9、家族になる方法
鼻腔をくすぐる匂いに目を開け
ぎゅるるるぅ〜〜!
今までで1番盛大に鳴ったお腹をさする。
『マオ!起きたのか!』
どうやらキューちゃんがついていてくれたようだ。
「キューちゃん•••お腹空いた•••。」
何故か起き上がる事が出来ず寝たままキューちゃんをナデナデして記憶を遡るも、お肉を食べたところで途切れていた。
そしてこの我慢に耐えれない匂い•••
倒れた事やこの場所よりも、匂いが気になって仕方がない!
「あっ、マオちゃん起きたんだね。いきなり倒れたから驚いたよ。」
お盆を片手に現れたおじさんが言うには、おじさんと今後の事に対して話している最中に突然倒れたそうだ。縫い狸を抱いたまま。
驚いたおじさんは急いで医師に見せた所、疲れからくるものだろうとの事。
そこでおじさんは自身の家へ連れてきてくれたそうだ。
そりゃ疲れてたよね。
ストーカー君との愛の駆け引きにバーナードキューちゃんを負ぶっての下山。
挙句、追い付かない情報で頭はパンクしちゃったのかもしれない。
「ご迷惑お掛けしました。直ぐに出ますので、すみません•••。」
「いやいや、マオちゃん気付いてないかもだけど、熱があるからもう少し寝ていた方が良いよ。」
はて、熱とな?常に気を張っていたからそんなものとは無縁だった私が??
でも考えたら体が怠くて動かすのも億劫で••
ってこれ、筋 肉 痛では!?
「可哀想に、急激に体を酷使したからだろうって医者も言っていたよ。
それなのに、雇い主が消えたなんて••••!
もう大丈夫だよ。ここに居れば良い。」
おじさんのお心遣いと同情•••痛み入ります。
ダラダラと冷や汗をかきつつ、心の中で土下座をして謝罪した。
(おじさんすみません!ごめんなさい!!それは酷使したのでなく、単に運動不足です!!!)
結局、おじさんービーンさんーのお家で厚かましくも3日ほどお世話になりました。
その間の着替えや食事などビーン夫婦様々な手厚い看護を受けて至福な日々!
生まれて初めて"あーん"を経験。嬉し恥ずかしで顔が真っ赤になってまた熱発•••
本当お世話かけます•••トホリ。
ビーンさんは奥様と2人暮らしで2人とも見た目は40代前半に見える。お子様はいないそうだ。
ちなみに奥様の名前はスプラさん•••
2人合わせると日本語で"もやし"になる。
合わさる事で意味があるヘルシー夫婦。
スプラさんはビーンさんと真逆の色合いで、背中まで伸びている群青色の髪に茶色の瞳をした美人さん。
若かりしき頃はさぞモテただろうなぁ〜
やや自分の世界に耽ってこの養生期間の事を思い起こしていたところでビーンさんが真剣な目で話し始めた。
「なぁ、マオちゃん•••提案と言うかなんて言うか••••
マオちゃんさえ良ければ、この家の子にならないか?
ここ数日一緒にいただけだが、マオちゃんが自分達の子供のようでなぁ。
子供を持ったことがないけど、これが"愛しい"という気持ちなんだろう。
どうだろ?考えてはくれないか?」
こちらに来てから大抵の事には驚かない免疫がついていたが、これには流石に目と口をパカーンと開け固まってしまった。
子供?えと、家の子供??養子って事!?
「でででも、見ず知らずの人ですよ?
しかも右も左も分からない世間知らずだし••
そ、それに•••何も役に立たない••し•••。」
そう、役に立たないから•••私は1人になってしまったんだ。自分で言っていて泣けてきてしまった。
「良いんだよ。役に立とうなんて思わなくてもな。
高々23年しか生きていないのに世間を知っているはず、ないじゃないか。」
そう言って抱きしめてくれる腕の中が、あまりにも気持ちが良くて••••
ビーンさんの服を涙と鼻水で汚しながらも、甘えるように抱きついて泣いてしまった。
私は小さな孤児院で育った。産みの親の存在すらしらない。
孤児院の高齢な院長先生や職員の人は優しかったけど、やはり親の温もりや愛情が欲しかったのだと、ビーンさんの腕に抱かれ今やっと気づいた気がした。
泣きじゃくる子供の如く、わんわん泣いて気づいた時にはベッドで眠っていた。
次の日スプラさんが優しげな笑顔で挨拶と抱擁をしてくれて•••照れながらもそれに応え
「よろしくお願いします。」
そう伝えたら、2人共泣いて喜んでくれた。
胸がポカポカして•••お腹が減ったキューちゃんの前足攻撃など気にならなかった。
そして胡瓜•シラタキのローカロリーコンビから胡瓜•シラタキ•もやしのシラタキサラダ家族へと昇格した。
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