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Sad War ~戦わなくていいなら~  作者: もみじ【ワサビ味】
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序章 ~異世界への転生~

初めまして。もみじです。

初の小説投稿です。

機能も分からずに、1ページが文字だらけになってしまいました(´;ω;`)

少しずつ慣れていきますので、よろしくお願い致します。

 心配は要りません。


 貴女には私の加護……。

 女神の加護を付与しています。必ずや貴女を危険から守り、更には強大な力をも手に入れる事が出来るでしょう。

 だからお願いです。この国を、世界を平和に導いてください…。


 そう頭に囁きかける者が一体何者なのか。

 私はそれすらも確認することが億劫に感じた。

 今はこのまま、身を任せるだけでいい気がしていた。


 ――――――――――――――――――――

 ――――――――――――――――――――




 時代は、科学と文明を発達させ、人々の生活は便利と言う言葉の中に埋もれていた。


 俺もその中の1人であることに違いはない。

 目覚めたベッドの上で、文明の利器とも呼べる「スマホ」を覗き込む。よく分からない待ち受け画面上に散りばめられたアイコン達は、特に何かを告げるような表示はなかった。


 とにかく、このまま居る訳には行かないのでサッサと支度を済ませ家を出ないと。また、ギリギリの出社になってしまう。つい先日、出勤日数がギリギリだと上司に突っつかれたばかりだ。


 ベッドから降りると、身支度を整える為、クローゼットの前に立つ。そのまま姿見に映る自分を下から上まで確認した後、洗面所へと向かう。

 顔を洗い、歯を磨き、またいつもと変わらぬ日常の始まりにため息混じりで鏡へと視線をズラす。

 情けない面構(つらがま)えのそいつは、一瞬ムスッとした顔をした後に、タオルで口元を雑に拭うと、その場から姿を消した。

 クローゼットから、何時(いつ)もの仕事着(スーツ)を身にまとっていく。もはや、普段着と仕事着の区別なんて殆どないようなものだ。休日でも、スーツでいいとさえ思える。社会人になりたての時なら、スーツなんてものは晴れ着のイメージしか無かったのに…既に歳を重ねる毎にスーツに着られる側からスーツを着る側に、自然とシフトしていた。適応力なのかなんなのかは分からないが。人間とは不思議なものだ。

 そうこうしている内にチラリとスマホに目をやる。


 -08:12-


 ……ギリギリ。だな。

 そのまま、乱雑にスマホを手に取ると足早に革靴を踵を潰したまま履き、玄関を出る。一度鍵を締め忘れたのは内緒だ。


 外の空気を体内に取り入れる。

 身体のあらゆる機能が酸素を受け入れ始めて、活発に活動を始める。俺は歩く速さを上げる。さすがに時間がギリギリなだけあって、脳から足へと意識を伝える速さは素晴らしかった。

 こんな時でも、俺には少し気掛かりなことが一つだけあった。とりあえず、考えない様にしながらもふと気が付けばその事が過ぎっている事もある。

 俺は頭を何度か横に振り、出社への意識へと全神経を集中させる。


 どうにか、最寄り駅に到着した俺はいつも通り定期をかざしホームへと向かう。ホームには沢山の人が毎日ごった返している。この混雑にもだいぶ慣れては来たが、未だに人混みへの慣れは拭いきれない。この息が詰まるような感覚をどうしても受け入れきれない。

 そんな事を考えながらも現実は時が進ん でいく。目の前に目的地へと向かう電車が到着する。

 おしくらまんじゅうを少しでも回避すべく、身体を滑り込ませる。だが、後ろからの勢いが凄まじく車内中央まで押し込んでくる。いつも思うが、混雑時の人の力は物凄いものがある。入り口付近では、もう無理だと思っても後から押し寄せる人の波にグイグイ押し込まれるからだ。

 とはいえ、無事に乗り込めた事もあり、そのまま手摺(てすり)を両手で掴み痴漢対策もばっちりだ。

 そんなこんなで、無事に目的地の駅へ到着する。

 人を掻き分けながら、降車し改札へと向かう。周りも同じように時間が流れているようだ。改札をスムーズに抜けれたのは好都合だった。左手の時計に目を向ける。


 -08:49-


 あと少し。朝礼開始まで後10分程。次第に頭の中に焦りが出始める。

 俺はいつもとは別のルートを使い会社に向かう事にした。いつも通りでも、恐らく間に合いはするんだろうが、何故か別ルートを通る事に身体が強く反応していた。


 駅の出口から出た後に、いつもなら左に曲がる所を反対に向かう。こちら側は左側と違い大通りを避ける様に、線路沿いに細い小道が造られている。その先に、線路を(くぐ)るようにして、人が通れる程の小さなトンネルの様な道が造られていて、大通りに出ずとも反対側の道に出られるのだ。やはり、小道なだけあって、人が少ない分障害物がなく早い。

 俺は夢中で歩いていた。

 だからなんだろう…見落としていた。いや、単に気付いていなかっただけかも知れない。小道のトンネル入り口に通行禁止の看板と張り紙があったことを…

 細道から、トンネルの中に歩を進めて、次第に視界を暗く染める道を真っ直ぐ前にある光に向けて凝らしながら、歩いて行く。

 もうすぐ会社に辿り着く…

 そのハズだった……

 人間は体重が存在し、その重みを地球の重力に従い感じ取っている。歩けば体重を掛けている脚に重みを感じるはずだ。それは体重だけではない。身体の中にあるものもそう。


 ……が。何かが違う。

 絶叫マシンに乗った時の内臓が持ち上がる感覚。分かるだろうか。俺は地に足を付け歩いていたはずなのだ。


 なのに……

 前方に捉えていた光すらも消えた。

 視界は真っ暗闇……


 ……俺は今、落ちてる?

 いや、落ちている。この狭い細道のトンネルに空いた穴に落ちている。この状況に思考が追いつくまでに時間が掛かってしまったが…間違いなく落ちている。


「うわぁぁぁぁぁああああっ!!」


 ようやく出せた声は、穴の中に虚しく響き渡る。

 今頃、穴の付近に誰かが来て俺に気付いたとしても、何もしようがあるまいに。俺は必死に両手をバタつかせる。何か掴むものが、いや、掴まるものがあれば……。


 !?


 左手に(ひそ)かに感じた暖かさと、触り慣れた布地の感覚が伝わる。


 ……これは…?


 俺は暗闇の中で、急降下している自分を一瞬だけ忘れ、左手に掴んだモノを目元に持って来る。


 ……なんだ、これ?


 白い生地なのだろう。目元で少し明るく感じる。肌触りからして、シルク生地っぽくも感じるが定かではない。

 視線に神経を集中し、細部まで見るようにしっかりとそのモノを確かめる。よく見ていくと、生地の端の方に色までは分からないが、蝶々の刺繍と、「A.T」の文字。


 ……A.T?何かの頭文字(イニシャル)かなんかか?


 俺は、なおも目を凝らしていたがその他に何も見つけられなかった。

 しかし、いつまで落ち続けるのか。すでに相当な時間落ち続けている。まさかとは思うが、このまま反対側に……

 なーんて、地球の中心にコアがある以上、反対側に出られる訳が無い。淡い期待は瞬殺される。


 すると、不意に落下先から白い光が差し込み始める。

 どんどん近くなり、なんとか開けていた視界すらも覆い尽くすほどの眩い光は、そのまま俺を呑み込んだ。


 目を閉じてから、さほど時は経っていないだろう。俺はゆっくりと目を開ける。意識があるという事は、恐らくまだ死んではいないと頷ける。

 そんな思考を回している脳内に更なる情報が飛び込んでくる。俺の視界に広がる大草原。そこには遮蔽物(しゃへいぶつ)などが一切なく、あるのはただただ何処までも続く緑の世界…

 さらに、視界は上空を写す。雲ひとつ無い青い空が広がっている。俺は今、青と緑の狭間に立っていた。



 だだっ広い草原を見渡すくらいしか出来ない中、あるものに気付く。というか、なんで今まで全く気付かなかったのかと思うくらいだ。


 ソレは、俺の目の前にあり、豪華な装飾を施された金色の玉座に腰掛けていた。


 ーようやく、(わらわ)に気付いたようじゃの…ー


 広く続く大草原と青い空。更には目の前に突如現れた謎のソレ。脳みそが幾つあろうがまかないきれないほどに思考が追い付かない。俺は呆気に取られすぎていた。


 ー…ふむ。まぁ、無理はなかろうな。穴に落ちたかと思えば、見ず知らずの場所で、更にはこの様な面妖なモノまで見えているのだからな。同情はせんがな。ー


 ソレはそこで一旦言葉を切ると、スっと立ち上がる。

 何故だ。こんな受け入れ難い状況で且つ、明らかにこの世のものとは思えないソレは、立ち上がりこちらに歩み寄ってくる。

 恐いなんて言う感情ではない。まるで全てを受け入れるかのごとき柔らかさと暖かみを放ち、尚も神々しいと言う言葉が妥当だろうとさえ思わせる。

 俺の目の前に辿り着いたソレは、再びその麗しくも小さく透き通るような紅い紅がひかれた口を開く。


 ー桐ヶ(きりがさき) 咲人(さくと)よ。ソナタをココへ呼んだのには、訳がある。これから先のソナタの人生、運命、その他諸々は妾が握っていると言っても過言ではなかろう…。

 が、ソナタの行い次第ではそれ等全てはまた…ソナタのものとする事も可能じゃ。

 ただし、簡単では無いぞ?妾の望みと共に生き、その望みを成就出来たなら…じゃ。どうじゃ?引き受けて見ぬか?…この、妾。天照(アマテラス)の願い、叶えてはくれぬかの?ー


 天照と名乗ったソレは、そこまで言葉を紡ぎ終えると、両手で俺の顔を持ち上げ、視線を合わせる。

 俺の視線に映る天照は、とても妖艶な様でいて、幼くも見え、けれどその圧倒的な存在感は、やはり神…と言うしか無いほどのものがあった。

 昔から、神や仏などはもちろん霊などの存在し得ないものを信じる事は無かった。目に見えないものに(すが)ったり、怯えたりする時間が無駄だと思っていたからだ。が、あろう事か目の前のソレは、自らの口で己を天照と名乗ったのだ。天照と言えば、日本の神の1人である。

 (にわか)に信じ難いこの状況で、俺の思考はついに考える事をやめた。挙げ句、口角を持ち上げて喜怒哀楽のぶち壊れた様な笑い顔を作り出した。


 ーふむ…。状況を呑み込めず、思考すらも止めてしまったか。まぁ、妾とて鬼ではない。ソナタが望まぬならそのまま、元いた世界に返す事も容易い。そうなればまた、別の依り代を待つだけじゃからな。どうするのじゃ?…いつまでも、不気味な笑みを浮かべておらずに決心せよ…。ー


 真っ直ぐに見つめる瞳は吸い込まれる様に透き通った真紅の眼。髪は黒く時折見える赤と白の髪。全体に艶があり、長さは腰程までだろうか。

 着物の様な、羽衣のような。何とも言い表せない布を纏い、時折見える白い柔肌に興奮すら覚える。

 だが、今の俺には状況を呑み込み切れる術がない。何とかして、我に戻らなければ会話すら成り立たない。

 俺は全力で拳を握り、自らの頬を力任せに殴りつけた。


 ーなんとも、荒療治な事か…。そんな事をせずとも、妾が何とかしてやったのに…。同情はせんがな。ー


 半ば呆れ顔の天照。いや、神様なんだから天照様か。

 ともあれ、何とか我を取り戻す事に成功出来た俺は、今一度辺りを見回したあとに、目の前の天照を見据える。


 ー…ようやく話が出来そうじゃな? ー


 天照は、真剣な眼差しを取り戻した俺を見つめると小さく頷きを2回。その後に、また口を開く。


 ーなーに。簡単な話じゃ。危うく召されそうであったソナタを、妾が救ってやった…。じゃから、妾の力でソナタを別の世界でやり直させてやろうと言う粋な計らいじゃよ。ソナタにも悪くは無い話じゃと思うがの。ー


 天照は言葉を紡ぎ終えると、人差し指を顎に当て唇を尖らせてみせる。まるで何かを考える子のように。


「……俺は、死んだ…。のか?」


 今まで天照が投げかけてきた言葉はなんだったのか。そんな事を思わせるような俺の言葉だが、俺には一番大事な部分だった。


 ー…ふむ。はぁ…思考を取り戻したかと思えばそんな事か。とは言っても、今のソナタにはその事実が一番大事と見える。ー


 天照は、ウンウンと何かを思い出したかのように2回ほど頷くと、俺をしっかりと見据え、


 ー…率直に言おう。ソナタは妾の願いを叶える為、死ぬ。

 言うなれば、妾の為に死にに来たとでも言うべきかの。ー


 天照の言葉には嘘だと言いたい気持ちを抑え込ませる程の何かがあるというのだろうか。俺には言い返す事も出来ずに、ただただ天照の透き通るような紅い瞳を見つめ続けるだけだった。


 ー…ふむ。まぁ、案ずる事は無い。この後ソナタを送る世界でまた生きる事が出来る。ただし、その世界にはその世界の理と宿命がある。ソレを切り抜けねばならんのじゃが…。ー


 天照は、一息つく。

 再び……


 ーじゃがな。今回ソナタを送るためには、ある契りを妾とせねばならぬ。その契りとは、これから送る世界である国の為、ソナタの命をかけてでも守り抜いて欲しいのじゃ。この願いをソナタ自信が受け入れてくれるのであれば、すぐにでも儀式を執り行うつもりじゃ。……ともあれ、死ぬだの生きる事が出来るなどと言った手前、命をかけてくれ。とは、ちと矛盾もあるが故に申し訳なくも思う…。が、同情はせんがな。ー


 ……同情しないのはよく分かった。

 俺は、自分の両手を見つめる。現世での記憶を頭の中で回想しながら、ふとある所で目を見開く。


「ひとつだけ、聞きたい事がある。天照…様はさっき、俺がダメなら別の依り代を、って言ってたよな。それって俺以外にもここに来た事がある奴がいるのか?」


 現世で、必ずと言っていい程頭をよぎっていた事を確認する。


 ー…?面白い事を聞くのだな。じゃが、ここに来たのはソナタが初めてじゃ。何か、思い当たるフシがあるのかの?ー


 天照は少し首を傾げた素振りをした後に、俺の左手に握ってる物に目がいった。


 ー…ところで、ソナタがここに来た時から持っているソレ。ソレは一体何なのじゃ?ソナタの探しているモノの手掛かりになるものか何かか?ー


 天照は、俺が左手に掴んだモノを手に取ると両手で上に持ち上げ、拡げる。


「…ソレは、俺がここに来る途中に拾ったものだ。」


 恐らく、ここに来る経緯などは天照に説明しなくても分かるだろうと、半ば省略して伝える。


 ー…ここに来る途中…でか。ふむ。となると、既にあやつ側に…。ー


 天照は、一瞬真剣に何かを考える様な素振りをすると、また笑顔を顔に貼り付けて口を開く。


 ーまぁ、コレはソナタの物として。して、探しものとはどの様なものなんじゃ?差し支えなければ言うてみるがよい。ー


 俺を笑顔で見つめる天照。と、同時に左手に布キレを握らされる。俺は戻された布をもう一度見る。


「探しもの…じゃない。探し人…だ。俺の知り合い。」


 俺は布を握り締めながら、天照を見つめる。相変わらずの笑顔のまま天照は此方を見つめていた。


 ー…人のぅ。まぁ、妾も全知全能ではないが故にわからぬ事もある。すまぬが、ソナタの探し人がどこでどうしておるかまではわからぬ。ー


 天照は、苦笑とも取れる笑顔に顔つきを変えていた。確かに、俺にしか知らぬ人にその人の事を聞くのもどうかと思った俺は、そのまま首を横に振り笑顔を見せるように天照を見つめる。


「……いや、そりゃそうだよな。無茶振りだってのはよく分かってる。……さて、どっちにしたって俺は、現世で死ぬか、コレから行く先で生きるか。だったな。

 正直、俺なんかに人生のやり直しがきくもんならやり直しをしたい。それをさせてくれるってんなら、……覚悟は決まった。」


 あぁ、なんて頭の弱い事か。見ず知らずの妖艶幼女に何を厨二病まがいのセリフを投げているのか。自分でもよくは分からない。けれど、現世での記憶と天秤にかけられた新世界での人生。そこに少なからず魅力を感じたのは確かである。

 俺の言葉を聞いた天照は、口元を優しく緩め柔く笑みをつくると、


 ―ふむ。先程よりも瞳の奥に力が籠っておるようじゃな。

 されど、良いのか?ソナタが現世で受けた試練よりも過酷かも知れんぞ?……それでも良いのであれば、瞳を閉じるのじゃ。―


 俺は天照に言われるがままゆっくりと瞼を閉じる。

 しばらくすると、フワリとした艶やかな香りの後に、至る部分から感じた柔らかい感触と優しい温もり。何度か目を開けそうになったが、その度に天照の声が頭に直接響いてきた。


 ―開けてはならん。…じゃが、もうしばしの辛抱じゃ。ソナタならば成し遂げられる。そのまま静かに待っておれ。―


 目を瞑らされてからどれほど経っただろうか。どれほども経っていないかもしれないし、もの凄く時が経過しているのかも知れない。だが、少なからず俺の身体に感じる感覚は未だにソレを受け入れ続けている。


 ―…ふぅ…。後は最後の儀式のみじゃ。まだ目を開けてはならぬぞ。…それから、コレはソナタとこうして繋がった事で妾にも分かった事じゃが…。

 ……無理をせずとも良い。この先、ソナタに何があろうと、妾の加護が傍におる。妾の意志のもと、ソレはソナタの母のように、ソナタの伴侶のように、ソナタの近しい友人のように、ずっとソナタを支え寄り添ってくれる。じゃから、咲人よ。自分を。己自信を強く持つのじゃぞ。―


 !?


 頭に響いていた天照の言葉が途切れた瞬間だった。今まで青春系漫画なんかでは見た事があるが実際にした事は無かった。俺の唇に感じた柔らかく熱い感覚。これはもしかしたらと目を開けそうになる。が、今回は天照の声が響いて来ない。そうこうしているうちに、重なった柔らかいモノが俺の上唇と下唇を掻き分け口腔内に忍び込む、と、同時に何やら丸い物体が舌触りから感じ取れたが、俺の身体は余りの出来事に対応し切れず、そのまま舌から喉奥へと丸い物体を押し流す。


 …ゴクリッ。


「ブハッ!!な、なな、なななにをッ!!」


 気が動転しているとはまさにこの事。とはいえ、仕方ない反応ではある。まさかのファースト・キスを目の前の妖艶幼女に奪われた挙句、まさかのディープ・キスからの得体の知れない物体を口移しされたのだ。


 ―……ソナタ。何か勘違いしておらんか?ソナタのせいで指がヌルヌルじゃわい。……まさか、接吻(せっぷん)か何かだと思ったのではあるまいな?―


 天照は、着ていた着物の袖口から1枚の布を取り出して自分の右手を拭いていた。俺は、落ち着いた思考回路で全てを理解すると同時に、必然と顔が熱くなるのに気づいた。


 ―まぁ、勘違いなどは誰にでもある事じゃ。気にすることも無かろう。それに、今しがたソナタに呑ませたものは、必ずソナタの力になる。日輪の珠玉。―


 天照は、左手を拭いていた布を袖に戻し俺へと視線を投げる。


「……日輪の、珠玉…?」


 半ば強引に飲み込んだので、まだ喉への違和感を抱えたまま涙目で天照へ視線を合わせる。視線が合った事に気づいた天照は、コクリと1回頷くと再び艶めかしい唇を上下に開き言葉を紡ぎ出した。


 ―日輪の珠玉。天照大神としての力の根源たる日輪の宝玉から創り出したもので、その力は妾の1部。使い方を間違えはしないであろうと信じてはおるが…。ただ、ソナタをコレから送る場所では必ず必要になるであろう。

 良いか、咲人。ソナタに1つだけ忠告をしておく。今後、何があろうとソナタ自信、自分を見失う様な馬鹿な真似はするでないぞ。ソナタの今までは無駄ではなかったはずじゃ。コレからをよーく見つめ直すのじゃ。さすれば、日輪の珠玉が必ずやソナタを導き、力になるはずじゃ。

 さて、長くなったが儀式は終わりじゃ。必ずや、国を守り抜いて見せよ。導かれし者よ。その力、妾に示すのじゃ。―


天照が言葉をつむぎ終わるか否かの所で、俺の身体がココに来た時同様、眩い光に包み込まれ始めた。俺は口を開くが、言葉が出ない。いや、声が出ない。目の前の妖艶幼女は優しい笑みを浮かべている。俺はただ見つめることしか出来なかった。何故だろう。妖艶幼女は、笑みを浮かべながら涙を流していたようにも見えたのは……


アレは……


気の所為だったのだろうか……


やがて、意識は遠のき始め、視界は黒一色に染まっていた。

長文、お疲れ様でした。

最後までお読み下さりありがとうございます。

まだ、Sad Warの始まりでしかありませんが、次回を楽しみにして頂けたら光栄です。

少しずつではありますが、連載していきますので長く暖かい目で見守ってやってください。

文章などおかしい所ありましたら、ご指摘お待ちしております。

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