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「遅くなってすみません。今、駅前の本屋にいるんですけど、どこにいますか?」と送った。

「えっ、もう着いちゃったんですか!思ったより早かったです。今は三階の小説のフロアにいますよ。」と思っていたよりもすぐに返信がきたので、恐らく本が欲しいというのは彼女なりの気遣いだったかもしれないなと改めて心の中で申し訳ない気持ちになった。

「分かりました。」と返信し、三階へ向かった。

彼女のいう通り、その小説の筋で、スマホを眺めている女の子を見つけた。

少し話しかけるのをためらいつつも、念のため、メッセージで確認した。

「今、着きました。もしかして、茶髪のショートカットですか?」

「わざわざ来てくださってありがとうございます。そうです、着てます!」

そのメッセージを確認後、できるだけ怪しくならないように気をつけながら彼女に声をかけた。

「すみません。あの・・・、もしかしてユキさんですか?」

「そうです!もしかしてハルさんですか!はじめまして〜。」

周囲の若者からすると、いかにも出会い系アプリで出会ったような男女が交わす会話だなと思われていたことだろう。


「初めまして、アキです。欲しい本変えましたか?」

「うーん、悩んでいるんですけど、また来た時に買おうかなって思っているので、大丈夫です。それよりお腹空きました?」

僕は飲み会終わりで向かって来たから、少し腹に溜まっているものの、まだまだ食べれそうではあったし、きっと彼女はご飯を食べずに此処に来ているだろうから、少しだけ嘘を交えて伝えた。

「そうですね。お腹空いているので、どこか入りましょうか。」

「よかった!私、行きたい場所があるので、そこでいいですか?」という彼女の言葉を受けてから、目的地まで歩くことになった。


彼女は初対面の人にも臆せず話せる、とてもフレンドリーな性格で、お店までずっと軽やかに会話をした。

年齢や身分などについては既にアプリで聞いていたので、出身地、バイト、学生生活などの在り来たりな話ばかりしていたが、不思議と苦痛ではなかった。


僕のことを知ろうと沢山質問してくれる彼女に対して、喜びを覚えてしまったのは、仕方のないことだろう。

写真でなんとなくの雰囲気を知っていたとは言え、実際に会ってみたら僕の好みであり、そんな彼女に関心を持ってもらえるなんて喜ばずにいられるだろうか。


彼女はお店に着くまでの間、スマホを片手にあっちでもない、こっちでもないと道を彷徨っていた。機械音痴なのか、それとも方向音痴なのか。どちらにしろその姿は、彼女をより一層可愛く見せた。

なかなか目的地に着きそうになかったので、それまで彼女任せで横に並んで歩いていた僕もさすがに気になり、彼女のスマホが表示しているマップを覗きながら聞いた。

「行きたいお店って、どこですか?」

「この、夜でも定食が食べられるビルの二階にあるお店なんですけど・・・。」

「あ〜、僕ここ行ったことあるので、道分かりますよ。」

「えっ、本当ですか!最初から聞いておけばよかったですね・・・。じゃあ、お店まで案内してもらってもいいでしょうか?」

そう言いながら彼女はお願いするポーズをしてきた。僕はグッと親指を立てて、任せないという表情をした。


それから彼女に会ってから気になっていたことを聞いてみることにした。

「あの、お会いした時からずっとお聞きしたいことがあったんですが・・・。」

彼女は不思議そうな表情を僕に向けた。

「そのTシャツって、クレナズムの2020年の冬にあったIn your fragranceで発売されていたものですよね?」とバンドのTwitterや実際ライブに足を運び物販でグッズを見ている人にしかわからないマニアックな質問をした。

「え・・・、もしかしてご存知なんですか!?きのこ帝国お好きだって言ってたので、もしかしてと思ってたんですが、やっぱりそうですよね!すごく嬉しいです!私、二年前からずっと好きで、冬のツアーも行ったんです。青を見るって曲をYouTubeで初めて聞いて、すごく好みで。轟音?シューゲイザー ?っていうんですかね。歌詞が本当に綺麗で、切なくて、心がギュッとする感じとか。なんだろう・・・、綺麗なのに儚くて、尊いのに、ちゃんと人の心情に寄り添ってくれるというか。なんというか、本当に大好きなんです。花弁って曲が一番好きで。最初かべんだと思ってて、メンバーさんと物販でお話した時、はなびらって読むって聞いて恥ずかしくなっちゃいまいした・・・!」と畳み掛けるように、話した後、

「ごめんなさい!私、好きなものの話になっちゃうと、沢山話しちゃってよく引かれるんです・・・。」と申し訳なさそうにしていた。だけど、それで彼女との距離はとても近くなった気がした。

「全然気にしないでください。僕もそのバンド好きで、実はそのツアー東京行ってたんですよ。だからびっくりしました。」

そう返すと、彼女はこれ以上にないほど嬉しさが溢れるほどの表情をしていたのを今でも覚えている。

「じゃあ、私たちあの時同じ空間に居たんですね。そう考えると、そこで出会ってた人とこうしてまたお会いできてるのってなんだか感慨深いものがありますね・・・!」


お互いの存在をより身近に存在を感じられるようになった頃、目的のお店に到着した。

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