬に絆創膏を貼っている活発な女の子のイルマ。
生意気なヤンチャ坊主のレッド。
眼鏡をかけた礼儀正しい女の子のサーシャ。
ランドセルを背負った三人は、朝から元気に走って学校に向かっていた。
「おはようみんな。レッド、挨拶は大事だって言ってるだろ? 今日もいただきますって言わなかったんだから、おはようの挨拶くらいしろ」
「げっ……な、なんで知ってんだよっ!?」
「ばーか、カマかけられてんのよ」
イルマがニヤニヤとレッドを見ている。
気づいたレッドはうがーっと真っ赤な髪を掻き毟った。やっぱり言ってなかったか。
「で、でも、あれは母ちゃんが朝から説教するからで……」
「あ〜、それでレッド君の家から怒鳴り声が聞こえてたんですね」
「ほんと今日は何したのさぁ〜」
三人は同じアパートに住んでいるらしく、レッドの叱られる声は結構な頻度で聞くそうだ。
問い詰めるような二人の言葉に、レッドがうるせぇと返した。詳細を語る気はないようだ。
「みんな、気をつけて行くんだよ。イルマ、転ばないようにね」
「えっ、アタシぃっ!? レッドじゃなくてアタシぃっ!?」
「けっ、ざまぁ……」
「むっ……!」
「……二人とも、辞めなさい」
「「お、おう……」」
やいやいやい! と、軽い取っ組み合いを始めた二人を、氷点下の声でサーシャが止めに入った。うぉぉ、怖っ……。
叱られた二人は肩を組んで仲良しアピールをしだした。
「俺たち親友!」「私たち親友!」と踊っている。
この三人は、見ていて飽きないなぁ。
「じゃあねみんな。改めて行ってらっしゃい。また放課後にね」
「「「はーい、行ってきまーす!」」」
三人は仲良く一斉に駆けて行った。放課後には下校中の子供たちの安全確認があるのだ。巡回とも言える。
これも常駐依頼。
主に受けるのは……ここはもういいか。
ちなみに、誘拐や事故など、何か事が起これば早急に警察に知らせるのが役割だ。
非常時の赤い煙が出る発煙筒も持たされるので、仮に犯罪者と交戦になってもすぐに応援が駆けつけることになっている。
「――まったく、まーたこんな依頼を受けて」
「ん? やあ、おはようカグヤ。君もゴミ拾い?」
ふと背後から声をかけられ、振り向くとそこには同じCランクの冒険者、カグヤがいた。
カグヤは東方の国出身の侍だ。長い黒髪を一つに縛り、邪魔にならないようにしている。
服装は袴と呼ばれる柄の綺麗な布。腰に差した刀から放たれる居合という攻撃は、斬撃の衝撃波を飛ばせるほど速い。
カグヤとは一年前にこの町で知り合い、冒険者の同期だ。
「貴方って暇人よね?」
「朝から酷いなぁ。生まれ育った町だから、大切にしたいんだよ」
という僕に対し、なにが気に入らないのかカグヤは僕を睨んだままだ。
「はぁ……そんなだから子供たちになめられるのよ? それとも貴方、小さい子が好きなの? 活発な子? それとも眼鏡の子? 返答しだいではその腐った性根をここで断ち切ってあげるわよ?」
「ちょっと……」
僕は降参と手を挙げる。
どうどう、ここで刀を抜こうとしない。先ずは落ち着こう、な?
僕の願いが通じたのか、カグヤは刀から手を離してくれる。ふぅー。
「……この町の冒険者は冒険者らしくない」
そして、少し寂しそうな瞳を僕に向けてきた。そこには悲哀もこもっているようにも見える。
「……ん?」
僕は首を傾げる。はて、なんのことやら。
「昨日、この町に来た冒険者たちが言っていた言葉よ。どの町でもゴミ拾いや子供たちの警護なんてやる冒険者はいないわ。引退して暇な人くらいよ。Eランクでもお金に困った時しかやらないのに……」
カグヤの目は何かを願っているような感じだ。
そういえば昨日、全部の仕事が終わってギルドに行った時、僕のことを大声で騒いでいた(貶していた)人たちがいたなぁ。
まあ冒険者はほとんどが荒くれ者だからね。弱い者のお守りなんてごめんだし、町が汚くても誰かがやってくれると思っているのだろう。
基本的に自分が上じゃなきゃ納得しないって性格の人もいるしなぁ。まぁだから冒険者になって威張っているんだと思うけど……。
「そう。平和でいいじゃない」
「貴方ねぇ……。その原因の一端が貴方にあるんだけど。というか貴方のことなんだけど! 悔しくないの!?」
「全然っ」
「わ軽っ! 軽っ! って、だから他所者に馬鹿にされるのよ!」
他所者って……この町の人たちからすればカグヤも他所者だろうに。
それに僕、ちゃんと冒険もしてるし。昨日もゴミ拾いの後に、近くの森で水熊の討伐したし。
ギルドへの報告は子供たちの下校を見守ってからだから遅くなっちゃうけど、アイテムボックスに入れてたから素材の劣化はないし。
買取も傷がほとんどないから引かれることもなかったんだよね。おかけで数時間動いていただけで十万G儲かったし。
というわけで……
「やっぱり全然悔しくないかな」
「あっそ! あっそっ!! ふんっ!!」
ありゃりゃ、拗ねちゃった。
「――アニキィィィィッ!!!」
と、朝から大声で全力ダッシュでこちらに来て、急ブレーキをかけて砂埃を巻き上げるのは、一月前に冒険者になったばかりのランツだ。
もちろんランクは初心者のE。
「お、カグヤの姉御も一緒すかっ! まさかデートォォッ!?」
「朝から煩いわね。その頭ちょん切るわよ?」
「ちょ、や、やめてくださいよ。これは俺のアイゼンティティなんですから」
……アイデンティティね。
ランツは自慢のリーゼントを守るように手で押さえる。
僕よりも背が高いのだが、とある事件の後から僕のことをアニキと、カグヤのことを姉御と呼んで慕っている。
ついこの間まで素行の悪い不良グループのリーダーだったのだが、僕のようになりたいと言って一ヶ月前の成人になった日に、ギルドに登録して冒険者になった。
元々喧嘩上等なヤツだったので、素質はある。だから気にかけてやっているのだ。
「騒がしくなったから私は帰るわ。じゃあね」
「おつかれ様っす!」
ビシッとカグヤに向けて九十度のお辞儀をするランツ。邪険にされているということは理解しているのだろうか?
まあ悪い奴ではないのでカグヤも本気で嫌っているわけではないが。
「アニキ、西側のゴミ拾い終わりました!」
ニカッ! と、笑顔を向けてくる。歯の抜けた部分が気になるが、もう慣れた。
「じゃあゴミ拾いはもう終わりだね」
「うっす! 今日は修行、付けてくれるんですよね!?」
昨日稼いだので、今日は仕事を休みにしたのだ。休みの日は修行を付けてくれと言われたので、将来を期待してランツを鍛えている。
「うん。その前に武器屋に行く用があるから、修行は午後からね」
「わかりました! 俺、それまでは走ってます!」
「うん。あっ、それなら町の巡回の依頼も受けておくと良いよ。一時間で三百G儲かるから」
「――はっ! さ、さすがアニキ、修行と依頼を同時にやるなんて……俺、すぐにギルドで申請してきます!」
うおおおおおっ!
という雄叫びを上げてランツは去っていった。
ちなみに、この依頼を受注し、サボるという暴挙に出た冒険者がいたのだが、後に不正が発覚し、禁固刑となっている。
話が逸れたけど、この巡回は結構大事なのだ。警察もやっているが、やはり見えない部分も出てくる。
そこで犯罪行為がされるわけで……僕もその巡回依頼で何回か儲けさせてもらった。
捕まえた犯罪者の中に賞金首とかいたしね。
さて、僕も拾ったゴミを片付けて、武器屋に行こう。
最後に、新しくこの町に来た冒険者が鼻唄を唄いながらポイ捨てしたゴミを拾い、僕は一日をスタートさせた。
お読みいただきありがとうございます。