11
あっという間に時間が過ぎ、僕が作ってきた曲は3曲ほど仕上がり、後は何回かスタジオで合わせればライブで披露出来る完成度まで上げられるだろう。
受付でお金を払い、メンバーみんな住んでいる方向や帰宅方法が違うため、各々の帰路につくことになった。
去り際に二人が僕の肩を叩き、あんまり考えすぎんなよと言った。
帰り道、コンビニに寄り番号がうろ覚えの煙草を買った。
目があまり良くないので、何度も店員に取り直してもらい少し申し訳なさを感じたが、今の僕にはこれが手元にないと落ち着かない状態になっていた。
一日中放置していたスマホには彼女からの連絡が入っていた。時間は昨日の深夜。
「今日はありがとう!また機会があったら、一緒にどこか行こうね。
あ、今度好きなお笑い芸人の単独公演があるらしいから、よかったらどうかな?」
いつもならどの人からの連絡も二十四時間以内には返信するように心掛けているが、流石に今はそんな気分じゃなかった。
一日時間が経過し、メンバーにも声をかけてもらい、昨日よりは心が落ち着いたし、いっぱいいっぱいだった頭も少しは楽になった。
だけど、まだ彼女を真正面から向き合う元気はなく、未読のままスマホの画面を閉じた。
それから二日、三日、気づけば一週間も経過していた。
彼女とアプリで知り合い、LINEを交換してから何かしら毎日やり取りを欠かさずに行っていて、こんなに期間が空いてしまったのは初めてかもしれない。
それに心配したのか、彼女からは「忙しいと思うけど、体には気をつけてね。」というメッセージが一日前に入っていることを確認した。
「ありがとう。ごめんね。」と返信すればいいだけの話であるが、どうしてもそれができなかった。ごめんねと言ってしまうと別の意味で僕は彼女のことを見放してしまうことを許して欲しいと言ってしまったように感じるからだ。
何も言えずそれからまた、時は経過した。
一ヶ月ぶりのライブの日になった。相変わらずお客さんはいっぱいとは言えないが、平日の夜にしては、入った方だと思う。僕らの出番は有り難いことに一番最後、所謂トリだ。バンドの集客力、規模などによって順番が決められているが、一番最後ということはそれなりにライブハウスから期待されているということが伺えて、出演する身からすると正直気分が良い。
あっという間に僕らの出番を迎え、先日出来上がった新曲を含め六曲演奏したが、お客さんの反応もよく、物販の音源も少し売れた。終演の時間が迫り、メンバー二人に物販の片付けを頼み、僕はライブハウスに迷惑がかからないように外へ出て、ファンサービスというほど大袈裟なものではないが、世間話や知り合いのバンドについてお客さんと話していた。
その頃、物販に彼女が「章弘くんいますか?」と尋ねてきた。
メンバーが外を指差し、あそこにいるよと言うと、礼を告げ、その脇を通って帰った。というのはなかなか帰らないお客さんが去った後、メンバーから聞いた話だった。
これで確信へ変わった。彼女は僕のバンドのライブを見たことがある。知っていた。
機材を搬出する為に順番を待っている時、ようやくスマホを確認出来て、やっぱり彼女から連絡が入っていた。
「今日、章弘さんがいるバンドのライブを見て、直接感想を伝えたかったけど、忙しそだったから、また今度伝えるね。お疲れ様。」と。
僕は居ても立っても居られず、メンバーに先に帰っていいかと聞くと、雰囲気を察していたのか、快く送り出してくれた。
まだ下北にいるかどうかも分からないのに、会いたい、会うべきだと思った。
走りながらメッセージを打つのが煩わしくなり、電話に切り替えた。コール音が鳴り響いている時、これが実は初めてのLINE電話だったことに気づき、少しだけ緊張した。
何回目かのコールで、彼女は電話に出た。
「・・・はい。」
「まだ、下北におる?帰っとらん?」
「今から改札通ろうと思ってたところだけど、どうしたの?」
「今すぐ会って話したいこと、聞きたいことあるけん、もう一回ライブハウスの方に向かって歩いてきてや。」
「うん、わかった。じゃあそっちに向かうね。
・・・あのさ、章弘さんって焦ってる時、方言出ちゃうの?」と電話越しに愛おしそうに笑う彼女の声が聞こえた。
「そうかもしれん・・・。」
「そっか、じゃあまた後でね。」
「うん、ごめん。帰ろうとしとるときに。」
「大丈夫だよ。」
そこで電話を切った。




