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それからはお互い多忙の日々だった。
僕はバイトに、久々のライブに向けて新曲の制作に取り掛かったりと常に何かに追われていた。
諸々の事情で元々ライブの本数を絞っているため、一本一本がどれだけ大事かは、メンバー一人一人よく分かっているはずだ。だから、その少ない機会で新しいことを試し、これからの活動の小さな指針としている。
バンドではギターボーカル、それに加えて作詞作曲も担当している。次のスタジオまでには形にしておきたいと、毎朝早起きをし、毎晩時間が許す限りギターを握って、浮かんだメロディにコードを乗せて、言葉の並びや意味を考えたりしていた。
彼女は試験前ということで学業、バイトと更に忙しそうで、連絡頻度は減っていた。
それでも一日一回、お互いを労うようにメッセージを交わした。
「今日もお疲れ様です。またご飯に行きましょうね。」と。
それから二週間くらい経った頃だろうか、日が短くなって来たと感じる季節になって来た。夕方なのに夜だと勘違いしてしまいそうな時間帯に彼女から連絡があったらしい。
その日は新曲の制作のため、メンバーと朝から深夜までスタジオに籠もりっぱなしだった。精神的に少し追い詰められて来た頃に挟んだ休憩に通知で気づき、開いてみた。
「やっと今日で試験が終わりました。近々時間に余裕が出来そうなので、お誘いしてもいいですか?」
「いいですよ、待ってます。」
彼女にまた会えるんだという嬉しさについ表情が綻んでしまい、メンバーに女か?と聞かれる始末だった。
一週間後の土曜日に彼女と会うことになり、僕はそれまでの毎日、嬉しすぎて気が気でなかった。
「明日、下北沢の駅前でもいいですか?」
「はい、大丈夫です。楽しみにしてますね。」
僕は下北沢を拠点に活動しているので、よく下北沢に足を運んでいる。
彼女はバンドが好きで、よく下北沢のライブを見に行っているらしい。
そんな二人にはとても心地が良い場所である。
先日の飲み会以来ずっと放置していたTwitterで「明日はとても楽しみだから、早く寝よう。」と呟いて、早めに寝た。
当日は以前彼女を待たせてしまった罪悪感もあり、早めに駅前に到着した。
土曜日ということで周囲は同い年くらいの若者が沢山溢れかえっており、誰かを待っている人が沢山いた。
彼女も到着したとのことで、先ほど連絡があったが、なかなか見つけられずにいた。
そこで今更ながら、連絡先を交換していないことについて改めて実感し、後でLINEのアカウントを聞こうと決心した。
「どこにいますか?」
「僕は、駅前のスロープの前にいます。」
「えっ、どれだろ・・・。すごく沢山人が居て、なかなか見つからないです。」
「服装は上下黒で、丸い眼鏡をかけています。」
「ありがとうございます・・・、頑張って探してみます!」
そう返信があってから、彼女が僕の目の前を通ったから、咄嗟いに手を掴んでしまった。
「あのっ、僕はここです。」
彼女は驚いた表情で、こちらに振り向いた。
「あ!章弘さん。よかった、お待たせしてすみません・・・。」
そう告げた後、僕に掴まれている手に気づき、照れた表情で俯いた。
僕はそれに気づいていないフリをして、「どこか行きたい場所はありますか?」と尋ねた。
「私、古本屋さんに行った後にカフェに行きたいです!」
本屋が好きなのは以前アプリでも話していたので、快く同意した。
内心ドキドキしながら、手を繋いだままヴィレッジヴァンガードの前通りすぎ、北沢ホールタウンの前に古本屋にたどり着いた。
店内は狭く二人で並んで入ることはできないので、仕方なく手を離してゆっくり時間をかけて本棚を眺めた。
目当ての本は見つからずその後、三軒ほど古本屋を巡り、カフェに到着した。